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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十九章 金
714/756

第714話


 夕刻、街道。


 シズクが片手ずつ2つの大八車を引っ張り、その後ろに冒険者が1人ずつ。

 イザベルが大八車を1つ。

 冒険者2人の背にも、葛の花が満載。

 山盛りで重く、これだけ取って疲れているが、4人の顔は明るい。


「んふふふ。ねえ! 売り先、決まってる!?」


 がらがらと大きな音を立てる3台の大八車。

 シズクが大声で声を掛ける。


「決まってますよー! 職人街の調薬師!」


「何ーっ!」


 イザベルの大声。


「どうしたんですかー!?」


「我はー! 職人街にー! 入れぬー!」


「えー!」


「いいよー! どっかに置いといてー! 私が運ぶー!」


「頼むー!」


「花ー! 一掴みー! 分けてくれー!」


「いいですよー!」


「すまーん!」


 がらがらがら・・・



----------



 魔術師協会の前。


 大八車とイザベルがシズク達を待っている。

 イザベルは大八車に腰掛けて、荷物番。

 向かいの冒険者ギルドから、受付嬢がこちらを見ている。

 イザベルがにっこり笑って、小さく手を振る。


(どのくらいになろうかな)


 にやにやしていると、魔術師協会の玄関が開いて、カオルが出て来た。

 盆に急須と湯呑を乗せている。


「おかえりなさいませ・・・」


 山盛りの葛の根を見て、カオルが驚いている。


「お、おお! カオル!」


 人前なので呼び捨てだ。


「これはまた」


「ははは! 凄いであろう!」


 湯呑に水を入れて、カオルがイザベルに差し出す。

 ぐっと飲み干して、は! と息をつき、


「あと2台あるのだ。売り先が職人街であるから、2台はそっちに行っておる。我はここで荷物番だ」


「ううむ、この量、1店舗では買い取れますまい」


「売り先はもう決まっておるそうだし、すぐ戻って来る。

 これも売ったらいくらになろうかな」


「花も?」


「勿論! 籠いっぱいだ!」


 懐から膨らんだ小袋を出して、


「カオル。この袋に花が入っておるから、クレール様にハーブティーを出してもらえるか」


「ありがとうございます」


 受け取って、裾にしまい込む。


「花は背負籠に?」


「ああ」


「では、叩かれても金貨30枚は下りますまい」


「30枚! 1人で7、8枚か!」


「よく頑張りました」


「ああ! まとまった金も出来た・・・うむ。

 カオル、明日から少し留守にしようと思う」


「何処かへ配達の依頼でも」


「いや、馬を探しに回ってみたい」


「馬を? 厩舎を借りるには、少々金が」


 イザベルがにやりと笑って、


「おおっと! カオルも知らなかったようだな。

 馬は百姓でそれは安く預かってくれるそうな。

 場合によっては、金がもらえることまであるそうだぞ」


「百姓で? 何故」


「馬糞よ、馬糞。肥料になるからな、それは大事にしてくれるそうだぞ」


「おお! なるほど!」


「冒険者で馬を持っておる者は、大体百姓に預けておるそうだ。

 金がかかるゆえ、まともに厩舎を借りておる者は、あまりいないそうだな」


「ううん、そうでしたか・・・私も知りませんでした。

 肥料を求めるのであれば、あまり安い餌という事もないでしょうか」


「であろうな! 競走馬ほど良い餌ではないであろうが」


「で、どこで馬を探すのです。我々は既に知っておりますが」


「まず森を探してみようと思う。我の野営地の向かいの。

 繁っておるし、獣も多そうであるし、隅から隅となると何日かかろうかな」


「森ですか」


 にやっとイザベルが笑って、


「あの馬がおったのは、山であろう?」


「む・・・」


「高い木があって、登って森の方を眺めて見たのだ。

 上から見ると、木が鬱蒼としておって、開けた場所が見えなかった。

 魔獣も居りそうだし、まず探しに行く者はおるまい」


