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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十九章 金
715/756

第715話


 翌朝、イザベルの野営地。


 荷物の確認。


 山刀。ナイフ。弓。矢。

 大きな竹筒に入れた水3本。干し肉と乾パンの塊。塩。鍋セット。

 火打ち石。砕いた松ぼっくり。縄。懐紙。地図。革袋。

 塗り薬。包帯。手ぬぐい。時計。

 細く割った松を束ねただけの、簡単な松明。

 着替えと、ローブと、寝袋。


 そして、小さな革袋に入れた角砂糖。


「ふっふっふ」


 含み笑いをして、背負子を背負い、背負子のベルトを腰の前で締める。

 顎の下でローブの結び目を締めて、頭に被り、背中の方は背負子に被せる。

 荷に枝などが引っかかったり、濡れたりしないようにする為だ。


「ふんふん」


 ポケットから地図を出して、自分の位置を再確認。

 川の向うの鬱蒼とした森を、川上から川下の方にゆっくり眺める。

 カオルの予想では、この森に馬は居ないそうだ。

 改めて考えてみれば、イザベルもそう思う。馬が住むには狭すぎる。

 だが、上から見て分からないように、枝が被さっているような平地・・・


(ないか。いや、ないわな)


 何故、この森を探そうとしたのか・・・

 百姓家で預かってもらえると聞いて、逸ってしまったか。

 ぺちん! と頬を叩いて、もう一度地図を見直す。


 森を抜けた向こう。


 カオルの言う平地はV字型になっていて、北側に見える山から平地が伸びて来ている。なぜこんな不自然な地形になったのか。まあ、どうでも良い。


 大事なのは、山の方から南に向かって、広く平地が伸びている所。

 かなり広いから、全部を見ていくのには時間がかかりそうだ。

 山の近くは多分居ないだろうとの事だが、爆発がいつ頃かによる。

 野の動物は、意外と早く縄張りに戻って来ていたりするものだ。


 まずは急いで森を抜けてしまおう。

 河原を下りて、川に足を踏み入れ、ばしゃばしゃと繁った森に向かう。



----------



 その頃、魔術師協会。


 素振りを終えた皆が朝餉の時間。


「マサちゃーん。質問」


「なんですか」


「こないだ、イザベル様に矢ぶち込まれたじゃん」


「ちゃんと酒は奢ったじゃないですか」


「そうじゃなくて。あれ、ほんとに鎧ぶち抜けるの?

 痛かったけど、実際ちょっとしか刺さってなかったじゃん」


 マサヒデはちょっと首を傾げて、


「場所によります。腹ならまずいけるでしょう。鎧の形にもよりますが」


「腕は刺さらないの?」


「鎧は金属ですよ。つるっと滑ってしまいます」


「あ、なるほど」


「あと、矢を変えないと、が割れて刺さらないですね」


「の?」


「棒の所です」


「割れちゃうの?」


「強い弓で射るとしょっちゅうですよ。

 強く当たるから、矢尻がはね返る力で割れてしまうんです」


「どうするの?」


「鉄で作った矢を使います」


「は?」


「棒の所を鉄で作ってしまいます。重くなる分、威力も上がります。

 まず割れないので、曲がるだけで済みますし。後で真っ直ぐ」


「いやいやいやいや。見た事ないんだけど」


「ありますよ。矢尻からながーく芯を伸ばしても良いと思います。

 まあ、こっちの方が一般的ですかね。

 あと、矢尻もああいう奴から変えないと」


「あれが普通じゃないの?」


「あれは狩猟用ですからね。生身の相手に使う矢なんですよ。

 征矢そやにしないと難しいでしょう」


「そや?」


「簡単に言うと、戦に使う矢です。もっと矢尻が細くて、突き刺さりやすい。

 大体、征矢は返りがないのが多い印象ですね。

 盾を割るような、大工道具のノミみたいな形の矢尻もありますよ」


「ふーん。じゃあ、その征矢だったら、もっと深く刺さったかな?」


「でしょうね。まあ、そうなったら抜きづらくなったから、あれで良かったんですけど」


「なにそれー! 矢より私の心配してよ!」



----------



 川向の森の中―――


「ちぇーい!」


 ばしん! 山刀で斬られた枝が跳ねて飛ぶ。


「むん! むん!」


 ばし! ばし!


「ちっ!」


 枝やら薮やらが邪魔で仕方がない。

 しかも蔓草が巻き付いて、簡単に手で折っていけない。

 足元も太い根や枝、苔むした石がごろごろしている。


「ええい・・・」


 頭のフードを取って、上を見る。

 木が深い上に荷を背負っているので、枝から枝にも難しい。

 背負子がなければ、何とか行けたかもしれないが、それでは野営が難しい。


「ふん! ふん!」


 山刀を高速で振り、ばしばし枝を払いながら、イザベルが歩いて行く。

 進む速度は、普通の歩行速度と変わらないが・・・

 走りたいのだ!



----------



 半刻後。


「ふあーっ」


 息をついて、イザベルが座り込む。

 一口だけ水を入れ、ゆっくりゆっくり飲む。


 すりすりすり・・・


 静かに地面を這う蛇の音。

 イザベルにははっきり聞こえている。


「ふん」


 矢を抜いて掴み、びし! と蛇の頭に突き刺す。

 ぶるんぶるんと身を振って、蛇が止まった。

 掴もうとして、はっ! と一瞬、手が止まる。


(まさか・・・)


 蛇にもダニは居ないだろうか・・・

 毛が生えていないから、居ないか。


 ぐいっと掴んで、ナイフを出して、ぴ! と頭を落とす。

 ぼたた・・・と血が落ちる。

 革袋を出して、中に入れてしっかり閉じ、背負子のベルトに括り付ける。


 昼飯が出来た。

 歩きながら枯れ枝も拾っておくか。


 落ちた頭に突き刺さった矢を拾い、刺さった頭を乱暴に抜いて放り投げる。

 懐紙を出して、矢とナイフを綺麗に拭き、納めて立ち上がる。


「はあ」


 後ろを振り返ると、野営地から真っ直ぐ枝を払われた空間。

 このくらいなら、馬も通れるだろうか?

 居たら、だが。


(行くか)


 山刀を抜いて、イザベルがばしばしと進んで行く。

 まだ森の中程にも届いていない。

 さっさと平原に行きたい。


 ばし! ばし! ばし!


「おのれ! おのれ! おのれーッ!」


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