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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十九章 金
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第717話


 ここは魔力異常の洞窟。


 イザベル様が観光に参りました。


(何と美しい)


 ほう、とイザベルがため息をつく。

 薄く輝く魔力の砂。

 歩くたびにふわりと浮いて、イザベルの周りにふわふわと輝きながら上がる。


「おお・・・」


 座って細かな砂を手に取ると、さらさらと落ちていき、手に残った砂がほうと消えていく。


(儚い砂であるな)


 この儚さが、また美しさを際立たせている。

 周りを見渡せば、確かに荷馬車が入る広さも高さも十分にある。

 馬車を入れてくれば、作業もはかどろう。


 ゆっくり歩いて行くと、すぐに石がごろごろとしている。

 手に取ってみると、確かに鍾乳石。

 先が尖っているし、円錐形なので、これを踏んだら簡単に転びそうだ。

 転んだら大怪我になる危険は十分ある。


 歩いて行くと、すぐに広間。

 ここが鍾乳洞であった所か。


(何と大きな)


 すごい広さ。

 上を見上げてみる。

 よくもこの広さで崩れ落ちてこないものだ。

 大変だと思うが、ここには柱と梁を置いておいた方が良いだろう。


 ここにも鍾乳石がごろごろしている。

 しゃがみ込んで・・・


「むうっ!?」


 白い小石が転がっている。

 これはもしや・・・水晶では?

 歩き回り、いくつか拾って、ポケットに入れていく。

 まさか、魔力のこもった水晶か!?

 これは大金になるはず!


 急いで入り口に戻って行く。


「おお、イザベル様。もう宜しいので」


「良い! それより、これを見よ! 水晶が転がっておったぞ!」


 イザベルが大興奮して、拾ってきた水晶を差し出す。

 はは、と忍が笑って、


「ああ。カオル殿も同じ勘違いをしておりました」


「カオル殿? 勘違い?」


「それに魔力はこもっておりませぬぞ」


「え」


「水晶の結晶は、地面に生えておりましょう」


「ああ。それが」


「仮にそれに魔力がこもっておりましたら、転がっております鍾乳石にも魔力がこもっておりましょう? されど、石には籠もっておりませぬな」


「む・・・確かに・・・」


「クレール様に確認をして頂きましたが、やはり普通の水晶で」


 なんだ、と拍子抜けしてしまった。

 ただの水晶であったか・・・


「ううむ・・・これは大金になろうかと思ったのだが」


「もしかしたら中にはあろうかと、水晶は別にして集めております。

 普通の水晶でも売れますし、紫や黄色の水晶があれば、それなりですゆえ」


「まあ、確かにそうであるな・・・」


「ファッテンベルクは、主にシトリンを宝石として宝飾品に使っておりましょう。

 中にありましたらば、お分け致しますぞ」


「ありがたい。質の良い物があれば良いが・・・

 まあ、中々ないという話であったし」


 忍が頷いて、


「それ程ではなくとも、普段使いの飾りとして身に着けるのも良いでしょう。

 高い物では、普段身に着けるには勿体のうございますし」


「ああ、それもそうよな。仕事中に瑕でもついたら大変であるし」


「ええ。安い方が、安心して身に着けられると言うもので」


 ポケットから集めてきた水晶を出して、


「これも貰って良いかな。適当に安いネックレスでも作ってもらおうか」


「どうぞどうぞ。水晶は大量に転がっておりますゆえ」


「ありがたい。では遠慮なく」


「もう行かれますか」


「うむ。あまりここで観光しておる時間もなかろう。水はどこか」


「小屋に綺麗にした水がございますから、そちらから」


「助かる。では頂いていく」



----------



 空になった竹筒に水を入れて、洞窟を去る。

 これでしばらく動けよう。


 イザベルは耳と鼻を澄ませながら、平原を歩いて行く。

 歩きながら、地図を出して確認する。

 実際に歩いてみれば、何とまあ、広い平原であることか。


(ここを走らせたら、気分が良いであろうな)


 馬に乗る感じを夢想しながら、にやにやする。


 見回しても、何も居ない。

 鹿もいない。

 ヤギもいない。

 ああいう動物にはうってつけの場所であろうに・・・

 山の爆発で驚いて、皆、散ってしまったのだろうか。


(何もおらぬなあ)


 耳を澄ませても、小動物がたまに歩く音くらい。ウサギか? ネズミか?

