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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十八章 大魔術師の称号
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第699話


 時は少し遡り、トミヤス道場。


 タマゴを膝に乗せたマツを前に、クレール、カオル、シズクの3人が、カゲミツの前で正座している。カゲミツがにこにこしながら、


「で? 嬉しい報せって何?」


「うふふ。こちらです」


 マツが帯に挟んだ書簡を差し出す。


「ん?」


 とカゲミツが手に取って、う! と顔をこわばらせ、


「げっ! 陛下からじゃねえかよ・・・」


 くす、とマツが笑って、


「ご安心下さい。パーティーではございませんので」


「ああ、そうか・・・で、何?」


「まあ、まずはご覧を」


 ぱらり。


「んん・・・大魔術師・・・うっそ!? これ称号の下賜じゃねえかよ!?

 大魔術師の称号!? テルクニが大魔術師!?」


 ざわ! と門弟達の声が上がる。

 カゲミツが蝋封の印を確かめ、書簡に押された国王の印を確かめる。

 つー、と変な汗が首筋を垂れていく。


「これ、本物じゃねえか・・・いいや! ちょっと待て。

 テルクニはまだタマゴなんだぞ。もらえるわけがねえ。

 ははあーん、またマサヒデと一緒にからかいに来たな?

 あいつはどこに隠れてやがる」


「こちらを」


 マツが懐からど派手な小箱を出し、カゲミツに差し出す。

 受け取って、カゲミツが箱を開ける。

 銀のメダルの首飾り。


「何これ」


「うふふ」


 マツが首からそっと首飾りを外す。


「お父上。こんな所に同じ物が。その猫のメダルは、大魔術師の証」


「・・・本物?」


「はい。こちらが陛下からの誕生祝いです。

 協会は意固地な所がありますから、骨を折って下さいましたでしょう」


「タマゴだよ?」


「はい。異例な事です」


 クレールが後ろで手を付いて頭を下げる。


「お父様! おめでとうございます!」


 カオルとシズクも頭を下げる。


「「カゲミツ様! おめでとうございます!」」


 ざわついていた門弟達もはっとして、


「「「カゲミツ様! おめでとうございます!」」」


 ゆっくりカゲミツが立ち上がって、また、どすん、と座る。


「嘘だ・・・」


 にこにこ笑ったマツ。後ろでは全員が頭を下げている。


「本物なの?」


「はい」


「ふ、ははははは! やった! タマゴで大魔術師!」


 ばん! と音を立ててカゲミツが立ち上がり、


「おい! 酒屋に行ってありったけの酒買ってこい!

 食い物も全部買ってこい! 村中に声掛けろ! 村の皆に奢るぞ!

