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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十九章 金
722/768

第722話


 ここはオリネオの町の厩舎。


 イザベルが新しく捕まえてきた、黄金馬のシトリナ。

 マサヒデ達の馬と初顔合わせ。


「ふふふ。見つめ合ってますね」


「は。少し緊張はあるようですが、この調子ならば」


「うふふ。仲良くなれそうで良かったですね」


 マサヒデ達はにこにこしているが、声が分かるクレールは緊張している。



----------

※以下、馬達の会話

----------



 厩舎に入るなり、手前のばかでかい馬から声を掛けられた。


「おい! てめえ! 何入って来てやがる!」


 白い馬が慌てて、


「こら! マサヒデ様が! イザベル様がいるじゃない! 新人さんよ!」


「ちっ・・・こらっ! 新人ッ! 挨拶せんかいッ!」


「新しくイザベル様付きになりました! シトリナと申します!」


「ほお~・・・イザベル様のぉ・・・」


「宜しくお願いします!」


 くっちゃくっちゃ・・・


「ほほォ~~・・・ガキの癖に良い毛並みしてるっちゃあ~~。

 おいスッタコ! 誰の許可もらってそんな毛ェはやしとるの?

 野っ原じゃあそれで通ったかもしれねえが!」


「ちょっと! あんまり脅かしちゃ駄目よ・・・」


「は・・・あはは・・・生まれつきなもんで・・・」


「ウダラ何ニヤついてんだラァーッ!」


「ゴメンなさい! 知りませんでした! 先輩!」


「知りませんでしたっつって、最後に見かけたのが野犬の餌だったってヤツぁ、何頭もいるぜ・・・おい、その毛ェ脱いでけ」


「いや、あの・・・脱げと言われましても・・・」


「うぉ~い・・・」


 奥の馬房から低い声。

 は! と黒影が奥に目を向け、


「あっ・・・黒嵐さん・・・

 ケッ! 心掛け良くせーよー。今日の所は勘弁してやる。

 黒嵐さん所行け! 奥の黒い方だ! 失礼すんじゃあねえぞッ!」


「はいッ!」


 ぽっくり・・・ぽっくり・・・

 シトリナがゆっくり歩いて、黒嵐の手前で止まる。


「・・・」


「あ、あの! はじめまして、イザベル様付きになりました! シトリナと申します! 今後とも、ひとつ、お世話になります! 宜しくお願いします!」


 じい・・・


「・・・」


 凄い貫禄!

 クレール様曰く、ちょっと怖いけど心根は優しい。

 らしいが・・・怖さしか感じない!


 無言。

 ずっと見てる・・・

 このまま動いたら蹴り飛ばされる! どうしよう!?

 あ! 奥にもう1頭!


「し、失礼します!」


 前足を上げた瞬間。


「シトリナったな・・・」


「はっ! は・・・はいッ!」


「おおい・・・ちょっとこっち来いよ・・・」


「はいッ!」


 ぽく・・・


「・・・」


 じー・・・

 うんともすんとも言わない。

 無言でじっと見られている。

 厩舎の外を、鳥が飛んで行く。


(鳥になりたーい!)



----------



 マサヒデとイザベルが、シトリナと黒嵐を見てにっこり笑う。


「ふふふ。黒嵐に気に入られたようですね」


「は。黒嵐に気に入られましたらば、もう心配はいりますまいかと」


 ごく、とクレールが喉を鳴らす。


(違います! あれは初めての相手の儀式です! シトリナ! 頑張って!)


 ぎゅ! とマサヒデの後ろでクレールが拳を握る。

 イザベルがすたすたと歩いて行き、


「黒嵐。此奴はシトリナという。我の新たな乗馬である。宜しく頼む」



----------

※以下、馬の会話

----------


 ちら、と黒嵐が顔を上げ、イザベルを見る。


「分かってるよ・・・だから今、話してたんじゃねえか・・・」


(話してましたかあ!?)


