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第十五話 多層式。

 

「多層式は…ぐるるぅ…上軍の方々に魔物のいないダンジョンを快適に…ぐるるぅ…潜行していただくことが目的だ…ぐるるぅ…取り残しは許されないぐるるぅ!」

「は、はい!! 申し訳ありません!!!」


 あの魔女の作ったダンジョンは、他に現存するダンジョンと比べるとあまりに巨大だが、それでも七百二十二名がまとまって動くには手狭なところもある。


 そこで、『勇ましい大群(ブレイブ・ホード)』の上層部は、ダンジョン攻略においてこの数の利を活かせないかと考えた……というより、その方法を先行して、これほど巨大な組織を作ったというのが、正しいか。


 多層式。一度死んだ魔物をあの魔女が補充するまでに、平均五日はかかることを利用したダンジョン攻略法だ。

 まずは、『勇ましい大群(ブレイブ・ホード)』の団員を、戦闘員としての実力で一軍〜五軍に分ける。それこそ階層が深くなるほど魔物が強くなるダンジョンと似ているが、パーティの場合、最下層の五軍が弱くなる構造だ。


 その最下層で最弱の五軍が、まずは単独でダンジョンに潜り、ダンジョン上層の弱い魔物をしらみつぶしに討伐し、あらかじめ決めていた制限時間を迎えたら休憩所を建てる。


 四軍の冒険者は制限時間までダンジョンの外で待ってから、五軍によって魔物が間引かれたダンジョンを潜る。そして、五軍が到達できなかった階層に入れば、五軍のように魔物を狩りながらより深く潜る。

 制限時間まで潜ったら、やはり休憩所を設営し、ドロップアイテムを拾いながら五軍が設営したキャンプへ戻る。


 これを五日間のうちに行うことによって、勇ましい大群(ブレイブ・ホード)の主力中の主力である一軍の冒険者が、魔物相手に無駄な体力や魔力を消費することなく、より深い階層にたどり着けるというわけだ。


 この攻略法によって、勇ましい大群(ブレイブ・ホード)は、アレルヤの冒険者パーティの中で圧倒的な利益を上げている。その利益の大半は一、二軍と運営が持っていくので、我々五軍の稼ぎは大したものではなく、その五軍二百二名の中で二百二位(さいかい)の私たちの給料は、ゴブリンの涙程度のものなのだが。


「ぐるるぅ…あと少しで、三軍の方々も到着される…ぐるるぅ…それまでに、必ずや設営を終わらせろぐるるぅ!」

「は、はぁい!」


 するとトムが、私の耳元でこう言った。


「あいつ、普段はめちゃくちゃ流暢に喋るんだよ」

「え、そうなの? それじゃあなんで、あんなぐるぐる言ってるの?」

「ほら、あいつ豚の獣人でしょ? オークって言われるのが嫌だから、犬感を出したいんだよ。あと、単純に後輩をビビらせようとしてるってのもあるね」

「ふぅん……」

「ぐるるぅ…こう言うちょっとした小さなことが、いつしか大きな問題を生み出すのだ……例えば、ゴブリン一匹を、弱いからと見逃したら、数年後ホフゴブリンになっていっぱいのゴブリンを連れて帰ってきた、みたいな感じのあれ、話だ……ぐるるるるるるっ!!!」

「はっ、はい! ももも申し訳ありません!!!」

「あ、すごくビビらせようとしてるね」

「いや、あれは、自分の例えがいまいちみんなに刺さらなかったから、ぐるるぅ言って押し切ろうとしてるんだ」

「へぇ。便利だね、ぐるるぅって」

「かなり無茶のある使い方だけどねー」

「…ぐるるぅ…ぐるるぅ……ぐるるるるぅ!」

「あれは?」

「あれは、思ったより自分の言ったことが皆に刺さらないもんだから、ショックで頭が真っ白になって次の言葉が出てこないのを誤魔化してるの」

「へぇ、すごいね。まるでカイセド博士だ」

「……それ、嫌なんだけど」


 すると、説教を終えたのか、カイセドがこちらに視線をやった。


「……はぁぁぁぁぁぁぁ」


 顔をグニグニ手でこね始める。出来上がったのは、顔全体の筋肉を余すことなく利用した満面の笑みだった。


 カイセドが私たちの方へと歩み寄ってくるので、私とグリーフは直立不動で出迎える。


「カイセドにゃ〜ん!」


 そんな中、トムは甘ったるい声をあげながらカイセドのヒシと太い腕に抱きついた。

 先ほどのカイセドとサイックスのやりとりから、五軍と四軍の間に圧倒的な身分差があるのは分かることだ。こんな馴れ馴れしくしたら、殴られたっておかしくない。


「ぐるるぅ…トム、くっつくな。潜行中なのだぞ」


 カイセドの目は相変わらず線状だが、その声のトーンはどこか落ち着いたものに変わっていた。


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