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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十九章 金
712/758

第712話


 夕刻、魔術師協会。


 がらっ!


「イザベルでございます!」


「お疲れ様です」


「おお、カオル殿! 朗報があります!」


「何か」


「大量の葛を発見致しました!」


「くず・・・葛餅とか、葛根湯の葛ですか?」


「如何にも!」


「あれは・・・掘るのが大変だと思いますが」


「そこでシズク殿のお力をと。我と2人で大儲け」


 くす、とカオルが笑って、


「ご相談下さい」


「は!」



----------



 居間に入りかけ、足を止めた。


 静かに廊下に座って、待つ。

 マサヒデが雲切丸を抜いて、すうー・・・と静かに刀身を拭いている。

 目を細めて刀身をじっと見て、鞘に納める。


「む、イザベルさん」


「お邪魔致します」


「待たせてしまいましたか」


「いえ。つい先程来たばかりで」


「そうですか。どうぞ」


 ふうー、とシズクとクレールが息をつく。

 イザベルが空気が柔らかくなった居間にいそいそと入り込み、


「マサヒデ様、聞いて下さいませ!」


「おっと、また何か嬉しい事でも」


「はい! 本日、山の手入れに行きまして、これが金貨1枚!」


「おお、稼ぎましたね」


「と、そこで大発見を」


「大発見。何をです」


「大量の葛を見つけました!」


「ほう。葛ですか」


「はい! 同行した冒険者曰く、葛は花も葉もつるも根も、全部売れるとか。

 文字通り、金のなる木です! 根が1本で金貨1枚はするとか!」


「へえ! 根は知ってましたが、花も葉も? 全部ですか」


「はい。葛布などはご存知で」


「ああ! なるほど!」


「あれもつるから作られるとか・・・」


 カオルが茶を差し出して、


「今の季節のつるは売れませんよ」


「えっ」


「葛布に使うつるは、初夏の物ですから。

 ですが、代わりに花が咲きます。これが薬として高く売れます」


「やはり!」


「ふふふ。ご主人様の二日酔いの薬にも入っております」


 マサヒデが驚いて、カオルを見る。


「そうだったんですか?」


「ええ。良く効きましょう?」


「いや、あれは凄く効きますよ」


「花はそのままハーブティーにしても良し。

 乾燥させてハーブティーにしても良し。

 粉末にして薬にするも良し。

 使い方が簡単で効能が良いので、高いのです」


「ハーブティー!」


 クレールが身を乗り出す。

 イザベルがにっこり笑って、


「少し頂いて参りましょう」


「お願いします!」


 カオルが頷いて、


「根を掘り出しましたら、浅く切って見て下さい。

 白い汁が出る物からは、葛粉が出来ます。

 粉屋に売れば高く売れるでしょう。

 粉にする物は冬に掘ると良いのですが、今の季節でも少しはあると思います」


「なるほど」


「白い汁が出ない物は、全て薬として売るのです。

 細かく切り、乾燥させて粉末にし、葛根湯の材料となります。

 花も調薬師に持って行くと高く売れますよ」


「葉は何処で売るのが良いでしょうか」


「茶屋が良いでしょう。いや、馬屋に聞いてみても良いかもしれません」


「馬屋?」


「葛の葉は、馬の大好物なのですよ。馬の健康にも良いのです」


「なんと!? それは知りませんでした・・・」


「葛の葉を『ウマノボタモチ』と言う名で呼ぶ地方もあるほどです」


「では、葛の葉の茶とは?」


「葛らしく、滑らかな感じで、血行促進効果のある健康飲料です。

 血行促進効果により、風邪、発熱の初期症状の緩和。

 脂肪燃焼を促し、肥満対策にもなります」


「「肥満対策!?」」


 マツとクレールが同時に声を上げて、皆がくすっと笑う。


「ただ乾して軽く炒るだけで、茶葉の出来上がり。

 手間も掛かりませんから、茶屋でも買い叩かれる事はないでしょう」


 イザベルがちらりとマツとクレールを見て、


「葉も頂いて参りましょうか?」


「むっ!」


「イザベルさん・・・それはどういう意味で」


 クレールがイザベルを睨む。

 マツの背中から黒いもやが出てくる。

 びく! とイザベルが身を震わせ、


「い、いえ! 先ほど、声を上げておられましたので!」


「ああ・・・そうでしたね」


 マサヒデがぱしぱし膝を叩いて、


「ははは! 好きなだけ甘い物が食べられますね!」


「ふん!」


「クレールさんも、ドレスに困らなくなるではありませんか」


「むっ!」


「ふふふ。イザベルさん、葉は売ってしまいなさい。

 乾かして茶葉を作るのを待ち切れないでしょう」


「はっ! 時にシズク殿」


「んー?」


「明日、共に葛の根を掘りに参らぬか。手伝いの冒険者が2人。我ら2人。

 報酬は4人で山分け。葛の根は1本で金貨1枚にもなるそうな」


 ば! とシズクが起き上がって、


「え! まじで!?」


「人の背丈もあるそうであるが、我らであれば軽く掘れよう? どうか」


「行く行く! 4本も掘れば1人で金貨1枚でしょ!

 葉っぱも花も売ったら、もう大儲けじゃん!」


「冒険者2人には花と葉を取らせ、我らで根を掘る。

 掘った根は大八車で山積みよ! いくら儲かるかな! ははは!」


「おおー! 良いじゃん! イザベル様、ついてくよ!」


「では、明日卯の刻前にはここに来るゆえ、弁当の準備は忘れずに頼む。

 夕方まで、掘って掘って掘りまくるのだ!」


「よっしゃ! 大八車も1個じゃ足りないよね!

 私と、イザベル様で1個、冒険者2人で1個!

 いっぱい積んで、3個で運ぼうよ!」


「おお! そうよな! それで良いな!」


 カオルがくすくす笑いながら、


「根を探すのが大変なのです。つるから地面に向かっていき、大量の葛の葉の中から探さねばなりません。これを仕事とする者もいるほどなのです」


「そうなのですか?」


「イザベル様とシズクさんと・・・いえ、まず4人全員で根を探すと良いでしょう。

 根が見つかったら、お二人で掘り、冒険者さんに葉と花をお任せして」


「お教え、ありがとうございます」


「それと、葛の根は非常に長いですよ。

 中には4間も5間(1間=約1.8m)もある物があります。

 まあ、お二人であれば問題ないと思いますが」


「なんと!?」


「ええー! そんなに!?」


「そうですとも。横にくねくね曲がって絡んでいたり、深く地中に入り込んでいたり。掘るのは大変ですが・・・」


 シズクがにやっと笑って、親指と人差し指で丸を作り、


「その分、これになるって訳だ」


「如何にも」


「イザベル様! 頑張ろう!」


「うむ! 必ず掘り出してみせようぞ!」


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