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勇者祭  作者: 牧野三河
第五十八章 太夫とサカバヤシ流

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第864話


 マサヒデ達が魔術師協会に着くと、人の気配。

 小赤が既に到着していたのだ。


「ああ、しまった。遅れてしまいましたね」


「仕方ないよ。ゆっくり来たんだもん」


 酒樽を肩に乗せたシズクが、がらりと玄関を開ける。

 マサヒデが居間に入って行くと、縁側で小赤らしき者が月を眺めていた。

 ふるり・・・ふるり・・・

 着流しから出ている長い尾が揺れている。


「あなたが小赤さんですね」


「そう」


「遅れてすみませんでした。1人で心配でしたでしょう」


「そうでもないわ」


 どすどすとシズクが上がって来た。


「よ! こあーかちゃん!」


「こんばんは」


「おこんばんはー!」


 酔っ払ったシズクは上機嫌だ。

 続いてクレールも入って来た。

 手を付いて頭を下げ、


「遅れて申し訳ありませんでした。魔術師協会にようこそ」


 小赤が初めてこちらを向いて頭を下げ、


「こちらこそ、ご迷惑をおかけします」


 月明かりを背にして、小赤が頭を上げた。

 ぽ、とクレールが魔術で行灯に火を入れる。


 整った顔だ。

 確かに美人だが、随分と印象が違う。

 太夫とはこういうものか。


 マサヒデは刀架に雲切丸を掛けて、静かに座った。

 そこにイザベルも入って来て、正座して軽く頭を下げ、


「改めて名乗ろう。

 マサヒデ=トミヤス様が家臣、イザベル=エッセン=ファッテンベルク」


「ご丁寧にありがとうございます。小赤です」


 少しイザベルが遅れたが、周りを確認していたのだろう。

 そこに、マツが盆に湯呑を乗せて入って来た。


「うふふ。小赤さん、魔術師協会にようこそ」


 マツが湯呑を差し出し、茶を注ぐ。


「お世話になります」


 マサヒデも差し出された湯呑を取って、一口飲み、


「カオルさんは少し遅れます。金髪の、男の格好した人。

 あなたの問題解決の為、使いに出ています」


「はい」


「で、早ければ朝には解決しています。

 ですけど、念の為、明日の夕方まではここに居て下さい」


「はい」


「仕事に出るのが遅れるかもしれませんが、夕方には店に送ります」


「はい」


「それと、今夜ですけど」


 マサヒデが部屋を見渡す。

 空き部屋はない。ここでシズクと寝てもらうしかない。

 イザベルもここに泊まってもらおう。

 普通にしていて構わないと思うが、人が多い方が安心するだろう。


「部屋を用意出来なくて申し訳ありませんが、ここで寝て下さい。

 シズクさん。イザベルさん。一緒にここで寝て下さい」


「はあい」


「は!」


「鬼族と狼族が一緒ですから、何があっても平気です。

 軍でも攻めて来なければ、ですけど」


「ありがとうございます」


「では、もう夜も遅いですから、布団の準備をしましょう」


 立ち上がって、マツと一緒に奥の間に入る。

 押し入れを開け、客用の布団を出して、居間に運ぶ。

 柔らかい敷布団を敷いて、枕を置き、布団をかける。


「では、ばたばたしましけど」


「ありがとうございます」


 小赤が手を付いて頭を下げた。

 マサヒデが頷いて、


「では、明日の朝に」


「おやすみなさいませ」


「マサちゃんもおやすみー!」


「マサヒデ様! おやすみなさいませ!」


「おやすみなさいませー!」


「ふふ。皆さんもおやすみなさい」


 マサヒデとマツは奥の間に入って行った。

 少しして、クレールも茶を飲み終わり、


「では私もそろそろ」


「クレール様! おやすみなさいませ!」


「クレール様もおやすみ!」


「おやすみなさいませ」


 クレールも下がって行った。

 イザベルが頷き、


「では我らも」


「そだね」


 ごろりと2人が寝転がる。

 それを見て、小赤も布団に入った。