「行けよ・・・」


「はい!?」


「奥の・・・ファルコン・・・挨拶してこい・・・」


「は! はいッ!」


 どきどきしながら、黒嵐の前を歩いて、奥の馬房。

 マサヒデ様のご親友であらせられる、アルマダ様の乗馬、ファルコン。

 とても気難しい方だが、綺麗な毛が好きだという。

 私なら必ず気に入られる、とマサヒデ様は仰っていたが・・・


「よう!」


「新人のシトリナです! 宜しくお願いします!」


「ヨロシクー! いいねェー! うん! 君スゴく良いよ!」


「ありがとうございます!」


「光ってるじゃないの! ツヤってるじゃないの! キューティクル最高!」


「ありがとうございます!」


「仲良くしようぜ! ブラザーって呼んで良いよ!」


「ありがとうございます!」


「固いねェーッ! でもそんな真面目な所もイイッ! 気に入ったッ!」


「ありがとうございます!」


「ブラザー! ヨロシク! つっても君、女の子? ブラザー駄目? あはは!」


「お心遣い、ありがとうざいます!」


「いいよいいよ! シトリナちゃん、白百合ちゃんに挨拶してないしょ?

 ほらー、ちゃんと行って。カオルさんのベストフレンドだし!」


 ふん! と黒影が顔を上げ、


「ベストフレンドは俺だろがッ! 俺に乗って大興奮してたんだぜェーッ!」


「分かった分かった。もうそれ聞き飽きた。あれ無視していいから。

 声デカいのも、ビビらせようとしてるだけだから。

 知ってる? あれデカいだけで頭張ってたの。

 実際、他とやり合った事ねーのよ」


「おいッ! 新人に変な嘘吹き込むじゃあねえーッ!

 俺ぁ喧嘩上等で頭張ってたんだ! てめやってみっかコラァーッ!」


「は、いや、ちょっと、喧嘩は良くないですよ・・・」


「いいのいいの。絶対来ないよ。あれ口だけ武勇伝君だし」


「ファルコン! てめぇーは・・・てめぇーはッ! 今日死んだぜェーッ!」


「いつもあんな事言ってるの。でも、みんな怪我ひとつしてないしょ?」


「あ、確かに」


「絶対喧嘩とかしないのよ、あいつ。実はビビりだから」


「てめぇーわぁー! 新人にフカシこくなっつてんだろがぁー!」


「ほらほら。白百合ちゃんとこ、挨拶に行きなよ」


「はいッ!」


 ぽくり・・・ぽくり・・・

 黒嵐の前を通り過ぎる。

 威圧感のある目が、じっと見ている。


(マサヒデ様って、この黒嵐さんに乗ってんの・・・やっべェー!)


「あ、あの!」


「うんうん。シトリナちゃんね。大丈夫、大丈夫。

 ここ、皆、超個性系だから。でも、ほんとは優しいんだから」


「は、はい!」


「付き合ってれば、そのうち分かるからね」


「はい!」


 じわ・・・

 なんて優しい馬!


「白百合さん! 宜しくお願いします!」


「うふふ。ほら、イザベル様の所に戻って。挨拶が終わりましたってご報告」


「はい!」


 ぽく・・・ぽく・・・



----------



 シトリナがゆっくりイザベルの所に歩いて行くと、後ろでクレールが拳を握って、うん! と強く頷いた。シトリナ、よく頑張った!

 イザベルが頷いて、


「うむ。シトリナ、皆と挨拶は出来たようだな」


 マサヒデが優しく微笑んで、


「ふふ。黒嵐に気に入ってもらえて良かった。

 クレールさんは、最初、怖い思いをしたそうですし。ね?」


 マサヒデが後ろのクレールに振り向いて、にやっと笑う。


「こここ怖い思いなんて! 初めてで緊張したんです!」


「黒影も無茶を言いましたよね。目玉と交換とか」


 はて、とイザベルが黒影を見て、


「目玉と交換とは?」


「クレールさんの目。赤くて綺麗でしょう?」


「はい」


「えへへへ・・・」


 クレールが照れて顔を下に向ける。


「黒影は乗せてやっても良いが、目玉を寄越せって言ったらしいです」


「ふ、ははは! ここは面白い馬ばかりです!」


 イザベルが笑い声を上げ、マサヒデもにこにこ笑って、


「ははは! でしょう? だから面白いんですよ!」


「シトリナ。お前、埋もれてしまうなよ」


 イザベルが慰めるようにシトリナの首を撫でる。


(イザベル様! ごめんなさい! 無理です!)


 シトリナが皆を見回す。

 剣の達人。怖ろしい気を纏う女。我々の言葉が分かる魔族。忍。鬼。

 同じ馬だけでなく、人にも勝てる気はしない・・・


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