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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十九章 金
726/760

第726話


 郊外のあばら家。


 マサヒデ、アルマダ、カオルが縁側に座り、シトリナに群がる騎士達とシズクを見ながら、


「あれ、そんなに凄い馬だったんですか。

 早馬にも使われる、なんて聞いてたから、そこまで高くないのかと」


「非常に貴重なんですよ。西方の砂漠の国にしかいない馬。

 紛争地域ですから、外に出ることは滅多にないんです」


「それは聞きましたが」


「純血でないと、あの輝く光沢は出ないんですよ。

 ですから、他の種と交配しては増やせないんです」


「へえ・・・」


「非常に優れたスタミナと知能があるとは聞きましたか?」


「はい」


「今、世に知られている限りのどの種と交配しても、純血を超える身体能力を持った品種にはなりません。純血以外は、他より安いくらいです」


「ただし純血は怖ろしい価値になると言うわけですね」


 アルマダが頷き、


「この国全体でも、まともな若い馬なんて10頭も居ないのでは?

 極々稀に出される馬は、老馬、走れないような酷い怪我をした馬だけです」


「ええっ!? 10頭!?」


「そんな状態でも凄い価格です。月毛、河原毛だと金貨500枚は下りません。

 多分、国営競馬会でも片手で数えられる程度しかいないと思います。

 密輸キャラバンくらいでしか、まともな黄金馬は入手は出来ないんですよ」


「そんな・・・」「・・・」


 カオルも言葉を失って、シズクと騎士達に囲まれるシトリナを見つめる。

 たった10頭もいない・・・

 イザベルはそんな馬を見つけてきたのか!?


「で! 牧場をやると言ってましたね?」


 マサヒデが「は!」として、


「あ、ああ。らしいですが」


「その話、私も乗せてくれるんですよね」


「さあ・・・私もさっき聞いたばかりですから。

 多分、マツさん、クレールさんと決めたのでは?

 カオルさん、そうですよね?」


「はい」


「という訳で、申し訳ありませんが、私は一切知りません。

 商売はマツさん達とご相談下さい」


「くっ・・・今、お二人はどこに」


「確か役所に行くって」


「土地か! 流石に早い!」


 ぱ! とアルマダが立ち上がり、剣を取ってさっと腰に着け、


「皆さん! 出掛けて来ます! 急ぎの用が出来ました!」


 返事も待たず、アルマダが稽古着のまま駆け出して行ってしまった。


「あらら・・・」


「ご主人様、1頭で金貨1000枚となれば、焦りもしましょう。

 マツ様、クレール様、イザベル様、牧場。

 4等分しても、250枚ですよ。2頭売れれば500枚」


「金貨1000枚か。ナミトモも買えますね。

 何頭か売れば、魔剣も買えそうです。売ってればですけど」


「ふふふ。正にカネの馬ですね」



----------



 役所にて。


「通せ! 通してくれ!」


 朝から混み合う役所の中を、アルマダが無理矢理に入って行く。

 何だ何だ、と皆がアルマダが見て、凄い形相に驚いて避けていく。

 アルマダが受付に飛びついて、


「マツ様は! クレール様は来られましたか!」


「あ、ああ、はい。先程」


「どこに!」


「不動産調査部に」


「窓口は!」


「2階上がってすぐの・・・」


「ちいっ! 早い!」


 ぱ! とアルマダが振り返り、


「開けてくれ!」


 と階段にねじ込んで行く。

 すぱー! と階段を駆け上がり、最初のドアの窓口に駆け寄って、


「ここが不動産調査部か!?」


「うぇ! こ、ここですけど」


「マツ様は!」


「今、中に」


 ばあん!

