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勇者祭  作者: 牧野三河
第五十二章 死を司る武術
746/756

第746話


 街道。


 幻の武術と言われる、王流の遣い手とカオルが馬を歩かせている。

 前を歩かせていたカオルが、すっと馬を並べて、


「宜しければ、お名前を聞かせて頂きたいのですが」


「ああ! すみませんでした。アマツカサ。ヒロシ=アマツカサです」


「改めまして、カオル=サダマキです」


 アマツカサ。

 王流七家のうち、体術を預かる家だ。

 元々は宮司の家で、戦乱期に宮司と武家とが分かれた家。


「お名前は聞き及んでおります。7家のうち、体術を継承しておられるとか」


「ええっ! 知ってるんですか!?」


「私も、以前は諸国を回っておりまして。噂に聞いた程度ですが」


「噂に?」


「はい」


 んん? とアマツカサが小さく首を傾げる。


「ううん、噂になってましたか」


「はい。皆、笑い飛ばしておりましたが」


「ははは。いやあ、そうでしょうね。

 サダマキさんは、トミヤス流の?」


「いえ、我流です。先日、マサヒデ様に内弟子にして頂きました」


「内弟子! いや、凄いなと思いましたよ。そうか、内弟子だったんですね。

 あっ、そうか! 聞きましたよ。確か・・・あれですよね。ええと」


 むむ、とアマツカサが口を濁す。

 カオルが苦笑して、


「ふふ。私も噂になっておりましたか。

 通りのど真ん中で、マサヒデ様に素手で手玉に取られたのが、私です」


「ああ・・・ええと、はい。その話を聞きました。

 持っていた木刀を、素手で飛ばされたとか」


「はい。その通りです。私程度に得物はいらぬと」


 ぽく、ぽく。

 ぼく、ぼく。

 カオルの黒影と、白百合が並んで歩いて行く。


「先程、稽古を見せてもらいましたけど・・・

 あなたの腕で、得物はいらない、と仰ったんですか?」


「はい」


「へえ・・・あの剣を、素手でですか・・・

 トミヤスさんは、体術もかなりやってるんですか?」


「鉄砲と魔術以外は、一通りはやっておられるようです。

 ただ、馬術はあまり得意ではございません。

 マサヒデ様が勘当された後に、馬術の稽古場が出来たものですから」


「ちょっと、ちょっと待って下さい。勘当ですか?」


「あ、これはお聞きではありませんでしたか。

 マサヒデ様は、トミヤス家を勘当されております」


「ええ? 何かやったんですか?」


「いえ。特に悪さをしたという訳ではございません。

 カゲミツ様に勇者祭に行け、と、無理矢理に放り出されたそうです。

 元々、マサヒデ様は勇者祭になど全く興味がなかったそうで」


「珍しいですねえ・・・あの若さで剣をやってれば、普通は行きたくなると思うんですけど。確か、首都から招聘の話も出てたんですよね?」


「はい。そちらも興味がないと断っておられたそうですが」


「へーえ・・・私が言うのも何ですけど、変わってますね」


 くす、とカオルが笑って、


「はい。マサヒデ様は変わっております」


「ははは! お弟子さんから見てもそうですか!」


「はい。あ、こんな事を言っていたとは内密に」


「ははは! 分かりました!」


 談笑しながら馬を進めて行くと、遠くに道場が見えてきた。

 カオルが小さな丘の上の道場を指差し、


「あの丘の上の建物がトミヤス道場です」


「あれが」


「こちら側からは見えませんが、馬術の稽古場と、弓の稽古場もございます」


「へえ・・・」


 アマツカサが目を細めて道場を見る。


「私もたまに道場へ行って、カゲミツ様に剣をご指導して頂いております」


「どんな人なんでしょう。何か、凄い酒飲みだって聞きましたけど」


「ふふ。酒はお好きですが、普段はほとんど呑まれません。

 お付き合いの席では呑まれますが」


「やっぱり怖い方ですか」


「稽古の間は尋常ではございません。

 しかし、普段は豪放磊落で、とても気持ちの良い方です。

 道場の皆にも、村の皆にも好かれております」


「良い方なんですね」


「それと・・・」


 カオルがアマツカサの腰の脇差を見る。


「物凄く刀がお好きな方です。

 以前、マサヒデ様のお刀を無理矢理に奪おうと、人前で刀を抜きそうに」


「ええ?」


 カオルが腰の刀をぽん、と叩いて、


「これはカゲミツ様から頂きました」


「誰のです、それ」


「モトカネです」


「モトカネ・・・って、凄く有名な刀では? 私も聞いた事がありますよ」


「はい。人の国の、戦争時代の名匠です」


「そんなのを貰ったんですか?」


 ふ、とカオルが笑って、


「これもカゲミツ様から見ればただの飾り物です。

 もっと凄い物がございますから・・・」


「もっと凄い物? それより凄い物って、何ですか?」


「ふふふ。秘密です。マサヒデ様のお刀は、それ程の物というわけで」


「それってもしかして、国宝とかですか?」


「秘密です」


「ちょっと待って下さいよ。気になるじゃないですか」


 カオルがにやにやしながら、


「アマツカサ様からお尋ねになってみては?

 何かお教えと引き換えに、とか」


「そんなの、私の稽古くらいで見せてくれますかね?」


「王流の稽古とあらば、見せてもらえましょう」


「ううん・・・教えですか」


 アマツカサが首を傾げる。


「何かお障りでも」


「いや、技術だけは別に教えられるんですけど」


「技術だけは?」


「本格的な稽古だと、ちょっと難しいというか」


「難しい? どのような?」


「ええと・・・1週間、着の身着のままで山に放り出すとか?」


「他には?」


「他ですか? ううん・・・」


「マサヒデ様は生存術というか、そのようなものは慣れておられますし」


「それだと・・・滝から落とすとか・・・でしょうか・・・

 この辺、滝ってありますかね」


「滝から・・・あれですね。噂に聞く、忍の稽古のような」


「そうかもしれませんね。ですけど、何て言うんでしょう。

 ええと、度胸とかをつけるのが目的ではなくてですね・・・

 うちは・・・そうそう。所謂、心技体の心の部分を重視してまして・・・

 いや、度胸も心なのか」


「いえ、分かります。私も同じような稽古をしておりました」


「あ、分かります!? いや、ええ? そんな稽古をしてたんですか?」


「修行の旅の途中、修験者についておりました時期がありました。

 滝行などもやっておりますし、崖から突き落とされた事も」


「ああー! なるほど! 修験者って、そういう事するって聞きますもんね。

 それって、他にはどんな事をするんですか?」


「護摩壇の前で3日3晩、飲まず食わずで祈りを捧げたりなどもしました。

 そうそう。1ヶ月の断食なども致しました。これが一番厳しかったです」


「1ヶ月も!?」


「はい」


「1ヶ月の断食なんて、よくやりますね・・・

 まあ、私も当時はこれが普通だなんてやってましたけど」


 カオルが苦笑して、


「ふふ。その気持ち、分かります。

 まともに世間に出ると、自分は普通ではないと痛感しました」


「ですよね! 私もそうだったんですよ!」


 カオルが忍の修行を誤魔化しながら、2人の昔の修行話に花が咲く。

 もうトミヤス道場はすぐ近くだ。


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