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勇者祭  作者: 牧野三河
第五十一章 散歩
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第739話


 牧場が大体出来上がったと聞いて、マサヒデ達は牧場に向かう。


 町の門から出ると、すぐに見えた。

 石作りの平屋があり、シズクが向こうで、どす、どす、と杭を刺している。


「あれですか」


「はい!」


 目を細めて家の方を見ると、マツと馬屋が並んで図面を広げて、指を差して何やら話している。


「あの家は、まだ出来上がってないんですか」


「部屋をどうするか考えてるんです。お台所とか、寝間とか。

 あと、窓をどこに開けるとか、他にも色々」


「まあ、旅先で適当に建てるのとは違いますからね」


「ドアも作ったりしないといけませんし、さすがに住居は簡単に作れないみたいです。

 でも、今日の所は大体で。明日にはイザベルさんも戻って来る予定ですし。

 急いで厩舎を作っておきませんと」


「ああ。楽しみですね。次はどんな馬が来るんでしょう。

 またきらきらした馬が来るんでしょうね」


「楽しい馬が良いです。シトリナはおとなしいから良かったですけど、怖い馬だと安心して遊べませんし」


「黒嵐みたいにですか」


「緊張してしまいます!」


 マサヒデが苦笑いして、


「黒嵐達も、この牧場に来るんですよ。

 あまり他の馬達を緊張させないように、言っておいて下さいね」


「はい!」


 向こうに目をやると、大量の杭を担いだシズクがどすん、どすん、と杭を打ち込んでいる。刺しているだけだが、打ち込む力がすごいのだ。地を伝わって小さな振動が伝わってくる。


