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第十七話 なぜ派閥ができるのか?


「……やれやれ」


 二人を見送ったグリーフは深々とため息をつくと、五軍の皆は、まるで何も起こっていないかのような態度で作業に戻り始めた。


 作業のない四軍の面々はというと、手持ち無沙汰そうに散らばっていく……いや、散らばるというより、四つに分かれたと言うべきか。


 私は私でため息をつき、グリーフの隣に座り込んだ。最近は、こうやって二人になることが多い。グリーフの評判はトムよりも良いので、こちらの方がまだマシだ。


「しかし、相変わらず、トムとカイセドは仲がいいね。四軍の死云々っていうのも、トムなりの冗談だったんだ」

「おいおい、あれが仲良く見えるのなら、お前もまだまだ純情だな」

「え?」


 私が首を傾げると、グリーフはやれやれとため息をついた。


「死云々は冗談じゃないぜ。なんなら薬草茶に毒を盛ってる可能性だってあるくらいだ」

「……いやいや、そんなこと」

「ま、確かにカイセドはないか。あいつはトム隊が昇格する上でキーになる奴だしな。あいつがカイセドに媚びまくってるのも、全ては昇格のためだし、殺すなら他の派閥の連中だろうな」


 ただでさえ暗い気分だったのに、グリーフの言葉に追い打ちをかけられる。


「昇格、かぁ」

「……おいおい、お前まで昇格したいとか言い出さないよな?」

「まさか。それはあり得ないよ」


 私が首を振ると、グリーフはホッと胸をなで下ろす。昇格したくない派のグリーフとしては、トムと私に徒党を組まれるのは非常に困るのだろう。


 しかし、安心してほしい。昇格したくない気持ちなら、私はグリーフにも負けない自信があるのだ。


 勇ましい大群(ブレイブ・ホード)は、多層式によってカーストごとにダンジョンを潜るのは前述の通り。そして、私が勇ましい大群(ブレイブ・ホード)に救われた第五層は、元五軍指揮官(キャプテン)のカイセドが言う通り、勇ましい大群(ブレイブ・ホード)の五軍の領域だった。


 つまり、私を救ったあの群れは、勇ましい大群(ブレイブ・ホード)の“五軍”だったのだ。


 私を救ってくれて、私が一緒に群れたいと心の底から思ったのは、あくまで勇ましい大群の“五軍”。実際、あの時私を救ったメンバーのうち百三十二名が、現在も五軍に所属している。


 さらに言えば、勇ましい大群のカースト制は、三角形の人数分布を取る。一軍の人数が一番少なく、五軍の人数が一番多い。一つ上の四軍ですら、五軍の半分にも満たないのだ。


 私は、二百二名ほどの超巨大な群れを形成し、魔物に打ち勝つ勇ましい大群の五軍に憧れて、このパーティに入団したのだ。昇格することによって、金、地位、名誉が手に入ると言われても、そんなものより五軍で居続ける方が、私にとってよほど価値がある。


 ……それに、ダンジョンを深く潜れば潜るほど、あの魔女に近づくというのも気味が悪い。


「絶対に、昇格なんてしたくないよ」

「だよな。昇格なんてコスパが悪いぜ。第五層以降は魔物のレベル自体上がるのに、同じゴブリンを倒したら同じ報酬ってんだから馬鹿げている…しかし、安心したよ。最近のお前は派閥アンチがすごいから、てっきり四軍に上がる気になってるんじゃないかって思ってな」

「……え? 四軍に上がったら派閥を無くせるの!?」


 グリーフはしまったという顔もつかの間、無表情を取り繕って肩を竦めた。


「いや、できるかって言うと難しいだろうな。ただ、五軍にいるよりかはどうにかできるんじゃないか? 例えば、カイセドを押しのけて派閥のリーダーになって、そっから他の派閥のリーダーをぶっ潰して、派閥の統合をするとかな」

「……なるほど」


 確かに、カイセドもユルーもヌネスもニーナも、全員が四軍の人間だ。

 五軍が四つの派閥に分かれてしまっているのは、一つ上の先輩である四軍の団員たちが、四つの派閥に分かれているから……筋は通る。


 ならば、どれだけ五軍の中の派閥間の溝を埋めたところで、四軍の派閥間の溝が埋まらなければ、五軍もそれに影響され再び溝が生まれてしまう、ということか?


 ……改革するなら、四軍から、か。


「ま、その統合された派閥の中で、また派閥ができちまうんだろうけどな。実際、今の四大派閥も、そういう流れでできたみたいだしよ」


 しかし、だからと言って私が四軍に上がってしまっては意味がないと思っていたところに、冷水をかけられる。グリーフの方を見ると、彼は肩を竦めた。


「……何で、派閥、なんてものができてしまうんだろうね」


 私が思わず呟くと、グリーフは「うーん、んなこと、考えたこともなかったな」と唸る。


「そうだな。まぁ、例えばだけど、俺とお前って仲良いだろ?」

「あ、うん、そうだね」


 正直否定したかったけれど、流石にできない。

 

「あいつとは?」


 サイックスが指差したのは、別のテントを組み立てているユルー派のクリスだ。


「……まあ、悪いわけじゃないけど」

「いいわけでもないだろ? こうやって大勢で集まると、どうしても仲のいいやつと仲の悪いやつが出てくるだろ? 仲のいいやつとばっかりつるんで、仲の悪いやつらとの関わりを避けていくうちに、その集団の中で“区切り”ができてって、やがて派閥になるんじゃないか?」


 ……しかし、そんなことを言い出してしまえば、どうしたって派閥ができてしまうと言うことになるじゃないか。


 私はなんとか反論できないかと考えて、入団時のことを思い出した。


「でも、俺たちは、入団したてで全然仲良くない時のトムに誘われてカイセド派に入ったよね? 何で仲のいい群れに、まだ仲が良くない俺たちを入れたんだろう?」

「んー、ま、最初のうちは仲良しグループだったけど、そのうち、派閥ってもの自体が大事になって、派閥を存続させること自体が目的になっていくんだろうな」

「……え、なんで?」

「派閥でいることにメリットが出てくるからだろ。まさしく昇格投票がそれの代表例だ。それだけで、四、五軍の最大派閥であるカイセド派にいる理由になるんじゃないか?」

「…………」

「うーん、まあ、納得行く感じでもないか……派閥ができる理由にも戻るが、単純に、俺たち人間って生物が、分けたがりってところはあるかもな」

「……は?」


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