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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十九章 金
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第711話


 弁当を受け取り、山の中。


 冒険者2人と雑談をしながら、イザベルがばしばしと軽く枝を払っていく。


「さっき、我が馬を見る目があると言ったであろう」


「はい」


「ファッテンベルクは魔王軍で騎馬隊を率いておる。

 我の目は確かだぞ。信用して、馬を見つけたら教えよ」


「ええっ!? 騎馬隊ってまじすか!?」


「ん? 嘘ではないぞ。父上は魔王軍の騎馬隊の大将である。

 貴族連中に聞いてみよ。こんな事、少し調べれば分かる事だ」


「ええー!? お父上は、お父上は、大将なんですか!?」


「そうだ」


「すげえ!」「さすがファッテンベルク!」


「と、思われがちだがな。軍の大将なんかになるものではない。大して金も入らんし、他の何たら隊の大将とかと喧嘩をしては、腹を立てて帰って来たりしてな。父上も上下左右から毎日突き上げられ、このままでは心労で尻尾の毛が抜けると頭を抱える始末よ。抜け毛を見つけては顔を青くしてな」


「大将って、大変なんですね・・・」


「そうだぞ。間違っても軍には入るなよ。

 それより、冒険者で赤帯を目指した方が余程良い。

 冒険者など安定せぬと言われるが、引退後もマツモト殿のように働ける。

 好きな仲間と好きに働き、心労も少なかろう。軍より遥かに良い環境だ」


「そうなんですね・・・」


「軍人の方が格好良い感じしますけど。公務員で安定してますし」


「でもない。給与は安定してはおろうが、そう上がりもせんと思うぞ。

 冒険者稼業であれば、仕事を選ばねば多く稼げるであろうが」


「確かに!」


「危険がある仕事であるというのは、どちらも同じ。

 であれば、稼げる方が良いであろう。

 心労でハゲる心配も少ないしな」


「心労・・・」


「そうさな。例えばだ。軍のパレードなど見た事があるか?」


「あります!」


「格好良いですよね!」


「あの兵達は、どうだ格好良いだろう、などと思ってはおらん。

 あれは大変だぞ。甲冑を着て、町中をゆっくりゆっくりと練り歩く。

 鎧の中は汗まみれで、熱中症寸前。少しでも歩みが乱れては後で大叱責。

 早く終わってくれ! 早く水をくれ! 誰か助けて!

 我も着ておったから、よく分かる・・・今の季節は地獄だ」


「・・・」


「宿舎はどうか。埃ひとつ見つかれば、隅から隅まで掃除のやり直し。

 夜中に抜き打ち訓練で叩き起こされ、走り回らされる。

 しかし飯は無料では? 米粒ひとつ残せばもう1皿。2粒残せばもう2皿。

 うっかり食い切れなくなったら、訓練場を気絶するまでランニング・・・

 ふふふ。素晴らしい環境よな」


「本当ですか、それ」


「本当も本当よ。我も正式な軍属にはならなんだが、稽古の一環として訓練兵と共に訓練は受けておったからな・・・ああ、嫌だ! 軍など御免よ! それで、武人の道を選んだ。他に喋るなよ。もし父上の耳に入ったら」


 びし! とイザベルが枝を叩き切る。


「このように首が飛ぶ」


「厳しいですね」


「そうよ。軍人として働きたいなら、名のある傭兵団に入る事を勧める。

 絶対に儲かるし、正規軍より肩肘張らずに楽だ。

 そして、傭兵より冒険者の方が稼げるし楽だ」


「何か夢が壊れますう」


「まあ、訓練を終えて正規兵になれば少しだけ楽になる。少しだけな」


「少しだけですか」


「休暇があるからな・・・訓練兵に休暇はない」


 ぴし! とイザベルがつるを切った所で、


「あ、ちょっと待った!!」


「なんだ」


「イザベル様! それ葛ですよ!」


「何!? これが葛か!?」


「そうですよ! その根っこ、持ってけば大金になりますよ!

