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勇者祭  作者: 牧野三河
第五十一章 散歩
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第734話


 冒険者ギルド、通信室。


 ここに入るのは久し振りだ。

 マツとの結婚の時、王と話して以来となる。


 マサヒデが椅子に座ると、横でメイドがちょこちょこと何かをいじる。

 しばらくすると、目の前のガラスに部屋が写った。


「あれ」


 写った画面の向こうには誰もいない。

 横のメイドを見ると、


「大丈夫です。少し待てば」


 と、メイドが頷いた時、ドアの音がして、画面に写った部屋にメイドが入って来た。どうやら、冒険者ギルドはどこもメイドが居るようだ。さすがにファッテンベルク領は魔の国なので、人族ではなく、獣人族のメイドだ。


 メイドが一礼して椅子に座り、


「お待たせ致しました。冒険者ギルド、ファッテンベルク支部です」


 マサヒデも慌てて頭を下げ、


「あ、どうも! マサヒデ=トミヤスです!」


 ん? とメイドが小さく首を傾げ、


「マサヒデ・・・トミヤス。トミヤス・・・ううん・・・

 オリネオ支部所属の冒険者さんですか?」


「あ、オリネオの冒険者ギルドの通信機を借りています。

 冒険者ではなく、ええと、イザベル=ファッテンベルクさんの代理です。

 その、今、イザベルさんが不在で」


 そこで「はっ!」とメイドが驚いた顔をして、


「ああっ! イザベル様の主の! 300人抜きのトミヤス様!

 これは、これは、申し訳ありません! 大変失礼を致しました!」


 ぱ! とメイドが深く頭を下げる。

 マサヒデが慌てて手を振り、


「ああ、いやいや! 今日はその、イザベルさんのお父上にお報せを送りたくて。

 そちらから報せを急ぎで送って頂きたいのですが」


「はい!」


 ぱぱぱ! とメイドがペンと紙を出して、


「ご連絡の内容をどうぞ!」


「ええと、まずはですね・・・ええと。

 あ、そうだ。最初に、事後承諾になりますが、大変申し訳ありません、と」


「はい。事後承諾となりますが、大変申し訳ありません」


 マサヒデが懐から紙を出して、指で文章をなぞりながら、


「ちょっと待って下さい。ええと・・・現在、キホのたたら製鉄の御三家に、ファッテンベルク家と製鉄業を行うため、提案の使者を送っております」


 さらさらとメイドがペンを走らせ、


「はい」


「これは、私、マサヒデ=トミヤスが強力な磁石となる魔術の道具を手に入れまして、イザベルさんとご相談して製鉄業に使おうと考えました。たたら製鉄では鉱脈ではなく、砂鉄を使うので、砂鉄集めにこれを貸し出すという話です」


 さらさらさら・・・


「はい」


「つきましては、ファッテンベルクから、そのたたら御三家なる3貴族で、その魔術の道具が正しく持ち回りされているかの目付けを送って頂きたい、と」


「はい」


「なお、キホのたたら御三家が全て断られた際は、ゾエのたたら製鉄を行う所に話を持って行く予定です。その際は改めて連絡を致します」


「はい」


「ファッテンベルクの取り分に関しましては、ファッテンベルクと、話を請け負って下さいました、たたら製鉄を行う所でお話を決めて頂きたく。良質の鋼なり、お金なり。私、マサヒデ=トミヤスには月に金貨10枚で如何でしょうか、と」


