第713話
翌朝、山の中―――
がらがらと大八車を引いて、イザベル達が山を登る。
「匂うてきたぞ、匂うてきたぞ! 金のなる木、いや金のなるつるの匂い!」
「どれどれ!?」
「ほれ、甘酸っぱい匂いがするであろうが!
金の匂いは甘酸っぱいのよ!」
「あーあ・・・この匂いがそうか! 知ってる知ってる!
赤っぽい紫っぽい花のやつだ!」
「そうよ! ふははははー!」
高笑いする2人の後ろで、冒険者2人がひいひい言いながら、大八車を引いてくる。少し登って大八車を止め、輪の下に石を置いて止める。
「ここらだ・・・」
にやにやしながら、イザベルが近くの木に歩いて行き、
「ほれ、シズク殿! ここへ参れ!」
「んー?」
つるを手に取り、花を摘んで、
「これよ、これ! この花よ! 匂いを覚えておけ!」
「この花か!」
シズクが花に顔を近付けて、すんすんと鼻を鳴らせる。
にやりと笑って、
「んー! 本当だ! 金の匂いは甘酸っぱいね!」
「そうであろうが! くはははは!
よおし、皆の者! まずは根を探すのだ!
つるを伝って、埋もれている根を探し出すぞ!」
「おー!」
冒険者2人はぐったりと大八車に背をもたれ、
「ちょっと、休ませて下さい・・・」
「私も・・・」
イザベルもシズクもにっこり笑って、
「おお、良い良い! しばし休んでおれ! さ、シズク殿。参ろう」
「うんうん!」
イザベルがつるを手に取って、ゆっくりと下まで指で伝って行く。
「ここに来て・・・」
切れないように軽く引っ張りながら、追いかけていく。
するするとつるに沿って歩いて行く。
「ちょっと待て」
「何々?」
「おかしいぞ。これか?」
「んん?」
イザベルが指差したつる、というか太い枝。1寸(3cm)はあろう。
「これが・・・つるか?」
「まじ? これ、根っこどのくらいあるんだろ・・・」
手に持ったつるをもう一度確認する。
少しずつ手を動かしていき・・・
「うむ・・・いや、確かに、ここから生えておるが・・・信じられんな。
あやつに聞いてみよう。よく似た違う植物かもしれぬし」
イザベルが立ち上がって、男の冒険者を呼ぶ。
「おおい! らしいのが見つかったぞ!」
「え!? もうすか!?」
驚いた顔で、冒険者が立ち上がって歩いて来る。
「ここからつるが伸びて来ておるが・・・これか?」
「あ、すっげえ! よく見つけましたね!」
「やはりこれなのか・・・細い木くらいの太さがあるが・・・」
「まじかよ・・・」
イザベルとシズクがつるの根本を見る。
「これ見つけるのが大変なんすよ! さすが狼族と鬼族は違いますね!」
「そ、そうか?」
「へへへ。だろ?」
「ちょっと掘ってみて下さい。軽くですよ。
横に伸びてる時もあるから、気を付けて」
「うむ」
イザベルがスコップの先の方を持って、さく、さくと少しずつ掘っていく。
長芋くらいの太さの根が見えてくる。
「お、おお! これが!」
「横に伸びてますね。これなら浅いから、まだ掘りやすいかも。
股に分かれてたり、絡まってる所を注意して掘ってって下さい」
「あまり長いと、大八車に載らんな」
「丸めるか、切ってしまいましょう。まずは掘り出してみませんと。
芋みたいに丸くなってる所があったら、大体そこは葛粉が取れるんです」
「浅く切って、白い汁が出るかどうかで分かると聞いたが」
「おお、よくご存知ですね! 大体、太くなってる所がそうなんですよ」
「そうか! よし、シズク殿!」
「おっしゃ!」
2人がスコップを握る。
「じゃあ、私達は葉っぱと花を集めてますね!」
「頼む!」
さく、さく・・・
イザベルとシズクが目を輝かせる。
「おおう、伸びておるのお! 金が伸びておるわ!」
「伸びてるねえ!」
さく! ぱしん! さく! ぱしん!
土を吹き飛ばしながら、凄い勢いで掘っていく。
「おほ! おほほほほ!」
「うひひひ! 伸びてる伸びてる!」
時に手を突っ込んで土を放り投げながら、狼と鬼が土を掘っていく・・・
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半刻後。
イザベルとシズクが立ち上がって、掘り始めた所を見る。
反対側にも伸びていたので、全部で5間以上の長さはある。
「うむ! 良い汗をかいたの!」
「だねえ!」
「よし、折らぬよう、ゆっくりとな」
「そうだね!」
みし・・・みし・・・
繊維質の根が小さく音を立てながら、引っこ抜かれて行く。
イザベルとシズクが慎重に丸めて、どさりと大八車に置き、顔を合わせて笑う。
「おうおう! 1本でこれだけあるか! ふはははは!
漢方薬になるというが、これは高かろうな!」
「ね! これで金貨1枚はないでしょ!」
背負籠を背負った2人の冒険者が歩いて来て、
「うわ! すげえ!」
「ひゃー!」
目を丸くして驚く。
「ふふん。どうであろう? これでいくらするかの?」
「これだけで金貨2、3枚いくんじゃないですか!?
粉取れなくても、調薬師に持ってけば全然大丈夫ですよ!」
「おお!」
「私達の花もありますし! これ、今日だけで金貨何枚稼げますかね!?」
「この調子で掘っていけば、1人5、6枚は稼げそうではないか!?
いやいや、もっと行くであろうか!?」
「やっべえー!」
「よし! シズク殿! どんどん掘って行くぞ!」
「いこういこう! 次の根っこだ! あははは!」
がさがさとイザベルとシズクが歩いて行く。
冒険者2人も顔を見合わせ、
「俺らもどんどん花集めようぜ!
分かんなくなるから、この根っこから伸びてるつる、まとめとこう」
「おけ! まとめたらついでに花も取っちゃおう!」
「切らねえように、先っぽからな!」
がさがさと2人もつるをまとめていく。
「後で余裕あったら、葉っぱもまとめて取っちまおう。茶葉で売れるぜ」
「余裕あるかなー。もっと籠と袋持って来れば良かったね。
葉っぱ取ってたら、すぐいっぱいになっちゃうよ」
「イザベル様に頼んで、持って来てもらうか?
イザベル様が全力で走れば、往復でも半刻もかからねえと思うぜ。
葉っぱなんか、このままぴーって引っ張ればまとめて取れちまうだろ」
「まず花集めようよ。高いのから!」
「だな!」
まとめたつるから、ぴ! ぴ! と花を摘んで、籠に入れていく。
皆の目に金の字が見える。