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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十九章 金
727/780

第727話


 夕刻、魔術師協会。


 がらっ!


「イザベルでございます!」


 カオルが手を付いて、


「お疲れ様です。ハワード様が先程からお待ちです」


「しまった、待たせてしまったか。

 急いだつもりであったが、これは申し訳ないことを」


 慌てて地下足袋を脱ぎ、早足で居間に向かい、廊下で手を付いて頭を下げる。


「イザベルでございます。

 ハワード様、お待たせ致しました事、お許し下さい」


「イザベル様。お先に上がらせてもらってます。

 まあ、そう固くならずに。さ、お話を聞かせて下さい」


 お話。やはり馬の事か。

 乗ってみたくて仕方ない、という感じか?


「では、失礼」


 す、す、と膝行して、居間に入る。

 マサヒデが縁側からちらっとイザベルの方を見て、肩をすくめる。

 シズクも絵物語の本から顔を上げて、イザベルを見てにやっと笑う。


 マツとクレールが並んで座り、2人の前には書類が。

 あれは牧場の書類か・・・?


「で、あの馬、どこで見つけたんです?」


「申し訳ございませんが、それはちと」


「独り占めはずるいですよ」


「申し訳ございませんが、奥方様、クレール様とのお約束で」


「そうですか・・・お二人と」


 アルマダが、ちら、とマツ達を見る。

 にっこり笑って、


「ところで、牧場を作るとか」


「はい。貴重な馬ゆえ、増やしたく思いまして」


「貴重・・・確かに貴重な馬ですよね。

 1頭いくらくらいするでしょう。

 競りなど開いたら・・・どのくらいまで上がるでしょうか」


「さあ・・・シトリナなら、1000枚はいくと思いますが」


「安く見すぎです。1000など軽く超えるでしょう。

 で、その牧場・・・ハワード家も出資したいと思うのですが」


「おお! それでわざわざお越しに! 真にありがたき幸せ!」


「ファッテンベルクは2割と聞きましたが」


「ああ。ではその2割、お持ち下さいませ。

 奥方様、クレール様、宜しゅうございましょうか」


「はっ?」


 これはアルマダにも予想外。

 あっさりと取り分を捨ててしまうとは。


「ファッテンベルクには、マサヒデ様より製鉄のお話を頂きました。

 既にキホの御三家なる貴族へ、アライアンス確認の早馬を送っております」


「製鉄ですか? キホの御三家というと、たたら製鉄の」


「は」


 たたら製鉄・・・大して儲かりはしないだろうに。

 実際『御三家』とは名ばかりの弱小貴族ばかりだ。


「申し訳ありません。話が牧場とは脱線しますが、なぜ、製鉄を?」


「マサヒデ様が、強力な磁石をお貸し下さいます。

 持って一歩歩くだけで、これ程の砂鉄が集まるほど」


 イザベルが丸太を抱えるように、腕を丸く作る。


「ああ、それを貸し出して砂鉄集めを楽にして、たたら製鉄をと」


「は」


 アルマダが首を傾げる。

 それで楽になるとはいえ、たたらでは大して稼げないと思うが・・・


「それがあるから、牧場の2割はいらないと?」


「は。あまり商売が増えますと、父上が心労でハゲてしまいますゆえ」


 ぶは! とクレールが茶を吹き出し、えほえほ、とむせる。


「げへっ! えひゃひゃ! イザベルさん、そんな、そんな真面目な顔で、ハゲるとか!」


「あいや、本当に、父上は抜け毛1本見つけると、顔色を変えるくらいで」


「うぷぷ・・・」


 マツも隣で肩を震わせている。

 む、とイザベルが眉を寄せて、


「奥方様、クレール様。お言葉ですが、父上は本当に心配をしておられます。

 このままでは尻尾の毛までと、家に帰るたびに。笑い事ではございませぬ」


「ははははは!」


