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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十九章 金
723/758

第723話


 厩舎。


 シトリナがマサヒデ達の馬と挨拶を終わらせた。

 馬屋がにこにこしながら、シトリナに近付いて来て、


「いやあ、仲良くなれて良かったなあ。でもよ、トミヤス様ん所の馬あ、皆、懐が深い馬ばっかりだし。やっぱガタイがでかいと、器もでかくなるもんだ」


「ははは! ありがとうございます」


 馬屋がイザベルの方を向いて、


「馬房空いてますが、うちに預けますかい?」


 う、とイザベルが狼狽える。


「あいや・・・すまん、金が」


「ははは! じゃ、金が出来たらうちに来なせえ!

 しっかりがっつり世話ぁ致しますぜ!」


「うむ・・・よろしく頼む」


「しかし、黄金馬たあすげえ馬を手に入れましたね。

 こいつは一体どこで? いくらしたんです」


「それは言えん」


「まさかとは思いますが」


「後ろ暗い事は一切ない」


「ははは! 居場所教えてくれたら一包み」


「その一包み、払えるか? 黄金馬の居場所だぞ?」


「でさあな!」


 マツが後ろから進み出て、


「あの、ちょっとお話しが」


「はい、なんでしょう」


 ちら、と店の方を見て、


「中で」


「へい。じゃどうぞ」


 あ、とクレールもイザベルもぴんときた。

 牧場主は、この馬屋に任せるのだ。

 しかし、この馬屋であれば間違いあるまい。

 おっと、と馬屋が足を止め、


「ああそうそう。これから皆の運動の時間ですよ。

 トミヤス様、カオル様、良かったら乗ってやって下さい。

 イザベル様も、中に鞍がありますから、使っても」


「我は鞍はいらぬ。このまま乗れる」


「おお、裸馬にも! いや、流石は騎士さん達とタイマンしてるお方だ!」


「ふふふ。持ち上げても何も出ぬぞ」


「じゃ、ちょいと失礼致します。マツ様、どうぞ」


「はい」


 すたすたとつっかけを鳴らし、マツと馬屋が店に向かって行く。



----------



 馬屋の中で、マツと馬屋が顔を合わせて、


「牧場を作るんですかい」


「はい。私とクレールさんとイザベルさんの共同出資で」


「へーえ・・・」


「それで、牧場主になって下さいませんか」


「はあ!?」


「軌道に乗るまで、何年かは大変だと思いますけど・・・如何でしょうか。

 お金は毎年出資しますから」


「ううん、金の面は問題ないって事ですか・・・」


「土地も、町の外の野原がいっぱいありますし。

 広い所を買い上げますから。どうでしょうか」


 馬屋が腕を組んで、首を左右に傾け、


「ただ広いってだけじゃいけませんよ。水がなきゃ、馬が乾いて死んじまう。

 水場の近くでねえと、遠くから水運びしなきゃならねえ。大変な仕事だ」


「じゃあ、川の近くで・・・」


「水場の近くとなると、土地も高くつきますよ。

 今居る馬もそこに置くつもりでしょう?」


「はい」


「魔術師協会は西の入り口。川は北の職人街に入って横に流れてる。

 この近くに作るとなると、魔術師協会からはここより遠くになりますよ」


「ううん・・・あ、じゃあ井戸を掘ります。

 魔術師協会にも井戸がありますから、近くに地下水脈はあるでしょうし」


「井戸掘り。高い工事になりますぜ」


「私が魔術でぱぱっと掘れます」


「水脈がどこ流れてるか分かるんですかい?

 分かんねえと、水脈探して地面を穴だらけ、なんて事になりますが」


「ううん・・・」


「水脈が、魔術師協会の方から町の外まで伸びてるなら良いですけどね。

 町の中を通って流れてたらどうします。

 北か南かに流れてるなら、やっぱり遠くになりまさあな」


 よいしょ、と馬屋が立ち上がって、引き出しから地図を出す。

 机の上に広げて指差し、


「ここが三浦酒天。勿論、マツ様は知ってございますな」


「はい」


「この裏、この辺に井戸があります」


「はい」


 馬屋が指をすすーと動かして、


「で、冒険者ギルドの裏から、マツ様のとこの魔術師協会に水脈が繋がってる。

 この向きで真っ直ぐ行ってると、町の南の方。遠くなっちまう。

 向き変えて、西に出てれば野っ原ですが、東に伸びてると町の中」


「ううん・・・」


「地下から横に穴掘って、水脈に繋げようなんてのはいけませんよ。

 下手こくと、町の井戸の水位が下がっちまう」


「では、川から引っ張ってきたら」


「河川工事は国の許可が必要ですよ。知ってますでしょう。

 マツ様の魔術でぱぱっと掘れるにしたって、支流はどこに抜けさせます?

 抜ける所まで、ずーっと掘ってくのは、マツ様でも大変でしょう」


「う、ううん」


「この辺の川は暴れたり乾いたりもしねえで、安定して流れてる。

 大雨が降った時も全然平気だ。

 工事の許可を国が下ろしますかね?」


「・・・」


 馬屋が地図の町の外を指差す。

 魔術師協会側。


「この辺の外にゃあ池なんかもねえし・・・水場がねえ。

 溜め池を作るにしたって、やっぱり水を引っ張ってこねえとならねえ。

 井戸掘るにしても、水脈があるか分からねえ。

 あるにしたって、それが遠くに離れてたら、ここより遠くなりますよ」


「あ、じゃあ、溜め池が作れれば、問題ありませんか?」


「ええ」


「水を引っ張らずに溜め池が作れるなら、どこでも作れますか?」


「そりゃ勿論ですが」


 マツがにっこり笑って、ぽん、と水球を出す。


「魔術で水を貯めたら。私なら、大きな池でも一杯に出来ます。

 冒険者ギルドにも、魔術師の方は多くおりますし」


 馬屋が頷いて、にやっと笑い、


「溜め池の工事費はどうなさいます? お高く付きますぜ」


「私がぽんと掘りましょう!」


「ははは! ですわな! じゃ、手押しポンプを置くだけで水は解決だ」


「私が居ない時は、ギルドで冒険者さんを募集すれば良いですよね。

 魔術を使う方はたくさんおられますし、ただ水を出すだけですもの」


「宜しいでしょう」


「他には何かありますでしょうか」


「まず、水は大丈夫と。もし水脈が見つかったなら、溜め池もいらねえ。

 で、馬は何頭捕まえてくるんです?」


「15頭。マサヒデ様達の馬を入れて、19頭になりますか」


 馬屋が驚いて、


「こいつはおったまげた! そんなにですか!

 土地も広く買わねえとなりませんぜ。

 馬房もでかいのを作らねえと」


「うふふ。出資は私とレイシクランなんですよ?

 この町の広さの土地も、丸ごと買い取っちゃえます」


「ははは! 金持ちにゃあ敵いませんな!

 で、牧場でやりたいってのは、あの黄金馬ですね」


「はい」


「増やしてえって訳ですな」


「はい」


「となると、あとは人手ですな。最低でも、あと2、3人は欲しいですね・・・」


 本格的に始まった牧場計画。

 まだまだ、解決しないといけない問題が続く。

 貴重な黄金馬は増やせるのか。


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