表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者祭  作者: 牧野三河
第四十九章 金
710/762

第710話


 翌朝、オリネオ町役場前。


「おはようございまーす」


 職員のだるそうな声。


「全員集合したようなので、現地まで向かいます。

 歩きながらで構いませんので、3人一組作っておいて下さい」


 ふわあ、とあくびをしながら、職員がたらたら歩いて行く。

 後ろに大八車に荷物を載せて、別の職員が3人押していく。


「ち、なんだあれは・・・」


 と顔をしかめながら、イザベルもぞろぞろと歩く人の群れの中で歩いて行く。

 隣に男と女の冒険者が1人ずつ並び、


「イザベル様」


「ん?」


「私達と組みませんか」


「ああ。良いぞ」


「よっしゃ!」「やった!」


 と、2人が拳を握る。


「何だ、何をそんなに喜ぶ」


 女冒険者がイザベルの肩の弓を見て、


「狩り、するんですよね」


「そのつもりではある」


 冒険者2人も肩の弓をくいと持ち上げ、


「私達もなんです。さっさと終わらせて、いっぱい狩りましょう!」


「ふふ。楽しくなりそうではないか。ところで、聞きたい事があるのだが」


「何でしょう?」


「害獣駆除で特別手当とあったが、害獣とはやはり野犬と熊か」


「鹿も猪もですよ」


「そうなのか?」


「畑を荒らすんです。特に鹿は多いですし」


「ううむ、そうか。では適当に狩っておれば良いのか」


「はい」


 む、とイザベルが腕を組んで、


「今回行く山に、馬などおらぬか?」


「馬! 居たら良いですね!」


「私は聞いた事がありませんが・・・」


「そうか、おらぬか」


「人の手が入る山なので、居たら全て捕獲されていると思いますよ」


「む、それもそうか。ところで、馬を厩舎に預けるとなると、如何ほどかかるであろうか」


「ううん・・・」


 冒険者2人が腕を組む。


「あげる餌で大きく違うみたいですよ」


「餌か」


「競走馬みたいに良い餌をあげていると、餌代だけで月に金貨が何枚も。

 安い餌だと、銀貨何十枚くらい。上はきりがありませんね」


「むむむ・・・」


「世話代は月に金貨2、3枚くらいでしょうか? もっと?」


「そのくらいじゃないの? 年間契約でもう少し安く済むでしょ」


「ううむ、金がかかるな」


 ふふん、と男の冒険者が笑って、


「意外と農家さんで預かってもらえる所がありますよ。

 ほら、馬糞が肥料になりますから。

 餌代を少しかさ増しくらいで済みます」


「何っ!?」


「嘘おー!?」


「いや本当だって。大体、農家で預けてる人が多いよ。

 預かってくれる農家は、その肥料も売って商売してるんだって。

 肥料って高いんだぜ」


「盲点であった・・・そうか、肥料! 農家か!」


「そういう事です。預かり物ですから、しっかり世話もしてくれますよ。

 荷運びにも使わせてやれば、無料だったり逆に金をもらえたり」


「ううむ!」


「馬を手に入れたら、少し農家さんを回ってみたらどうです。

 やっぱり大きい所が狙い目ですよ」


「良い事を聞いた!」


「本当! 私も知らなかったよー」


「この町の冒険者で馬持ってる人、少ねえもんなー。

 冒険者でちゃんとした厩舎で預けてる人、そんなにいないんだぜ」


「ううむ、知らなんだ・・・」


「そうかあー」


「まともな厩舎に預けると、金が飛んできますからね。

 この町だと、トミヤス様と貴族様だけじゃないですか。

 農家さんに預ける人がほとんどですよ」


「あ! トミヤス様の馬! 見た見た!」


「すげえよな! あんなばかでかい馬、餌代だけで月にいくらなんだろ!」


「カゲミツ様が乗ってたあの凄い馬! あれもトミヤス様のでしょ!?」


「違うって。あれはカオル先生のやつ」


「ええっ!」


「カオル先生、あの白いのと、カゲミツ様が乗ってた黒いのと、2頭の馬持ってるんだよ。凄えよな、あの馬」


「まじで!?」


「まじまじ。稽古の時、カオル先生から聞いたもん」


 盛り上がる冒険者2人の話を聞きながら、イザベルが腕を組む。

 馬はそんなに金が掛かるとは・・・

 平民の身で、それを3頭も預けているマサヒデ様! 凄い!