「・・・」


「となると・・・人の手があまり入っておらぬ山。

 そのどこかの山に、下から見ても、分からぬような平地があると見た。

 この予想、どうかな?」


「ご明察です」


「ハワード様達も、同じ場所から捕まえてきたな。

 トミヤス道場の馬も同じ。違うかな?」


「その通り」


「同じ場所であまり捕まえると、馬も減る。

 それに、もう良い馬も残ってはおるまいよ。

 それゆえ、新しい場所を探してみようと思うのだ」


「なるほど」


「森におらなんだら山の方に行くが、既に見つけた場所は何処であるかな。

 そこ以外の場所を見つけたいのだ」


「ううむ・・・少々お待ち下さい」


 カオルが戻って行って、地図を持って来る。

 イザベルの前で広げて、指先でくるりと小さく円を描く。


「この山。この中腹の辺りに大きく開けた場所があり、馬がおります」


「なるほど。やはり下から見ても分からぬと」


「はい」


「森におると思うか?」


「居ないと思います。ある程度開けておらねば、馬が住みづらい。

 そのくらい開けている場所であれば、上から見ても分かりましょう」


「ふうむ」


「新しく探すのであれば・・・」


 カオルが地図の上を指を滑らせていく。


「あの森を抜けた向こう側です。ここは開けております。

 鬱蒼とした森に囲まれており、北側は山。まず人は入ってこない」


「ほう」


「ただ、見つけても連れて来るのは大変ですね。森を抜けねばなりません。

 肉食の動物がおれば、襲われる危険もありますし、驚いて逃げ出すかも」


「であるな」


「北側に山がありますが、先日この山が爆発したので、この山や、山の近くには居ないでしょう。探すのであれば南側の方」


「爆発?」


 イザベルが山の方を見る。

 噴煙などは上がっていないが・・・


「ふふふ。貯まった魔力が爆発したのですよ」


「あっ! では、では、あの鉄の棒は!」


 カオルがにやっと笑って頷く。

 あの山には、魔力の籠もった金属の鉱脈があるのだ・・・


「そういう事です。この山は既にマツ様が買い取っております」


「むう・・・」


 カオルが指を滑らせていき、カオルが見つけた馬の住処の山へ。


「で、先程の平地に居なければ、この山を回ってみると宜しいかと。

 おそらく、こちら側の斜面には、他の群れは居りますまい。

 反対側に回り、少し登って上から見るか。

 ぐるりと回りながら、耳と鼻を澄ませてみるか・・・」


 イザベルが地図に指を置き、


「カオル達が馬を捕らえたのはここ」


「はい」


「良し。山に行くとなったら、ここ以外を探してみよう。

 まずは森を抜けて探してみるとする」


 カオルと話していると、シズク達が戻って来た。

 にこにこしながら手を振っている。

 上手くいったようだ。


「皆様の水も持って参ります」


 カオルが小さく頭を下げて、魔術師協会の中に戻って行く。

 シズクがにこにこしながら、どすどすと小走りで駆け寄って来た。


「イザベル様ー!」


「どうであった?」


「んふふふー。花も入れて、24枚! すごいね!

 この大八車も入れたら、30枚は軽く超えるね!」


「おお!」


 冒険者2人も駆け寄って来て、


「大金! 大金ですよ!」


「凄いです! 頑張ったかいがありましたよ!」


「良し! やったな!」


 シズクが大八車を掴んで、


「じゃあこれも売りに行ってくるよ!」


「よしよし! 待っておるぞ!」


 男の冒険者も後に付いていく。

 カオルを待たずに行ってしまったが、まあ良いだろう。

 1人で金貨で8枚以上になりそうだ。

 残った女冒険者に、


「1人8枚は超えそうだな?」


「はい!」


「よし。合計で32枚以上あったら、我は8枚で良いぞ」


「え!?」


「あとは3人で分けてくれ。ちとギルドに行ってくる。すぐ戻る」


 受付嬢に、数日留守にすると伝えに行こう。

 分前は8枚もあれば十分だ。

 馬を探しに行くのだから!


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