 今日の稽古は休み! 今から宴だ! 全員走れ!」


「「「は!」」」


「ははははは! 大魔術師だ!」



----------



冒険者ギルド食堂。


 8代王暴れ日記を知らないイザベルが質問。


「マサヒデ様、8代王とはどのような」


 マサヒデが狼狽えて、


「ええと・・・何か凄い人です」


 駄目だ、とホルニが小さくため息をついて、


「イザベル様。8代王とは、タイガーハートとも異名が付くほどの烈王。

 この王が立つ戦場に負けはなしと言われた王です。

 実際、和睦した時以外に引いたという記録は残っておりません」


「なんと! それほどの王でしたか!」


「強烈なカリスマを持ち、民百姓から兵まで大人気の王でした。

 首都にはタイガーハート像という像が置かれ、今でも人気ある王です。

 戦だけでなく、その政にも手腕を発揮しております」


「政にも」


 うむ、とホルニが頷き、指をくりながら、


「新農地の開発、町火消の設置、目安箱の設置、無料診療所の設置。

 それまで文治政治に重きを置かれた国内での、武芸奨励政策。

 全国の奉行所の見直しも、ひとつひとつ丁寧に行いました。

 財政問題に対する倹約令も、自ら手本を見せました。

 食を一汁一菜、2食にする。普段の服には木綿。

 御庭番衆の創設による警備強化。海上保安強化などなど・・・

 政に関しての業績も、もう挙げたらきりがありません」


「そこまでの王でありましたか・・・」


「魔の国からの書の輸入を解禁したのもこの王。

 これにより、この国では稚拙であった魔術が発展したと言われております。

 まあ、それでも魔術が日の目を見たのは、魔の国との戦争後でしたが・・・

 しかし、この王が居らねば、人の国で魔術が日の目を見るのが何百年遅れたか」


「ううむ!」


「8代王暴れ日記とは、この王がこっそり城を抜け出ては、首都に起こる事件や問題の解決、腐敗代官の討伐など行う、勧善懲悪を描いた創作物語です」


「実際に強かったのでしょうか」


「王家の御留流剣術であった、車道流ヤナギ派の免許皆伝を受けております。

 かの王は、何事にもまず自ら手本を、という姿勢の王でありました。

 故に箔をつける為に剣術指南役が授けた物ではない、と言われております。

 私もそう考えております」


「正に王の手本と言うべきお方ではありませぬか」


「町火消や目安箱など、多くの制度が今でも残っております」


「ううむ・・・」


「かの王の業績はそれほどでありました。

 魔の国との戦争時は、もしこの王がおればなどと言われたそうですな」


「もし居られたら、魔の国も苦戦したでしょうか」


 ふん、とホルニが鼻で笑って、


「いいえ。実際、居た所で魔の国に被害など出なかったでしょう。

 もしこの王が居られたら、即刻停戦、和睦となった事でありましょう。

 そういう意味では、もしこの王がおられたら、と私も思います」


 ぽん、とマサヒデが手に拳を乗せて、


「そうそう。象って、この国では8代王が初めて乗ったんですよね。

 アルマダさんに聞きました」


「と、言われておりますな」


「象。あの大きくて鼻の長い?」


「ええ。西方の砂漠の国から仕入れてきたとか・・・でしたっけ?」


「らしいですな。この王の在王中は、貴族の間で象を飼うことが流行ったとか逸話が残っております。倹約令を出し自らも質素に暮らしつつ、魅せる所では魅せ、民を喜ばせる。そういう所が良く分かっておられたのでしょう」


「象・・・ラクダも乗ったでしょうか?」


「ラクダ? キャラバンの?」


「はい。ファッテンベルク領ではラクダが名産でして。

 もしかしてラクダに乗っていたら、我が領から、などと」


「へえ・・・ファッテンベルクって、ラクダが名産なんですか」


「はい。遊牧を生業にしている者が多く、大半はラクダを飼っております」


「ということは、ファッテンベルクって砂漠なんですか?」


「いえ。ステップと言うのでしょうか。

 木や草は小さい物しか生えておらず、森林はほとんどありません。

 荒れ地が多く、雨もほとんど降りません」


「そんな所だったんですか。ラクダって、砂漠じゃなくてもいるんですね」


「はい。ラクダのチーズなどは、我がファッテンベルクの名産です」


「ラクダのチーズ? 名産品なら、ここにもありますかね」


 マサヒデがメニューを広げるが、


「あってもファッテンベルクの物はないかと。

 あまり日持ちしませんので、輸出は近隣の領に限られておるのです」


「チーズなのに日持ちしないんですか?」


「はい。1週間も持ちません。

 ですが、味はレイシクランのお墨付きを頂いております」


「へえ! 凄いじゃないですか!」


「ワインと合わせれば、天にも登る宴となります」


 む! とホルニが身を乗り出す。


「それほど酒に合う物ですか?」


「それはもう。先日やきとりなる物を食べましたが・・・

 ふっ。如何に合えども、ファッテンベルクのチーズには及びませぬ。

 これは胸を張って言えます。この食堂のどれにも負けませぬ!」


「うぬぬ・・・口惜しい!」


 きりきりとホルニが歯噛みする。

 マサヒデがホルニを見て、


「クレールさんに頼んで、送ってもらったらどうです」


「クレール様に?」


「ほら。レイシクランのワインの箱。あれ、冷えてるじゃないですか。

 ああいう冷たい箱を使えば、遠くまで運べるかも」


「「あっ!」」


 イザベルとホルニが大声を上げた。

 そうだ! 冷やして運べば、遠くまで運べる!


 凄い! と思いかけ、いや、とイザベルが首を傾げる。


 そのような魔術のかかった箱代は高額。それも考えると如何な物か?

 いつ黒字になるだろうか?

 過去に同じような事を、誰も考えなかったか?

 金勘定は良く分からないが、考えたであろうか・・・


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