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勇者祭  作者: 牧野三河
第五十一章 散歩
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第729話


 冒険者ギルド、受付。


「おはようございます!」


「うむ。おはよう」


「昨日はたくさんこなしてくれましたね!」


「今日もみっちりやるぞ。明日からまた少し離れるゆえ」


「また何か・・・あ!」


 イザベルがにやっと笑って、


「ふふん。分かるか」


「馬! 馬ですね? 捕まえてくるんですね!」


「そうよ。明日は2頭かな・・・明後日からまた・・・

 2頭ずつが限界かな。しばらくは馬を連れにギルドから離れるのだ。

 急がねば、牧場の完成に間に合わんだろう」


「牧場?」


「うむ。そこの、町の入り口からすぐ外に、マツ様、クレール様、ハワード様の共同出資で牧場を作る予定だ。あの辺りの野っ原に、どどん! とな」


「うわあ! あの3人が共同出資で!? 凄いですね!」


 頷いて、イザベルが腕を組む。


「馬の居場所は秘密ゆえ、馬は我1人で連れて来ねば。

 それゆえ、ちと大変だが何往復もして数を揃えねばならぬ。

 牧場が出来たら、しばらくギルドに牧場手伝いの依頼も出るかもしれぬぞ」


「出来たら、見に行っても良いんですか!?」


「構わん、構わん。街道沿いにどんと作るのだぞ。堂々と見られるわ」


「うわ、すごい! あ、もしかして、イザベル様の馬みたいな!」


 イザベルが苦笑して、


「今そこに気付くか。そうよ。あの品種を増やしたいのよ。

 上手くいくと良いがな・・・あれは数少ない品種ゆえ」


「わあ・・・凄い! きらきらした馬がいっぱいなんですね!」


「そうだぞ。河原毛、月毛の黄色っぽい感じの馬は高く売れるのだ。

 白いのも出るからな。これまた売れるであろう」


「え、え。どのくらい高く?」


「ふふふ・・・我の馬であれば、競りにかければ・・・

 とんでもない値になろうなあ・・・売る気はないがな。

 ま! そこは実際に競りが行われれば分かる」


「とんでもない値! 金で100枚とかですか?」


「そのくらい、普通の馬でもいく。馬は高いのだ」


「100が普通だと・・・じゃあ、300枚、400枚?」


「さあな。ま、楽しみにしておけ」


「うわー!」


「ふっふっふ。さあて! 仕事にかかるか!」


 肩をぐるぐる回して、イザベルが掲示板の前に歩いて行く。

 今日はどんな依頼があるであろうか。

 多少安くても、飯や日用品が貰えそうな仕事が良い。


 ぴっと依頼書をはがし、受付に歩いて行く。

 稽古に加わりたい! しかし馬も用意しなければ!

 歯を噛み締めながら、受付に向かう。



----------



 魔術師協会、居間。


 マサヒデ達がぐるりと輪に座って、


「水が出ましたか」


「は」


「マツさん。これで場所は大体決まりましたね」


「はい」


「もうひとつ、大事な事がありますよね」


「なんでしょう? お引越しとか・・・」


「名前ですよ、名前。牧場の名前、決めたんですか?」


「あ」「ああっ!」


 マツとクレールが顔を合わせる。


「決めてませんでした・・・」


「マツ様、どうしましょう? オリネオ牧場とか? 黄金馬牧場とか?」


「オリネオ牧場なんて平凡ですし、黄金馬牧場って、こう・・・何だか、嫌味ったらしい感じがしませんか?」


「うーん・・・」


 マサヒデが苦笑して、


「良い名前を考えておいて下さいね。

 変な名前を考えると、アルマダさんが怒りますよ。

 では、カオルさん。シズクさん。稽古に行きましょう」


「は!」「はーい!」



----------



 冒険者ギルド、訓練場。


 マサヒデ、カオル、シズクが乱取り稽古をする冒険者達の間を歩いている。


「剣を合わせてきたら下手に弾かない!

 くっつけていたら、相手の動きが分かります!」


「角度を変えるだけ! つっぱっていかない!」


 マサヒデが冒険者と代わり、相手に密着するほどに踏み込んで小手を押さえ、


「こう踏み込んでしまいなさい」


 手をぐいぐいと押し付け、


はすに入れば、このように制する事は簡単です」


「はい!」


 また歩いて行く。


「回すのではない! 巻く!」


「螺旋の回転は、大きくも小さくも自由自在!

 攻めと守りで使い分けるのです!」


「他にも敵がいることを念頭に置きなさい! 周りにも注意を払いながら!」


 冒険者の間に入り込み、肩越しに後ろを向いて、


「好きな所でかかって来て下さい」


「はい!」


 後ろの冒険者が剣を振り上げた瞬間、マサヒデの竹刀を肩に担ぐようにして、竹刀の先を相手に向ける。


「う!?」


「こう。後ろにも牽制になる。前の対する相手には、このまま踏み込んで袈裟斬りにも持っていける。後ろの気配は、音がするから簡単に察知出来る」


「簡単ですか!?」


「余程の相手でなければ、少し動けば音が出ます。

 音がしなくても、動けば地から伝わってきます。

 感覚です。人族だって、慣れればすぐ分かるようになります」


「見えない相手からの攻撃を、どう受けるのですか?」


「受ける必要はありません。『分かっているぞ』と見せるだけ。

 これだけで簡単に動けなくなります。正面の相手も驚きます。

 そこに隙が出来たら撃ち込む! 駄目なら横に動いてしまいなさい」


「「はい!」」


 マサヒデが離れて行く。

 槍と剣。剣が槍の間合いの内に踏み込み、槍が押し出そうと横に回す。


「違う! 身体ごと回る! 手はそのまま!