「クレールさん、あれ、杭を刺してるだけですよね。

 柵の、何て言うんでしょう、横の棒の部分? あれはどうするんです」


「後で付けます。出来上がるまでは、土の壁で覆ってしまいます」


「では、土の壁で覆ってしまうだけで良いではありませんか」


「この広さだと、中が見えない高い壁は作ってはいけないそうですよ。

 そういう建物にするには、何やら特別な建築の許可が必要だそうです。

 取り敢えず、仮組みで数日内ならという事で、許可を頂いたんです」


「何です、それ? 別に良いではありませんか」


「危ない人達が集まって、陣地とかを作らないようにする為なんですって」


「へえ。でも、そんな大工事してたら、すぐ見つかりそうなものですけどね」


「ですよね! 私もそれ思いました!」


「大体、そういう人達って決まりなんか無視してしまうでしょうに」


「ですよね!? そうですよね!?」


 カオルが苦笑いしながら、


「ご主人様、クレール様。壁の高さは安全を考慮したものでもあります」


「安全?」


「あまり高い壁ですと、地震等で倒壊した際に大被害になりますゆえ」


「ああ、なるほど」


 クレールが首を傾げて、


「あまり低い壁だと、飛び越えてしまいませんか?」


「ああ、そうですよね。馬って、高さはどのくらい跳べるんでしょう。

 カオルさん、分かります?」


「高く跳べる馬ですと、人を乗せて6尺以上を跳びます」


「ええっ!? そんなに跳ぶんですか!?」


 クレールが声を上げたが、マサヒデも驚いた。

 そんなに高く跳べるとは。

 カオルがシズクが刺していく杭を見ながら、


「黄金馬は特にはしこい馬ですので、高く跳べましょう。

 ですが、馬は自分の住処と見た場所から、そうそう逃げたりは致しません。

 3尺もあれば十分かと思いますが・・・」


 ぐるりとカオルが周りを見渡す。


「ご主人様。ギルドと警備の長期契約を結びましょう。

 1頭1000金の馬が、ここには群れる事になります」


「警備ですか」


「依頼料代わりに、ギルドに馬を1頭差し出せば宜しいかと。

 長期契約には十分です」


「必要ですかね、それ」


「必要です。話を聞きつければ、他国からも盗みに来る馬泥棒は居ます。

 盗品取引で半額で買い叩かれても、金貨500枚ですよ。

 10頭盗めば、金貨5000枚。

 徒党を組んで泥棒に来られても、おかしくない値段だと思いませんか」


「確かに・・・」


「しかも、街道に面した牧場です。さらに周りは平地。

 乗って柵を飛び越えてしまえば、簡単に逃げられてしまいます。

 馬は全力で走れば、1町(110m)を10も数えぬうちに走り抜けます。

 競走馬の早い馬では、5も数えぬうちに」


「ええーっ! 馬ってそんなに早いんですかあ!?」


 クレールが目を丸くして驚き、マサヒデも驚いた。

 黒嵐を全力で走らせた事はないが、あの重さでそれほど出るのか。


「はい。警備は万全に、なるべく獣人族の方を回してもらいましょう。

 ファッテンベルクから派遣されます方にも、警備を兼任して頂きましょう。

 それと、警備用に別の馬も用意した方が良いかと思います」


「別の馬ですか」


「私が調べた所、クォーターという品種が良いかと思います。

 急発進が得意で、短距離走ならどの馬にも負けません。

 泥棒だ、となったらさっと追いかけるのに最適かと。

 数も多いので、価格も手頃です」


「なるほど。その馬選びも、イザベルさんにしてもらいますか?」


「馬市はこの町ではやっておりませんから、また遠出になりますが・・・」


「さすがに騎士さん達に頼む訳にはいきませんからね」


 クレールが顔を上げて、


「マサヒデ様。冒険者ギルドにお頼みしては?

 馬市をやっている町のギルドに通信で依頼を出せば」


「ああ! それ良いですね」


 カオルも頷いて、


「良いお考えです。さすがはクレール様です」


「んふふーん。もっと褒めてくれても良いのですよ!」


 ふふん、とクレールが平たい胸を張る。


「では、こちらも経費という事で、クレールさんから依頼をお願いします」


「えっ」


「え、て何です。私はこの牧場経営には関わってないんですよ。

 クレールさんなら、馬の1頭や2頭、お小遣いで軽く買えるでしょう?」


 カオルが笑いながら、


「クォーターなら、金貨300枚も出せば上等なものが買えましょう。

 警備の人数も考え、マツ様とお二人でご相談下さいませ。

 この馬の餌代なども掛かりますので、赤字が出ませんように」


「う、ううん・・・」


 クレールが頭を抱えながら、マツの所に歩いて行く。

 ふ、と笑って、牧場の向こうの森を見る。

 明日には、イザベルが意気揚々と馬を連れてあの森から歩いて来る。

 牧場を見て、さぞ驚くだろう。


「カオルさん」


「は」


「シトリナ、見に行きましょうか」



----------



 馬屋に行くと、見た事のない男が厩舎の前で暇そうに座っていた。


 マサヒデ達が歩いて行くと、すっと立ち上がって綺麗に頭を下げる。


「お疲れ様です」


「マサヒデ様、カオル殿、馬のご用意ですか」


 この男は忍だ。

 馬屋がここを空けるので、クレールが留守番に寄越したのだろう。


「いえ。馬を見に来ただけですよ」


 カオルがくすっと笑って、


「ふふ。暇そうですね」


 忍が苦笑いをして、ちらっと厩舎の中に目をやり、


「は、いえ・・・あまり彼らの会話に入れませんもので」


「ああ」


 この忍もレイシクランだ。

 動物の言葉が分かる。


「どんな話してるんですか?」


「美味い草の食べ方は、何本ずつ、何口で、何噛みでとか」


「ははは! 蕎麦みたいですね!」


「黒嵐は寡黙ですが、やはり威厳がございますな。

 意見が違って皆が言い合いをし出すと、一言で黙らせてしまいます」


「そうですか。自分の馬を褒められると、嬉しいですよ。

 シトリナはどうです」


「上手くやっておりますよ。ファルコンに気に入られたようで」


「ファルコンに。ふふふ。毛並みが綺麗だからですね」


「そのようで」


 マサヒデ達が厩舎の中に入っていくと、馬達が顔を上げた。

 黒影と白百合が顔を突き出してくる。

 カオルが足を止めて、よしよし、と2頭の頭を撫でて、


「ふふふ。良い子だ」


 と、懐から角砂糖を出して与える。

 マサヒデも黒嵐の前に行くと、黒嵐が嬉しそうに顔を突き出してくる。


(ううむ)


 忍が後ろで腕を組む。

 別段、気難しい悍馬ではないのだが、簡単に頭を下げる性格ではない。

 その黒嵐が、あのように甘えた態度を取るとは。


「元気そうだな」


 マサヒデが黒嵐に角砂糖を食べさせる。

 嬉しそうに黒嵐がマサヒデの手を舐めている。


(イザベル様とはまた違う。このお人は馬もたらしてしまうな)


 人だけでなく、馬までたらしてしまうとは。

 動物は鋭い所があるから、逆にたらしやすいのか?

 にこにこしながらシトリナに歩いて行くマサヒデの背中を見て、忍が唸る。


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