 縁側でマサヒデが笑い出して、皆も釣られてげらげら笑い出した。

 アルマダも笑いながら、


「ふ、ははははは! イザベル様、中々やりますね!」


 むっ、とイザベルが不機嫌な顔をアルマダに向ける。


「ふふふ。しかし、ファッテンベルクからは騎乗技術者を送りますね」


「はい」


「では、全く受け取らないわけには行きません」


「は・・・左様なものでしょうか?」


「そういうものです。送られてくる者に給与を与えるのは、どの家です。

 ファッテンベルクでしょう」


「まあ、そうですが・・・

 あ、ではその給与をハワード家から払って頂ければ結構です」


「ふふふ。やはり貴方はマサヒデさんの家臣ですね。全く欲がない」


「お褒め、有り難く」


「しかし、ハワード家から給与を貰えば、その者はハワード家の家臣では?

 そういう訳にはいきません」


「あ、そういうものですか」


「そういうものです」


 アルマダがマツ達の方を向いて、


「ファッテンベルクには、2割受け取って頂きたいと思います。

 マツ様、クレール様。その上で、ハワード家の参入、お許し下さいますか」


 マツがにっこり笑って、


「はい。では、私から1割」


「では、レイシクランからも1割!」


「合わせて2割。ありがとうございます。

 では、こちらから参入の条件を提示したいと思います」


「お聞かせ下さいませ」


「牧場の開始から5年間、ファッテンベルクの負担はハワード家が担う。

 これで如何でしょう」


「これは有り難いお申し出です。

 イザベルさん。ハワード家が、5年間は負担を持って下さいますよ」


「あっ、あっ、有り難き幸せ!」


「うふふ。お父上の尻尾の毛、5年は大丈夫ですね」


「くっ! く、く・・・」


 横でクレールが口を押さえ、肩を震わせる。

 縁側で、ぶふっ! とシズクが大きく吹き出す。


「ふふふ。イザベル様。ひとつお聞きしてもよろしいですか」


「は!」


「イザベル様の家に、会計士という仕事の者はおりませんか?」


「かいけ・・・いし・・・おりませぬが」


「やはりですね。では、製鉄と牧場から出た儲けを使って、会計士を雇うよう、お父上に申し上げてみて下さい。お父上の心労が大きく削がれるはず」


「なんと!?」


「少なくとも、製鉄、牧場の収支で頭を悩ませる事はなくなります。

 毎年の税金計算で、あたふたすることもなくなりますよ」


「は! ご助言、ありがとうございます!」


 アルマダが苦笑して、


「やれやれ、節約しているとは聞きましたが、まさか領地を持つ家で会計士まで節約していたとは」


 クレールも驚いて、


「びっくりしました・・・全部、お父上がやってたんですね。

 イザベルさん、育毛剤をたくさん買うより、会計士の方が安いですよ。

 領地の税金収支なんかもやってたら、大変に決まってますよ」


「全くですよ。軍の仕事に税金に領地経営・・・心労も溜まって当然です。

 人を雇う余裕を作る為にも、ある程度の金儲けは必要ですよ。

 節約も過ぎると、逆に首を絞めていきます」


「ははっ!」


「それと、騎乗技術者の方ですけど、やはり軍人の方になりますかね」


「おそらくは・・・退役の者に誘いをかける事になろうかと存じます」


「トミヤス道場の馬術師範になれるくらいの方、とお願い下さいますか。

 無理なら無理で結構ですが、そういう方が増えれば、カゲミツ様も喜びます。

 まあ、馬術教練の経験者なら大丈夫でしょう」


「お、おお! 確かに! その旨、しかと父上にお伝え致します!」


「うふふ。それでは、ハワード様、イザベルさん。こちらご覧下さい。

 建設予定の候補ですけど・・・」


 マツが図を広げて、4人が顔を突き合わせる。

 カオルが静かに4人の横に茶を並べていく。


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