 乱暴にドアが開かれ、口を開けた職員とマツとクレールがアルマダを見る。

 きりりと2人に目を向けて、つかつかとアルマダが歩いて行き、


「マツ様、クレール様、おはようございます」


「あ、おはようございます・・・」


「おはよう、ございます・・・」


 凄い気迫。2人が少し怯んで、身を縮こまらせる。


「少しお話し出来ませんか。今すぐ。急いで」


「あの」


 職員が声を掛けると、アルマダが厳しい目を向け、


「黙れ。抜きたくはない」


 くい、とアルマダが鯉口を切ると、目を丸くして職員が口をつぐむ。

 う! とマツもクレールも口を閉じて、アルマダの剣を見つめる。

 アルマダがドアの方に顎をしゃくって、


「出ていろ。良いと言うまで入るな」


「は! はいッ!」


 顔を青くした職員が椅子を倒してばたばたと駆け出て、ドアを閉める。


「・・・」


 アルマダが職員が座っていた椅子を立てて、マツとクレールの対面に座る。

 すう、と前に散らばった書類を静かにどける。

 ゆっくり腕を動かしただけで、びくっ! と2人が固まる。


「マサヒデさんから聞きましたよ。牧場をやるとか」


 こくん、とマツが喉を鳴らして、


「はい・・・」


「馬は何頭?」


「15、の、予定・・・です」


「15頭」


 アルマダが小さく頷いて、


「ハワード家も乗せてくれませんかね。お願いします」


「・・・」


 もし断ったら、その瞬間、首が飛びそうだ!

 2人の喉が、ごくりと鳴る。

 マツが恐る恐る、


「え、ええと、私達だけでは・・・

 イザベルさんの・・・ファッテンベルク・・・にも・・・」


「そうですか・・・では、夕刻に改めて魔術師協会に参ります。

 イザベル様にも、魔術師協会に来るようにと、ギルドに伝えておきます。

 マツ様。クレール様。そこでご相談は出来ませんか」


「私は、構いませんけど・・・クレールさんは」


 ぶんぶんとクレールが首を縦に振る。

 アルマダが鋭い目で2人を見て、すう、と立ち上がって、頭を下げる。


「ありがとうございます。では、夕刻に」


「お、お待ちしております」


「はいー・・・」


 つかつかとアルマダが歩いて行き、ドアを開ける。

 後ろで、ふぁ、と、マツとクレールの安堵のため息が聞こえる。

 廊下で真っ青な顔で立っていた職員に目を向けると、いつもの朗らかな笑顔。


「お騒がせしましたね」


「い、いえ! いえ! お急ぎのようでしたし!」


「お仕事を邪魔して、大変申し訳ありませんでした。それでは」


 ゆったりとアルマダが歩いて行く。

 窓口の職員が、


「何があったんです。あれ、ハワード様では」


「もう少し、もう少しで、斬られた・・・」


「ええ? 何かやったんですか?」


「全く・・・身に覚えは・・・マツ様と急いで話が、と」


「マツ様と、急ぎの話? あんな勢いで・・・」


 は! と受付職員が顔を上げ、


「もしや、何か大事があったのでは?

 早く中に入って、確認した方が良くありませんか。

 奉行所に使いを出さないといけないかも」


「は! そうだ、そうですね!」


 恐る恐る、職員がドアを開けて中に入って行く。


「あの・・・マツ様、もう、大丈夫、ですかね・・・」


「はい、多分・・・」



----------



 冒険者ギルド、受付。


 依頼を終えたイザベルが戻って来た。


「ふっふっふ。今回も上手くいった。これで昼飯が出来たわ」


 袋いっぱいのパンを持ち上げて、


「小麦袋運びなど楽なものよ。ほれ、好きなのをひとつ選べ」


「わー! ドーナツありますか!?」


「あるぞあるぞ。玉子焼きパンもあるぞ。焼きりんごパンもあるぞ」


「どれにしましょう・・・ううん・・・これ!」


「良いのか? 取り替えは効かぬぞ?」


「これで良いんです! そうそう、ハワード様からお言伝がありますよ」


 イザベルが小さく首を傾げて、


「ハワード様から? はて、何用であろう?」


「分からないですねえ。夕刻、魔術師協会に行くので、来て下さいとだけ」


「それだけか?」


「はい」


 ぽん、とイザベルが手を叩いて、


「ああ、分かったぞ。馬であろう。誰ぞ冒険者から聞いたのではないか?」


「ああ! すごく綺麗でしたものね! 驚きました!」


「1日貸してくれとか、そういう話であろうな。

 あそこの騎士殿も、皆、馬には目がない方々ゆえ」


「なるほど!」


「ふふふ。しかし、あれは鎧では乗れぬな。無念であろう」


「細身ですもんね。でも、モデルみたいですごく綺麗でした!」


「であろうが! 我ながら良い馬を選んだものよ。

 さて、次の依頼といくか」


 イザベルが袋からパンを出して、もしゃもしゃ食べながら掲示板に向かう。


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