「カオル先生ってさ、どうやって稼いでるの?」


「トミヤス道場にしょっちゅう行ってるじゃん。代稽古でしょ」


「それだけで、あんな大きい馬、2頭も預けれるのかな?」


「多分、トミヤス先生がもう1頭、同じようなの持ってたんじゃないの。

 で、もう1頭の馬は売って、厩舎は永代レンタルでしょ。

 3頭分くらい余裕じゃない?」


「うっそ!? 3頭分で永代レンタル!? 馬ってそんなにするの!?」


「馬、高いぜー。いっぺん、馬屋覗きに行って見ろよ。

 トミヤス先生とかカオル先生クラスの馬だと、金貨100枚は軽く超えるぜ。

 もう何百枚って値段じゃね?」


「まーじー!?」


「俺も相場は大体しか知らねえけど、今は勇者祭で馬が減って値段が爆上がりしてんだって。ロバか馬か分かんねえような馬でも、何十枚するぜ。将棋の兄さんの馬もそのくらいじゃねえかな」


「あんなしょっぱい馬で!?」


「なあ、それよりさ、カオル先生の白い馬あるだろ。名前知ってる?」


「え、知らない」


「あんなゴツいのに、白百合だって!」


「えー!?」


「でさ、カオル先生が慌てて手え振って、違う違う! 私じゃない!

 名前付けたの、マツ様なんだー! って!」


「えー! マツ様かわいい!」


「だろだろ!? 怖い感じだけど、意外とそういう所あるんだよ!

 馬、大好きらしいぜ。俺らも手に入れたら見せに行ってみようぜ」


「えー・・・トミヤス先生の馬とか見慣れてるんでしょ?」


「大丈夫じゃね? 名前付けて下さいって、きっと喜ぶと思うんだよ。

 でさ、ばかでかい黒い方。あれ黒影って名前なんだけど」


「うんうん」


「あれはトミヤス先生が名前付けたんだよ。で、黒いから影じゃねえんだ」


「じゃ、なんで?」


「トミヤス先生と捕まえに行ったらしいの。で、時間が夕方でさ。

 カオル先生が馬引いて来た時、西日の逆光でさ。長ーく影が伸びてて。

 またそれが凄い綺麗だったらしいよ。それで影なんだってよ」


「うわー!」


「で、あの馬、群れのリーダーだったんだって。

 カオル先生が馬引いて来たら、群れが途中まで付いて来てさ。

 トミヤス先生が待ってる所まで来て、群れの皆とお別れって、足止めて」


「あーん! もうカオル先生かっこ良すぎー!」


「だろー!? 話聞いてて、俺もぐっときたんだよ!」


「じゃあ、トミヤス先生の馬は?」


「黒嵐!」


「こくらん? 蘭の花の蘭?」


「違う違う。嵐のらん」


「うわかっこいいー! さすがトミヤス先生!」


「でもさ、これが笑っちまうんだよな。

 花の名前付けないと、マツ様が怒るかもって、らんって付けたんだって」


「あははは!」


「で、らんって聞いて、マツ様、最初は喜んだらしいけど、後で嵐のらんって聞いて、すげーがっかりしたんだってよ」


「マツ様かわいいー!」


「なー! だからさ、別にごますりって訳じゃねえけどさ。

 やっぱマツ様には喜んで欲しいじゃん? 名前付けてもらおうぜ」


「うんうん!」


 男冒険者が声を潜めて、


「でよ・・・ここで大事な話になるんだよ。イザベル様も聞いて下さいよ」


「む? 何だ?」


「トミヤス先生って、ほとんど町は出ませんよね」


「そうなのか? 我は最近、町に来たばかりゆえ」


「あ、そうか。いや、今までほとんど町は離れてないんですよ」


「ほう」


「でー、ですよ。この町に来た時は、馬は持ってなかったんですよ」


 ぽん、と女冒険者が手を叩いて、


「ああー! 分かった! 町の近くに馬がいる?」


「そう! どっかにいるんだよ! 絶対そう!」


「どこだろ?」


「俺の予想だと、あの森の向こう。川向こう、全然手入れされてねえんだ。

 どっかに開けた所があるんじゃねえかな。

 それか、やっぱ手入れされてない山のどっか」


「なるほどー!」


 む、とイザベルが首を傾げて、


「それがもし個人の土地であったら、泥棒にならぬか?」


「それがならないんですよ。ここら辺だと、野生馬って害獣の指定なんです」


「何!? そうだったのか!?」


「ええ。群れで1日中草食ってますからね。ヤギみたいな感じです。

 放っておくと、どんどん草がなくなりますから」


「知らなんだ・・・」


「立入禁止されてる区域は別ですよ。入るだけで怒られますからね。

 まあ、見つからなければ全然問題ないんですけど。

 全然手入れしてない土地に入った所で、大して怒られたりはしません」


「確かに、確かにそうだな!」


「今日行く山ではまず居ないと思いますけど、時間を作って馬探しも良いかなって思ってるんですよね。獣人族の誰か誘って、一緒に探してもらうとかしてもらおうかなって」


「良いな・・・実に良い。我も山か森を回ってみるか」


「見つけたら教えて下さいよ」


 イザベルがにやりと笑って、


「いいや。全部売って金にする」


「あー! ここまで教えてもらったのにずるい!」


「ははは! 冗談よ。お主らには1頭ずつ分けてやっても良いぞ。

 我も馬を見る目は自信があるから、見立ててやる!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