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勇者祭  作者: 牧野三河
第五十八章 太夫とサカバヤシ流

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第865話


 魔術師協会、居間。


 小赤を交えての朝餉の時間。


「イザベルさんは、この後どうします?」


「本日はみっちりと依頼をこなそうかと。

 しばらく冒険者仕事がまともに出来ませんでしたゆえ」


「そうですか。では、時間があったら帰りに寄って下さい。少し見てあげます」


「ありがたき幸せ!」


「クレールさん、朝どうします? 朝稽古に来ます?」


 クレールがちらっと小赤を見て、


「私は読書にします!」


「ん、分かりました。小赤さん」


「はい」


「もう解決しましたけど、すぐ帰りますか? 帰るなら送りますよ」


「・・・」


 小赤が箸を止めて、じっと椀を見つめる。


「私、朝稽古を見たい」


「朝稽古をですか?」


 これは意外。

 皆が驚いて小赤を見る。


「見たいの。剣術なんて、見た事もなかったから」


「そうですか。では、私達と一緒に行きましょう」


「ありがとう」


 クレールが手を挙げて、


「では私も稽古に行きます!」


「分かりました。おっと、そうそう。忘れる所でした」


 マサヒデが床の間から未だもやを垂れ流すタマゴを取って、


「これ、私とマツさんの子なんですよ。

 ほら、テルクニ。小赤さんに挨拶して」


 ぽんぽん、とマサヒデがタマゴの頭に手を乗せる。


「・・・」


 小赤が目を丸くしてタマゴを見る。

 にやりとマサヒデが笑って、


「驚いたでしょう? 皆驚くんです」


「魔獣のタマゴだと・・・何か貴重な・・・」


 くすくすと皆が笑う。


「いいえ。中には赤子が入ってるんですよ。もう人の形をしてるんです」


「その、黒い・・・何と言うか」


「これは、すごい魔力が漏れて出てるんです。

 マツさん、実は大魔術師で、元王宮魔術師です。

 その魔力を受け継いでるんですよ」


「えっ」


 小赤が驚いてマツを見る。

 くす、とマツが笑った。

 マサヒデも笑って、


「やっぱり知りませんでしたね。この町では凄い有名人ですけど」


「マサヒデ様ほどではありませんよ」


「ふふふ。こうして歓楽街から出られたんです。

 夕方までしかありませんけど、今日は歓楽街の外を色々見ましょう」


「はい」


「ところでマツさん、マツさんが王宮で友達だった太夫さんって、誰なんです」


「リンコさんです。現役時代は囃野っていうお名前だったんですよ」


「囃野・・・」


 小赤が目を丸くした。

 何代目であろう。この国一番の太夫に受け継がれる名ではないか。

 その名は代々継がれているが、安い太夫は1人も居ない。


「小赤さん、知ってます?」


「はい」


「マツさん、歌とか踊りとか、その方に習ったんですって。

 茶飲み友達だったとか何とか」


「マサヒデ様、茶飲み友達なんて、老けて聞こえますからやめて下さいな」


「老けては見えませんけど、この中では一番年上でしょう? ははは!」


「もう! 怒りますよ!」


「ははは! やめて下さい。マツさんが怒ると、町が消えます」


 クレールが小赤の袖をつんつん引っ張って、


(町が消えるって、冗談じゃないです。気を付けて下さい)


「・・・」


 小さく囁き、さ、とクレールが戻って椀を取る。

 こくん、と小さく小赤の喉が鳴った。



----------



 冒険者ギルド、訓練場。


 マサヒデの朝稽古についてきた小赤が、隅っこにぽつんと座っている。


「違う! 回して、回して・・・ここ!」


「はい!」


 すたすたとマサヒデが歩いて行く。


「槍相手はこう! 手本を見せます。突いて下さい」


「はい!」


 しゃ! と突かれた槍が、すぱんと外に弾かれる。


「ゆっくりやります。横にして、上げて、こう縦にする。

 たったこれだけの動き。やってみて下さい」


「はい!」


「そう! そのまま踏み込む!」


「ふっ!」


「そうです!」


 マサヒデが歩いて行く。

 小赤がカオルの方を見る。


「甘い! それでは斬れません!」


「はい!」


「もっと! 重さ! 速さ!」


「はい!」


「重心を崩さない! もたれかかってはいけません!」


「はい!」


 凄い勢い。

 凄い迫力。

 これが剣術の稽古。

 離れて見ているのに、押し潰されそうだ。


 ぼーっと口を半開きにして眺めていると、


「ちっ、ちっ」


 あっ。小赤が横を見ると、爪楊枝を咥えた浪人が立っていた。

 いつの間に・・・


「ちっ、しーっ・・・ね、凄いね」


「はい」


「あんたあ、見学?」


「はい」


「見学はここに座ってれば良いの?」


「さあ・・・私は見るならここで座って見ていろと」


「そうか。じゃ俺も」


 笠を取って、すっと男が座った。


(あ)