 横からではなく、後ろから押し出す感じです。

 腕はそのまま、身体を中心に。手では、重い相手を押し出せません」


「はい!」


 マサヒデが槍の冒険者の横に立ち、後ろにある右足を軸に、左足を反時計回りに後ろに回していく。


「こうです。足運びはこう。こう回るだけ」


「こう」


「この時、手では押し出せませんよ。

 それでは槍が残ってしまいますから、肘も引っ掛けて身体で回すのです。

 まだ相手の剣は届かない。左手を逆手に持ち替えてしまっても良い」


「なるほど」


「ゆっくりやってみて下さい」


 くるうり・・・

 正面の冒険者がゆっくりと押し出されていく。


「そう。前に踏み込もうとする所に後ろから押されるから、まず崩れる。

 頭を後ろから叩いても良い。槍を上から下に。得物を叩き落としても良い。

 同じ動きで足を払ったり絡めても良いし、この勢いで押し倒しても良い。

 横か後ろから穂先で切る、突く。どれも無理そうなら、離れて間を取る」


「はい!」


「シズクさん!」


「はーい!」


 どたどた・・・


「棒の守りを見せてあげて下さい」


 冒険者の方を向いて、


「棒と槍とは違う使い方も多いですが、長柄の守りの手本になるでしょう。

 今の動きも、棒と殆ど同じ使い方。色々見せてもらいなさい」


「はい!」


 マサヒデが離れて行く。

 カオルも歩きながら、冒険者を見ていく。


「そこです。今のはもう少し踏み込みは軽くても宜しい。

 浅くで良いのです。傷を付けられれば怯んでいく。

 欲張らず、浅く少しづつ。出血ですぐ動きは鈍ります」


「はい!」


「中段構えの時は、切先は首や目に向けると宜しい。

 わざと相手に見せ、動きを止めるのです。

 余程の手練れでなければ、簡単に踏み込めなくなります。

 切先が上がっていれば、振り被りも楽になります」


「はい!」


「二の手三の手! 全て必殺の一撃で振れなければいけません!

 囮の振りなどと甘い振りなどして、それを取られて崩されたらどうします」


「はい!」


 カオルが冒険者の斜め後ろに立ち、


「丹田を中心にして動くのです。足から動くと遅れます。

 必ず丹田から動くのです」


「カオル先生、丹田とは」


「臍下丹田。名の通り、へその下3寸の所です」


「へその下」


 冒険者が帯の下を、く、く、と押し、んん? と首を傾げ、


「骨盤ですか?」


「違います。その上の何もない所です。

 動く時はまずそこから。その辺りを意識してみると宜しい」


 冒険者が小さく首を傾げ、へその下に指をぐいぐい押し込む。

 カオルが横に立ち、


「背を真っ直ぐに」


「はい」


「そうではない。背を伸ばせと言うと、貴方のように後ろに弓に反る人が多い。

 背骨を腰から真っ直ぐに・・・」


 カオルが冒険者の腰に手を当てて、ゆっくりと首まで登らせていく。


「宜しい。このような感じです。首をそこに乗せたまま、固定。

 では、空気椅子のような体勢を取って」


「はい」


 冒険者が腰を落とす。


「で、少し尻を上げる。空気椅子まではいかない、高い椅子くらい」


「このような」


「そうです。で、手を地面と平行に前に出す」


「こう・・・」


「で、股間をゆっくりと前に出しながら、立ち上がる」


「む? このような・・・」


「先程の位置の奥の方。腹の中の下の方。力が入っておりませんか?」


「あ! ああ、これ! ここですか!」


「もう一度、空気椅子から。背は真っ直ぐのまま。そこに気を付けて」


 冒険者がぐいんぐいんと腰を落としては突き出し、


「あ、ああー! ここかあ! これが丹田!」


「動く時はそこを中心に、そこから動くのです。こう」


 くる! とカオルが後ろを向き、


「と、このように素早く動けます。足は後から勝手に付いてきます」


 くる! と前に向く。


「なるほど!」


 冒険者がぐいぐい腰を前後に動かしながら頷く。


「そこが崩れなければ、どんな体勢でも簡単には崩されません。

 その動きで丹田が鍛えられますが・・・」


「はい!」


「しかし、その鍛錬は、男性がやると傍目にはいかがわしい。

 なるべく1人の時にやるとよろしい」


「はい! ・・・はっ?」


 冒険者が動きを止めて、きょろきょろ周りを見渡す。

 にやにや笑いながら、周りの冒険者が見ている。

 くす、とカオルも笑って、離れて行く。


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