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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十九章 金
713/756

第713話


 翌朝、山の中―――


 がらがらと大八車を引いて、イザベル達が山を登る。


「匂うてきたぞ、匂うてきたぞ! 金のなる木、いや金のなるつるの匂い!」


「どれどれ!?」


「ほれ、甘酸っぱい匂いがするであろうが!

 金の匂いは甘酸っぱいのよ!」


「あーあ・・・この匂いがそうか! 知ってる知ってる!

 赤っぽい紫っぽい花のやつだ!」


「そうよ! ふははははー!」


 高笑いする2人の後ろで、冒険者2人がひいひい言いながら、大八車を引いてくる。少し登って大八車を止め、輪の下に石を置いて止める。


「ここらだ・・・」


 にやにやしながら、イザベルが近くの木に歩いて行き、


「ほれ、シズク殿! ここへ参れ!」


「んー?」


 つるを手に取り、花を摘んで、


「これよ、これ! この花よ! 匂いを覚えておけ!」


「この花か!」


 シズクが花に顔を近付けて、すんすんと鼻を鳴らせる。

 にやりと笑って、


「んー! 本当だ! 金の匂いは甘酸っぱいね!」


「そうであろうが! くはははは!

 よおし、皆の者! まずは根を探すのだ!

 つるを伝って、埋もれている根を探し出すぞ!」


「おー!」


 冒険者2人はぐったりと大八車に背をもたれ、


「ちょっと、休ませて下さい・・・」


「私も・・・」


 イザベルもシズクもにっこり笑って、


「おお、良い良い! しばし休んでおれ! さ、シズク殿。参ろう」


「うんうん!」


 イザベルがつるを手に取って、ゆっくりと下まで指で伝って行く。


「ここに来て・・・」


 切れないように軽く引っ張りながら、追いかけていく。

 するするとつるに沿って歩いて行く。


「ちょっと待て」


「何々?」


「おかしいぞ。これか?」


「んん?」


 イザベルが指差したつる、というか太い枝。1寸(3cm)はあろう。


「これが・・・つるか?」


「まじ? これ、根っこどのくらいあるんだろ・・・」


 手に持ったつるをもう一度確認する。

 少しずつ手を動かしていき・・・


「うむ・・・いや、確かに、ここから生えておるが・・・信じられんな。

 あやつに聞いてみよう。よく似た違う植物かもしれぬし」


 イザベルが立ち上がって、男の冒険者を呼ぶ。


「おおい! らしいのが見つかったぞ!」


「え!? もうすか!?」


 驚いた顔で、冒険者が立ち上がって歩いて来る。


「ここからつるが伸びて来ておるが・・・これか?」


「あ、すっげえ! よく見つけましたね!」


「やはりこれなのか・・・細い木くらいの太さがあるが・・・」


「まじかよ・・・」


 イザベルとシズクがつるの根本を見る。


「これ見つけるのが大変なんすよ! さすが狼族と鬼族は違いますね!」


「そ、そうか?」


「へへへ。だろ?」


「ちょっと掘ってみて下さい。軽くですよ。

 横に伸びてる時もあるから、気を付けて」


「うむ」


 イザベルがスコップの先の方を持って、さく、さくと少しずつ掘っていく。

 長芋くらいの太さの根が見えてくる。


「お、おお! これが!」


「横に伸びてますね。これなら浅いから、まだ掘りやすいかも。

 股に分かれてたり、絡まってる所を注意して掘ってって下さい」


「あまり長いと、大八車に載らんな」


「丸めるか、切ってしまいましょう。まずは掘り出してみませんと。

 芋みたいに丸くなってる所があったら、大体そこは葛粉が取れるんです」


「浅く切って、白い汁が出るかどうかで分かると聞いたが」


「おお、よくご存知ですね! 大体、太くなってる所がそうなんですよ」


「そうか! よし、シズク殿!」


「おっしゃ!」


 2人がスコップを握る。


「じゃあ、私達は葉っぱと花を集めてますね!」


「頼む!」


 さく、さく・・・

 イザベルとシズクが目を輝かせる。


「おおう、伸びておるのお! 金が伸びておるわ!」


「伸びてるねえ!」


 さく! ぱしん! さく! ぱしん!

 土を吹き飛ばしながら、凄い勢いで掘っていく。


「おほ! おほほほほ!」


「うひひひ! 伸びてる伸びてる!」


 時に手を突っ込んで土を放り投げながら、狼と鬼が土を掘っていく・・・



----------



 半刻後。


 イザベルとシズクが立ち上がって、掘り始めた所を見る。

 反対側にも伸びていたので、全部で5間以上の長さはある。


「うむ! 良い汗をかいたの!」


「だねえ!」


「よし、折らぬよう、ゆっくりとな」


「そうだね!」


 みし・・・みし・・・

 繊維質の根が小さく音を立てながら、引っこ抜かれて行く。

 イザベルとシズクが慎重に丸めて、どさりと大八車に置き、顔を合わせて笑う。


「おうおう! 1本でこれだけあるか! ふはははは!

 漢方薬になるというが、これは高かろうな!」


「ね! これで金貨1枚はないでしょ!」


 背負籠を背負った2人の冒険者が歩いて来て、


「うわ! すげえ!」


「ひゃー!」


 目を丸くして驚く。


「ふふん。どうであろう? これでいくらするかの?」


「これだけで金貨2、3枚いくんじゃないですか!?

 粉取れなくても、調薬師に持ってけば全然大丈夫ですよ!」


「おお!」


「私達の花もありますし! これ、今日だけで金貨何枚稼げますかね!?」


「この調子で掘っていけば、1人5、6枚は稼げそうではないか!?

 いやいや、もっと行くであろうか!?」


「やっべえー!」


「よし! シズク殿! どんどん掘って行くぞ!」


「いこういこう! 次の根っこだ! あははは!」


 がさがさとイザベルとシズクが歩いて行く。

 冒険者2人も顔を見合わせ、


「俺らもどんどん花集めようぜ!

 分かんなくなるから、この根っこから伸びてるつる、まとめとこう」


「おけ! まとめたらついでに花も取っちゃおう!」


「切らねえように、先っぽからな!」


 がさがさと2人もつるをまとめていく。


「後で余裕あったら、葉っぱもまとめて取っちまおう。茶葉で売れるぜ」


「余裕あるかなー。もっと籠と袋持って来れば良かったね。

 葉っぱ取ってたら、すぐいっぱいになっちゃうよ」


「イザベル様に頼んで、持って来てもらうか?

 イザベル様が全力で走れば、往復でも半刻もかからねえと思うぜ。

 葉っぱなんか、このままぴーって引っ張ればまとめて取れちまうだろ」


「まず花集めようよ。高いのから!」


「だな!」


 まとめたつるから、ぴ! ぴ! と花を摘んで、籠に入れていく。

 皆の目に金の字が見える。


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