 1本あれば、周りにたくさんありますよ!」


「何!?」


 きょろきょろと周りを見渡す。

 冒険者が切ったつるを拾い上げて、


「これです! この葉っぱ!」


「あー! 本当! 葛じゃん!」


「これが葛の葉か!」


 3人が顔を近付けて、葉を見つめる。

 少しして、顔を上げて、周りを見渡す。

 声を潜め、


「近くに他の組はおらんな」


「いないですね」


「いません」


「よし・・・たくさんあるのだな。明日、我らで堀りにこよう」


「はい」


「そうしましょう」


「スコップはいるな。他に何か必要な物はあるか」


「大八車も欲しいですね。ここまで持って来るのは難儀ですけど」


「大八車? そんなに取るのか?」


「葛の根っこって凄くでかいんです。短くても人の背丈くらい」


「何? そんなにか?」


「深く掘らないといけないから、結構な重労働です。

 ですけど、見返りは凄く大きいですよ。

 1本で金貨1枚にはなります」


「では、では、大八車に載せるだけ載せたら・・・」


「そういう事です。この葉っぱもつるも、全部売れますよ」


「全部!?」


「嘘!?」


「葛は金の元ですからね。イザベル様、葛布って知りませんか?」


「や、知らぬが・・・我の領地では、そもそも山林が少ないからな。

 生えている葛など、見た事もなかった」


「葛布は最高級素材ですよ。絹と同じくらい」


「な、何!? では、では、この葉とつるからも大金が・・・」


 男冒険者が頷き、


「葉は茶葉として・・・ええと」


 つるを引っ張っていくと、赤紫の花。


「あったあった。これ、花も高く売れるんですよ。乾燥させれば漢方薬、生でもお湯にぶちこむだけでハーブティーになるんですよ」


「花もか!?」


「あ! 秋の七草! 葛!」


「そうそれ。あ、でも今の季節のつるって売れるのかな・・・

 大体、依頼は夏より前しかないからなあ・・・明日までに確認しておきますよ」


「頼む!」


「お願いね!」


 男冒険者がにやにや笑って、


「もし売れたら、葛布分けてもらうと良いですよ。

 下着作って」


 ぱしん! と女冒険者が頭をはたく。


「イザベル様の前で変な事言わない!」


 いって、と男冒険者が頭をさすりながら、


「いやいや、冗談じゃなくて、まじで葛布すごいんだって。

 ドレスとかにも使われるんだぜ」


「ほんとお?」


「ほんとほんと。絹みたいにきらきらするからさ。

 あ、そうそう。火消しの人らが着る火事羽織ってあるだろ。

 あれも葛布なんだよ。あれ、超高いんだぜ」


「そうなの?」


「そうだよ。濡れてもすぐ乾くから、重くならないんだ。

 あとさ、ばい菌とかも全然付かないんだよ。破傷風防止の服なんだ。

 だから、戦乱期の武将とか、鎧下は絶対に葛布製って決まってたんだぜ」


「なんと!?」


「まじ!? そんな凄いの!?」


「そうだよ。超高い包帯みたいな布なんだよ。

 しかも、絹みたいにつやつやですべすべで、高級感満載。

 町に帰ったら、服屋に行って葛布の服いくらって聞いてみろよ。

 値段聞いたら絶対におったまげるぜ」


「うっそー・・・本当に金の元なんだ・・・」


「葛とはそんなに凄い草だったのだな・・・ちと、その花を」


「どうぞ」


 イザベルが花を取って、すんすんと匂いを嗅ぐ。


「・・・この感じだな。ふふふ・・・覚えたぞ」


 にやっと笑って、


「くくく。喜べ。もう探し放題だ」


 イザベルが顔を上げて、鼻を鳴らしながら周りを見渡す。

 にやにやしながら、


「おうおう! 匂う匂う! んー! 金の匂いは甘酸っぱいのお!

 あれからも、そちらからも! おおう、良い香りじゃのおー!」


「さすがイザベル様!」


「ありがとうございます!」


 よし、と3人がまた顔を近付ける。


「ではな、明日の朝、町の門に集合。

 卯の刻で良いな? 弁当持って、夕方まで掘って掘って掘りまくるぞ」


「「はい!」」


「大八車は借りられるか?」


「ギルドで借りられますよ」


「よし。手配を頼む。縄は多目にな。多少積んでも、我がおれば運べるわ。

 それと、何が売れるか確認ついでに、買値も調べておけよ。

 出来るだけ高く売らねばな」


「お任せ下さい」


「我はシズク殿に助力を求めてみる。説得出来れば良いが」


「おお! シズク先生ですか!」


「シズクさんなら、いくらでも掘れそうですね!」


「もしシズクが駄目であっても、馬は必ず用意出来る。

 さすがにマサヒデ様やカオルの馬は無理だがな。

 ほれ、将棋の兄さんのしょっぱい馬よ。あれは必ず借りられる。

 酒1升も持って行けば、喜んで差し出してくれるであろう」


「抜かりない!」


「さすがイザベル様!」


「シズク殿がおっても、山分けで良いな? たくさん掘れるであろうし」


「勿論ですとも!」


「全然大丈夫です!」


 イザベル達が頷く。


「よし。今日は狩りはやめて、さっさと引き上げようではないか。

 明日は穴掘りで疲れそうであるし。

 お主は大八車とスコップ、縄は多目にな」


「はい!」


「お主は、売れる部位と、値段の確認」


「はい!」


「頼むぞ! さあ、仕事に戻ろう!」


「「はい!」」


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