----------



 翌早朝。


 マサヒデが起きてくると、また酒臭い。

 む、と顔をしかめて、自分の稽古着の裾を捲る。

 また自分も臭っているだろうか。

 木刀を持ってそっと庭に下り、井戸で水を何度も被る。


「へぁいー。おっはよー」


 シズクも棒を持って下りて来た。

 マサヒデは顔の水を払って、


「おはようございます。素振り終わったら、湯に行きましょうよ」


「あはは! また酒臭いかな!」


「私もそうかもしれませんね」


「マサちゃんは昨日全然呑んでなかったじゃーん」


「どうだか・・・」


 喋っていると、イザベルも下りてきた。


「マサヒデ様、おはようございます」


「おはようございます。イザベルさんは、朝の素振りは久しぶりですね」


「は」


「木剣持ってきますよ。ちょっと待ってて下さい」


「お手間をお掛け致します」


 マサヒデが上がって行くと、廊下でカオルと鉢合わせた。


「おっと、おはようございます」


「ご主人様、おはようございます」


「首尾はどうです」


「終わりました。かの輩は既に町を出ております。

 今頃は街道を足早に歩いているでしょう」


「む、そうですか」


「この町には二度と戻りますまい」


「ありがとうございます。カオルさんはギルドに行くまで寝てなさい」


「平気です。3日3晩は寝ずとも動けます」


「ううむ、そうですか? 素振りはしますか?」


「は」


「では、先に庭に下りてて下さい。

 私、イザベルさんが使う木剣取ってきます」


「は」


 静かに歩いて行き、木剣を持って戻ってくると、小赤が起きている。


「起こしてしまいましたか。おはようございます」


「おはようございます」


「うちは朝から騒がしいので。申し訳ありません」


「構わないわ」


 マサヒデ達の会話を聞き、ずかずかとイザベルが縁側まで来て、


「貴様! その口の利き方はなんだ!」


「は?」


「マサヒデ様に敬意を表せ!」


「はあ」


 小赤がぼーっとした顔で、ぷんぷんするイザベルを見る。


「イザベルさん、構いませんから」


「されど!」


 マサヒデが木剣を放り投げて、


「イザベルさん。そう言えるだけの腕になってからです」


「はっ!」


 くす、と小赤が笑った。

 頭を下げたイザベルが「ば!」と顔を上げ、


「貴様! 我を笑うか!」


「あなた、面白いわ。昨日の歌にはやられたけど」


 イザベルが木剣を小赤に向けて、


「なれば此度は剣よ! 子猫など」


「こら! イザベルさん、やめなさい!」


「ははっ!」


 後ろでカオルもシズクもくすくす笑っている。

 小赤が笑顔を上げて、


「トミヤス様」


「どうしました?」


「よく飼いならしたわね」


「貴様!」


「あははは!」


 シズクがイザベルを指差して笑う。

 マサヒデは肩を竦めて、


「私は何もしていませんよ。イザベルさんが私を選んでくれたんです」


「そう」


 マサヒデが庭に下りて行く。


「イザベルさん。先日はカオルさんから1本も取れませんでしたね」


「は。情けなき限り」


「剣で受けるだけですよ。分かりましたね」


「は!」


「カオルさん」


「は」


「先日と同じように、イザベルさんに撃ち込んで下さい。

 当たらなくても、受けられたら1本です」


「は」


 マサヒデはシズクの所に歩いて行く。


「さ、シズクさんは私とですよ」


「ええーっ! 素振りじゃないの!?」


「速く、鋭く。私に当てて下さい。私も軽く撃ち込みます」


「私には撃ち込むの!?」


「頑丈ですから」


「マサちゃんの撃ち込み、私だって痛いんだぞ! 骨折れちゃうんだぞ!」


「軽くですから」


「分かったよう」


 4人の稽古を、小赤がぼーっと見ていた。

 少しして、綺麗に布団を畳んで部屋の隅に置いた。

 畳まれた布団の横に座って、ぼーっと4人を見ている。


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