 ん! とメイドが顔を上げて、


「失礼、月に金貨10枚と仰られましたか?」


「はい。多いでしょうが、私にも食わせねばならぬ者がおりまして」


「多くはないかと思いますが・・・」


「あ、そうですか。なら良かった。

 それと、もうひとつありますので、お願いします」


「あ、あ、はい!」


 メイドが慌てて新しい紙を取る。


「良いでしょうか」


「どうぞ!」


「近々、オリネオの町の近くで、マツさん、クレールさん、ハワード家の共同出資で牧場を開きます」


「はい・・・マツさん? クレールさん?」


「あ、失礼しました。マツ=マイヨールと、クレール=フォン=レイシクランです」


「マイヨールと・・・クレ・・・フォン、レイシクランっ!?」


 ぎょ、とメイドが顔を上げて、ペンが止まる。

 マサヒデが驚いたメイドの顔を見て笑って、


「はい。多分、そのレイシクランです。ワインで有名なレイシクラン。

 イザベルさんとはご友人だそうですし、お父上もご存知かと思います」


「は、はい。ええと、ええと、マイヨール、レイシクラン、ハワード3家による共同出資の牧場を・・・はい」


「その牧場では、黄金馬という馬を繁殖させたいと考えております。

 こちらで野生化した黄金馬の群れを見つけた為です。

 群れは20頭を軽く超えており、繁殖には十分な数かと思います」


 さらさらさら・・・


「はい」


「あ、黄金馬というのは、黄金の馬と書いて黄金馬です。

 これも伝えれば分かると思います」


「黄金の馬・・・はい」


「宜しければ、ファッテンベルクにもこの牧場に参加して頂きたく思います。

 ご参加して頂けましたら、ファッテンベルクの負担、取り分は2割です」


「はい」


「尚、ハワード家は後から参加希望を出した為、最初の5年間、ファッテンベルクの負担分はハワード家が担います、と、ハワード家から申し出がありました」


「はい」


「ファッテンベルクからは、騎乗技術者を1人送って頂きたく思います。

 土地、牧場主は既に押さえております。馬と人員は現在集めております。

 良いお返事をお待ちしております」


「はい」


「お返事はオリネオの冒険者ギルドか、魔術師協会のオリネオ支部へ願います、と。

 以上です。よろしくお願いします」


 ん、と画面の向こうのメイドが顔を上げ、


「トミヤス様」


「はい」


「トミヤス様の牧場の取り分は?」


「ああ、私は牧場には出資しませんから、ありません。

 うむ、ええと、そうですね・・・

 そうだ、牧場に遊びに行く事を許して頂ければ嬉しく思います、と加えて下さい」


「はい・・・」


「あともうふたつ。馬を見つけたのは、イザベルさんです。

 牧場の発案もイザベルさんです」


「はい」


 さらさらさら・・・

 ペンを止めて、メイドがマサヒデの方を向き、


「それでは、確認の為に繰り返します。

 事後承諾となりますが、大変申し訳ありません。

 現在、キホのたたら製鉄の・・・」



----------



 確認が終わって、メイドが顔を上げ、


「トミヤス様、ご質問をお許し下さいますでしょうか」


「構いませんよ。私で分かる事でしたらお答えします」


「レイシクラン様、クレール様とはどこでお知り合いに」


「ああ、はは。それは不審ですよね」


 マサヒデが苦笑いをして、


「私の300人の試合、そちらでも放映されていたでしょうか」


「はい」


「実は、その中の1人に、クレールさんが混じっていました」


 メイドが目を丸くして、


「えっ! では、では、トミヤス様は、レイシクラン相手に勝ったと!?」


「まあ、そうなります。あ、しまった。これ、秘密にしておいて下さい。

 あ、別に良いのかな? オリネオでは皆知ってますし・・・

 いや、レイシクランの体面もあるから、やっぱり秘密にして下さい」


「それと、それと、マイヨールとは、どこの?

 レイシクランと共同出資となると、相当の貴族かと存じますが」


「む・・・」


 マサヒデが腕を組む。

 さすがに魔王の娘とは言えない。

 少し考えて、


「ええと、魔の国の出の方ですが、私はどこのマイヨールかは知りません。

 恥ずかしい事ですが、私は貴族に関してはさっぱりで。

 ですが、マツという方は、人の国では3本の指に入る大魔術師です。

 以前は王宮魔術師で、今はオリネオの魔術師協会の長です。

 国王陛下ともお知り合いですし、素性の怪しい方ではありません」


「大魔術師ですか!? 元王宮魔術師の!?」


「はい。家は小さいかもしれませんが、共同出資するには十分かと」


「では・・・ハワード様は?」


「ええと、この国の、80万石くらいの貴族だそうです」


「は、80万石っ!?」


「そこのアルマダという方が、私と同じトミヤス道場の門弟です。

 ああ、そうそう。試合で審判をしていた方です」


「あ、あの金髪の・・・」


「その方です。他にありますか?」


「あの、イザベル様は、今は・・・冒険者で働くとお聞きしましたが」


「まだランクは低いですけど、大成功してますよ。

 もうオリネオの町では有名人ですね。

 見習いのうちから、指名の依頼が入るくらいです」


「見習いで指名!?」


「ええ。これはすごい事だと聞きました。

 冒険者さん達とも上手くやってますし、奉行所からも手伝いを頼まれます。

 剣の腕も、悪い癖を少し直しただけで、見違える程に良くなりました。

 馬術に関しては、万人に1人の才の持ち主だとお墨付きも頂きました。

 トミヤス道場で、馬術の代稽古もしています」


「代稽古まで! そうでしたか!」


 喜ぶメイドを見て、マサヒデも笑顔になる。オリネオのギルドのメイドはあまり顔に出ないが、ファッテンベルクのギルドのメイドは違うようだ。


「他に質問はありますか?」


「いえ! お時間を頂き、ありがとうございました!」


 メイドがにこにこしながら頭を下げる。

 マサヒデもにっこり笑って、


「では、報せをよろしくお願いします。

 お父上にも、イザベルさんのご様子を伝えてあげて下さい」


「お任せ下さいませ! それでは失礼致します!」


 画面が消え、横に居たメイドが頭を下げる。

 マサヒデも立ち上がって、


「ありがとうございました」


 と、メイドに小さく頭を下げた。


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