 この男は違う。ただの浪人ではない。

 見た目は汚いし、口も下品だが、恐ろしく仕込まれている。

 適当に座ったようで、座り方に毛ほども乱れが見えず、美しい。

 正座ではなく、どっかりあぐらをかいているのに、美しく見える。


「へーえ。話にゃ聞いてたけど、見た目、本当に鬼族だなあ。本物か?」


「今持ってる棒、あのくらいの太さの鉄の棒を、普通に持ってたわ」


「はあー! じゃ本物だよなあ・・・ところで、あんたは何流?」


「え?」


 にやっと男が笑って、


「何かやってるだろ? 見りゃ分かるよ」


「ええと・・・トオサカ流と、サウザンド流裏派と」


 はあ? と男が怪訝な顔をして、


「トオサカ流? サウザンド?」


「あと柳華流と」


「待て、待ーてって! あんた、いくつやってんだ?

 にしても、どれも聞いた事ないな? どっかの分派?」


 小赤は首を傾げて、


「さあ・・・それなりに有名とは聞いてるけど。

 やっている人に名前を出せば通じると聞いてるわ」


 舞と茶の三味線の流派だが、男は知らない。


「そうなのか? ううん、俺もまだまだ世間を知らねえな。新しい流派かな。

 結構歩いたつもりだが、どこ行っても何かしら知らねえ事がある。

 ほんと、この国は面白えよな。つってもうちの道場もこの国だけど」


「はい」


 いつしか、マサヒデが2人を、というより浪人の方をじっと見ていた。

 浪人がにっこり笑ってマサヒデに手を振ると、マサヒデが歩いて来た。


「おはようございます」


「どうも。マサヒデ=トミヤスさん、かな」


「そうです」


「勇者祭さ。タイマンで勝負を願おうか。ジンノジョウ=サカバヤシだ」


 名を聞いた瞬間、マサヒデの目が見開いた。

 サカバヤシと名乗った男はにやにやしながら頷いて、


「多分、あんたが思ってるサカバヤシだ。あ、夢想の方ね」


 サカバヤシ流!

 それは居合の祖と言われる流派である!


 開祖ジンノスケ=サカバヤシは、猫族である。


 彼は魔の国と人の国の境の、名もなき田舎の集落で産まれた。

 海の向こうの僻地、国境近くの小さな集落の家という事もあり、魔族の家でありながら、人魔の戦争中も、ほのぼのとこの国で暮らしていた。


 ある日、ジンノスケは旅の者に出会う事となる。

 ただ物珍しさにその旅の者に剣術を学んだが、その時、剣に目覚めた。

 そして、30年に及ぶ雪国での山籠りの末、居合術という術を考え出した。

 それまで、剣術には『居合』という概念がなかった。

 だが、まだ太刀の時代でもあり、居合術はほとんど流行らなかった。


 しかし!

 太刀より短い打刀の時代になった!

 刀に礼儀作法が求められるようになった!

 ここにサカバヤシ流の転機が来たのである!

 刀を主に使っていたこの国に、サカバヤシ流は瞬く間に広まった!

 そして、サカバヤシ流を祖として様々な居合術が産まれた!

 今尚続くサカバヤシ流は、その頂点に君臨する!


 開祖ジンノスケ=サカバヤシは、サカバヤシ流を名乗らなかった。

 彼は生涯自分の流派を興こさなかったのである。

 死後、彼の高弟達がジンノスケの居合術をまとめ、サカバヤシ流が出来た。

 そして、夢想派と一教派の2流派に分かれる。


 尚、開祖のジンノスケは鹿神流皆伝を授かっている、真の達人である。

 抜けば一太刀、向かえば鹿神、サカバヤシに敵う者なし。

 それ程までに謳われた達人中の達人であった。


 そして―――


 サカバヤシ直系の男子には、代々『ジン』を頭にした名が付けられる。

 この男は、ジンノスケ=サカバヤシの直系の者!


「何代目になりますか」


「9代目の予定、って所かな。人に教えられる程度で生きてて、道場が潰れてなくて、俺が剣に飽きてなきゃな」


「真剣で?」


「勿論! うちは居合だぜ! 立居合も当然! だろ?」


 隣で小赤が驚いて目を丸くしている。

 このへらへらした浪人は、マサヒデと真剣の勝負をしようとしている!

 忍を素手で倒し、狼族の主で、鬼族に教える程の男に!


 ふ! とジンノジョウが咥えた爪楊枝を飛ばすと、さすっと地面に突き刺さる。

 カオルが凄い速さで駆け寄って来た。


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