第十二話 派閥闘争。
サイックス隊に続いて、トリッソ隊にナード隊がやってくる……私たちを含め、全てカイセド派だ。トムがすかさず叫んだ。
「サイックス、助けて! こいつら、ボクたちからユニークスライムを奪おうとしてるの!」
「何だと!? これだからユルー派は……!」
サイックスは怒りに肩を震わせ、勢いよく抜刀した。他の隊も即座に戦闘態勢をとると、ブライト隊はすぐさま構えをといた。群れの力を前にしては、戦闘能力の高いブライト隊でもどうしようもないというわけだ。
「おい、ブライト隊! どういう状況だ!」
しかし、その後ユルー派の隊が合流すると、再び状態は膠着する。
その後も、続々と隊が合流し、いつの間にか、四つの集団が、私たちを中心に睨み合う。
カイセド派。ユルー派。ヌネス派。ニーナ派。
私たちは、隊とはまた違う、『派閥』と呼ばれる四つの集団に分かれていた。
『派閥』……正直言って、私はこの区分についてよく理解していない。
ダンジョンでいうところの『兄弟』と言ったものに似ているが、彼らは同じ日の血から生まれたわけでもない。
隊のような戦闘上の都合で作られたものとは違い、勝手に出来上がったものらしいが、なぜだか異様に繋がりが強い。繋がりが強い群れは、得てして排他的だ。
そんなものが『勇ましい大群』にいくつもあるというのは、あの完璧な連携を見てこの群れに入った私としては、どうしたって受け入れられない。しかし、現状そう思っているのは私だけのようだ。
「魔物は、第一次発見者に狩る権利がある! ユニークスライムはカイセド派のものだ!」
「そいつが盗みを働こうとしていたとなったら、話は別だろ?」
「盗み!? ああ、これだからカイセド派は! 汚い手ばかり使って派閥を大きくしているだけある!」
「なんだと!?」
「実際そうだろ! 俺たちユルー派を裏切ったくせに!」
「最初に獣人以外の種族を冷遇し始めたのはユルー派だろ!」
「それは我々の戦闘能力が純粋に高いからだろ! 強いものが優先されるのは当たり前のことだ! トム隊のような男娼隊が所属できる派閥にはそんな常識は通用しないのかもしれないがな!」
「おい! トム隊と一緒にするな! 俺たちの記録帳にお前らユルー派の名前を刻んでやろうか!!」
「はっ、お前らカイセド派の記録帳には、仲間の名前しか刻まれていないって噂はどうやら本当らしいな!」
「いい加減にしろ! なぜお前らはそうやってすぐに人を傷つけようとするのだ! ニーナ様がこのような場を見れば悲しまれるぞ!!」
「黙ってろこの気狂い信者ども!」
「なんだと!? ぶっ殺すぞ!!」
「まぁまぁ、ここは俺たちヌネス派の顔を立ててもらおもうか。今まで様々な面でお前たち三派を助けてきたんだから、今回くらい美味しい思いをさせてもらわなくっちゃな」
「顔を立てて、くるくるくるくる、風見鶏みたいに回転しやがるお前らの顔を、どうやって立てろっつーんだよ!」
「おいお前ら、まだ全ての魔物を倒したわけじゃないんだぞ! 血も魔力も大分まき散らかしたし、崖の上に巣食っている魔物たちが降りてくる! 喧嘩している暇はないぞ!」
グリーフの叫びも虚しく、言い争いは激しくなっていく。激情は魔力の漏出を助けて、殺意まみれの魔力に、頭がクラクラしてきた。
「ああ、これが、私が憧れた群れの姿か?」
これ以上、こんな姿は見たくない。なので、私は自分の内側に入って、サイクロプスとの戦いまで待つことにした。ダンジョンではそれが日常だったし、幸運なことに? ここはダンジョンだ。
私は目を瞑り、彼らの言い争いが聞き取れないくらいに暗闇の先の“無”に埋没した。