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第十四話 巨大パーティの最下層。


「もう、本当にあり得ない!!!」


 我々はいつも通り、ドロップアイテムを回収する班と、第四層の空地に休憩場を作る班に別れて行動することになった。私たちトム隊は後者の班なので、協力しあって休憩用のテントを張っていた。


 第四層は第五層のような箱庭型(オープン・ワールド)ではないので、偽物の太陽もなければ、雨が降ってくることもない。果たしてテントが必要なのかと言う疑問はあるのだが、皆で共同作業をすること自体は大好きなので、非常に楽しい時間の一つだ。

 一仕事終えた後とあって、私だけではなく皆も楽しそうにしていることが多いのだが、今日はそうでもない。


 先ほどの揉め事が、尾を引いているのだ。


「ブライト隊のやつら、絶対に許さない! カイセドに言いつけてやる!」


 その争いの発端となったトムは、魔物の皮で作った伸縮性のある皮袋に口を当て、怒り任せに息を吹き込む。簡易のベッドを作っているのだ。


「おいおい、落ち着けよ。お前がドロップアイテムをパクろうとしていたのは事実なんだから、逆に追求されるぞ。有耶無耶にしといたほうがいい」

「だからあんなの冗談じゃんか! だいたいそんなの証明のしようがないし!」

「ああ、俺たちがユニークスライムを奪われかけたってことも、先に俺たちがユニークスライムを見つけたってこともな」

「……ぐぬぬ」


 トムは納得がいっていないようだが、私はグリーフの意見に全面賛成だ。これ以上揉めるようなことがあったら、本格的に群れが分裂してしまう。


 トムは皮袋の入り口を閉めて、出来上がったベッドをぽんぽん叩いた。


「はぁ〜。一刻も早く()()に上がりたいなぁ〜。なんか()()には居にくくなっちゃったし」

「おいおい、それ実質、四軍の奴らに死んで欲しいって言ってるようなもんだぜ?」

「え? うん、そのつもりで言ったんだけど?」


 顔を上げトムをマジマジと見ると、トムはきょとんと小首をかしげる。私とグリーフは顔を見合わせ、肩をすくめた。


「やれやれ……どうやらその四軍の連中がきたみたいだぜ」


 グリーフの言う通り、この階段前の拓けた場所へとつながるルートのうち、一番道の広いルートから、総勢百二名の冒険者の群勢が姿を表した。


 私たちは一斉に気をつけすると、身体を直角に折り、腹から叫んだ。


『おはようございます!!!』


「……ぐるるぅ。第四層、か。私が五軍の時は…ぐるるぅ…最低でも第六層に休憩所を構えたものだが…ぐるるぅ」


 その群勢の先頭に立つのは、カイセド。マインやブライト隊と同じ獣人だが、彼らとは違ってぽっちゃりしていて、頭含めて毛は薄い。


 獣人の中でも、豚の獣人という特殊な種族らしいが、どう見てもオークにしか見えない。しかし、彼にオークに似ていると言おうものなら、死ぬ寸前まで殴られるらしい。


「カ、カイセド先輩! お早いご到着で!」


 サイックスがすぐさまカイセドの元へと向かう。カイセドは、ふくよかな体をぐるりと回転させると、深々とため息をついた。

 そして、サイックスの腹に、拳をめり込ませた。


「ッッッ!……ご指導ありがとうございます!」


 サイックスはすんでのところで悲鳴を抑えると、膝から崩れ落ちながら礼を言う。

 先輩からの“指導”があった場合、悲鳴を上げてはいけないと決まっている。指導があくまで指導であり、暴力ではないから、という理屈らしい。


「ぐるるぅ…なぜ、まだ休憩所の設営が終わっていないのだ? まさか、第四層は直射日光がないから、テントは貼らなくていい、なんて、甘ったれた考えをしているのではないだろうなぐるるぅ! 休んでいるときに天井から鍾乳洞の水滴が落ちてこようものなら、殺されるぞぐるるぅ!!」

「へ、へへへ、ま、誠に、も、申し訳ございません」


 ガクガクと膝を震わせながら、ペコペコと頭を下げるサイックス。そんな彼を冷笑するものもいるが、仕方のないことだと思う。

 サイックスは、勇ましい大群(ブレイブ・ホード)()()の指揮官。

 ()()の指揮官のカイセドとは、天と地ほどとまでは言わないまでも、明らかな格差があるのだ。


「魔物の狩り残しも多かった…ぐるるぅ…最近の五軍、緩んでいるのではないか」

「そっ、そうでしたか! それは、大変申し訳ありません!!!」


 『勇ましい大群(ブレイブ・ホード)』。

 その名の通り、数ある冒険者パーティの中で、圧倒的な所属人数を誇る。

 その数、()()()()()名。

 そう、私たち”五軍”の冒険者総勢二百二名は、あくまで勇ましい大群(ブレイブ・ホード)の一部なのだ。



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