 南側に居るだろうか・・・


 野営した場所まで戻ってくる。

 時計を出して見れば、もう昼をとっくに過ぎている。

 荷を下ろして焚き火を作り直し、干し肉と乾パンで食事。


 ここに居なければ町まで戻り、山の向こう側を捜索だ。

 あてもなく山の捜索は大変であろう・・・


「ふう」


 ため息をついて、背負子をここに置き、縄と水だけ下ろして立ち上がる。

 どうせ、帰りもここから切り開いた道を歩いて帰るのだ。

 森の中では蛇にしか出会わなかったし、大きな動物の気配はなかった。

 何かが荷に寄って来る事はなかろう。

 が、一応、ローブで包んでおく。


 急いで歩いて行けば、夕方までに平地の南端が見える所までは行けるだろう。

 帰りは暗くなろうが、森に沿って歩いて来ればここに戻れる。


 南を向いて、イザベルは歩き出した。



----------



 夕刻。


 日が傾いてきて、やっと平地の南端の方へ。

 イザベルがにやにやしている。


(いるいる)


 やはり居た。

 遠くに点のように馬が見える。

 ここからでは良く分からないが、ロバのような小さな馬でも十分。

 売れば金になるし、石運びにも使えよう。


 驚かさないよう、ゆっくり近付いて行く。


(んん?)


 さくさく・・・

 草を踏みながら歩いて行く。


(まさか黄金馬か!?)


 どの馬も、西日を浴びてやたらと光っている。

 毛にやたら光沢がある。


 ゆっくりゆっくり、慎重に近付いて行く。

 どれも光り輝いている!

 耳もロバのように長い!

 間違いない! 黄金馬だ!

 いくつも馬の群れがある!


 黄金馬は軽種で、馬の中でも最古の種のひとつ。

 軽種ゆえに力もなく、荷運びには向かず、身体も細い。

 当然、重装戦馬にも全く向かない。


 が、恐ろしくスタミナがあり、脚も丈夫。餌も粗食で平気なのだ。

 その丈夫な脚とスタミナが、早馬や障害物競走に向く。

 ほっそりとした身体と光沢の美しさもあり、貴族にも人気の品種。

 知能も高くすぐ人を覚え、非常に扱いやすい馬でもある。


「ふ、ふははは!」


 大声で笑い始めたイザベルを見て、馬達が顔を上げた。


 これは良い。

 雄雌何頭か揃えて行けば、馬屋で繁殖させることも出来るかもしれない。


「よしよし! ほれ、皆驚くな!」


 ゆっくりゆっくり近付いていく。

 足を止め、群れを眺める。


「さあ、我と友になってくれるのは、どやつかなあ?」


 どれが良いだろう・・・


「そこのお前。お前だ」


 ぴ! とイザベルが月毛の馬を指差す。

 淡く光沢のある黄色が西日を受けて輝き、正に文字通りの黄金馬。

 ぶるんぶるん、と馬が尾を振る。


 イザベルがポケットから角砂糖の袋を出して、1粒手に乗せる


「さ、どうだ。これは前払いと言うやつかな。

 お前を雇うという訳ではないが、ま! 友情の証かな?」


 手を前に伸ばし、歩いて行く。

 イザベルの才ゆえか、他の馬はイザベルに気を払っているが、逃げはしない。


「甘いぞ。試しに食ってみろ。このような地では、砂糖など食えまい」


 馬の前で、手を伸ばしたまま足を止める。


「ほれ」


 ふん、ふん、と馬が鼻を鳴らし、そっと口を近付けて、舌を伸ばす。

 軽く、ぺろ、とひとなめ。

 は! と驚いた目をイザベルに向け、べろんと口に放り込む。


「ふっふっふ。どうだ? んん? 我の友とならぬか?」


 ふ、ふ、と息を吐いて、イザベルに顔を突き出してくる。


「そうかそうか。良し、付いてこい」


 引き縄は必要なさそうだ。

 振り向いて歩き出すと、馬がイザベルの後ろに付いてきた。


「ふふふ」


 もうこの馬は私の馬だ!

 疲れは吹き飛んで、にやにやしながら荷物を置いた場所に戻る。


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