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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十八章 大魔術師の称号
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第697話


 冒険者ギルド、食堂。


「む! この焼はんぺんは良いですね」


「マサヒデさん。この煎り豆腐も中々」


「あ、この豆もやし良いよ! 塩胡椒だけなのに、美味しい!」


 マサヒデ、ラディ、イマイはメニューを適当に頼んで、3人でちまちまつまむと、すっと横のイザベルの前にすべらせる。


 がつがつとイザベルが食べ、ぐいっと酒を煽る。

 たまにホルニも箸を伸ばして食べている。


「そろそろ、すっきりしたのいきたいね」


「ですね・・・あ、これ頼みましょう。山芋の短冊切り。梅干し汁かけ」


「良さそうです。汁物・・・」


「汁物もいっぱいあるねえ。あ、しじみ良いじゃない。これにしよう」


「知らない料理ばかりです」


「山芋だけでもいっぱいあるなあ。

 山芋たたき月見うどん。チーズ和え。グラタン。炒め・・・

 うわ、これすごいよ。うな丼にとろろとか。強壮薬じゃないのこれ」


「すごいです」


「うへえ、見て下さいよこれ。納豆長芋オクラの3色粘り和えとか」


「粘りしかないね!?」


「マサヒデさん、山芋は膨れます。一品にしましょう」


「そうですね。短冊切りだけにしておきますか」


「あ、こーれ美味しそう! いくら醤油漬け丼!」


「イマイさん、ご飯物はやめておきましょう。他が入りませんよ」


「ご飯抜きで醤油漬けだけ頼めるかなあ?」


 次々に頼んではイザベルにすべらせる。

 もりもりとイザベルが食べていく。

 一区切りついた所で、


「あ、そうでした。マサヒデさん、これ」


 ラディが懐から布を取り出し、ぱらりと開いて棒を出す。


「む! 成功品ですか!」


「はい。ちょっとここでは危険ですから」


「どんなの?」


 イマイが手を伸ばした所で、ぴ、とラディがイマイの手を掴む。


「いけません。強力な磁石です」


「ほう? 磁石ですか」


 イマイが手を引いて、


「磁石? 強力って、どのくらい?」


 ラディが隣のテーブルを見て、少し首を傾げ、


「多分、あの方々の得物は奪えます」


「え! 凄いね! そんなに強いの!?」


「ですけど、自分の得物や鎧まで」


「ああ、そうか」


 ラディがにやっと笑って、


「ですが、たたら場に送りましたら・・・砂鉄集めなど」


 は! とマサヒデとイマイの目が見開かれる。


「むっ!」「ラディちゃん!」


「持って数歩も歩けば大量の砂鉄が」


「ううむ!」「なるほど!」


「これをお送りしまして、代わりに鋼を安く仕入れられればと。

 マサヒデさん、如何でしょうか」


「素晴らしいと思いますよ!」


「私はキホ地方のどこかに送ろうかと考えていますが、ご希望はありますか」


 イマイが身を乗り出し、


「たたらの鉄はキホが良いね。トミヤスさん、僕もキホを勧めるよ。

 次手で北のゾエ。炭もあるし、量も質も良いけど、海を渡らないと。

 距離も遠くなるし、運送の手間もかかる」


 マサヒデが頷いて、


「キホに送りましょう。ここで運送依頼を出します。

 世にひとつしかない、最高の砂鉄集めの道具だ。

 厳重な警備を付けて送りましょう」


「はい」


 ラディが頷いて、くるくると布を巻き、棒をマサヒデに差し出す。

 マサヒデが受け取って、懐に入れる。


「条件はどのくらいにしましょうか。半額はふっかけすぎでしょうか」


「半額なんて安すぎるよ。砂鉄集め、どうやってやってるか知ってる?」


「いえ」


「山を切り崩してさ、堤を作っておいて、土砂を川に流して、貯めて、砂と鉄の重さの違いで貯まってるやつを分けて取るんだ。大変だよ、これ。その棒なら、適当に歩いてきゅっと握るだけで、ばさっと砂鉄が集まるんだ」


「へえ・・・そんな風に」


「キホには『たたら御三家』って鉄作りの家があるから、一番安く鉄を譲ってくれる所に送りなよ」


「ほう。御三家なんて家があるんですか」


「うん。で、そんな道具があったら、あっという間に他の家と差が付くよね。競りさせると良いと思うよ。すごく安い値で一級の鉄を分けてくれると思うね。金ももらえるんじゃない? 僕だったら永代契約で買うな」


「それほどですかね?」


「それほどだね。警備は本当に厳重にしておきなよ。

 どこのたたら場も、喉から手が出るほど欲しがる物だよ。

 1年もしたら、ホルニさんじゃ捌けないくらい、鉄が送られてくるかもね」


「競りですか・・・冒険者さんで、競りって開けますかね」


「ううん・・・クレールさんに頼んでみたらどうかな?

 レイシクランの人、1人つけてもらいなよ。

 そういうの出来る人、1人か2人はいるでしょ」


「ふむ」


「で、向こうで御三家に実物見せて、どこか借りて競りだよ。見ものだね。

 ここからなら、冒険者さんの足なら1週間。かかっても10日。

 で、御三家に2、3日考える時間あげるとするでしょ。

 競りやって、帰って来て、1ヶ月もかからないんじゃない?」


「意外と早く済みますね」


「トミヤスさん、これから寝てても金が入ってくるようになるね。

 もう人生勝ったも同然。働かなくて良くなった」


「今も働いてませんからね」


「ははは!」


 イマイが笑って、テーブルに身を乗り出し、マサヒデとラディをちょいちょいと指で招く。2人が顔を近付けると、


「ねえねえ、砂鉄ならその辺の土にあるじゃない。

 ちょっと外に出て試してみない?」



----------



 こっそりと3人で食堂を抜け出て、すぐ外の門から町の外に出る。


 街道から外れて5分ほど歩き、きょろきょろ周りを見渡す。

 向こうに町の門番が見える。


「この辺で良いでしょ。じゃあ、ラディちゃん、少し離れて」


「はい」


 布に包まれた棒を持って、ラディが歩いて離れて行く、


「トミヤスさん、雲切丸、持ってかれないように押さえてね」


「はい」


 マサヒデがぐっと刀の柄を押さえる。

 イマイが頷いて、


「ラディちゃーん! やってみてー!」


 こくん、とラディが頷いて棒を握った瞬間、ぼふ! と真っ黒な塊。


「ああっ!?」


 驚いてラディが膝を付き、ぱ、と手を離す。

 どしゃりと黒い砂の山が落ち、鉄の棒が傾く。


「おお・・・」「なんとまあ・・・」


 マサヒデが近付いてしゃがみこみ、ラディを見る。

 驚いているだけだ。怪我などはなさそうだ。


 黒い砂の山に指を突っ込む。

 イマイも手ですくって、ぱあっと顔を輝かせ、


「重い! 鉄だ! 砂鉄だよ!」


 ばす! とラディも手を突っ込む。


「ああ! 鉄!」


「これはすごいですね・・・」


 マサヒデも手を入れて、軽く持ち上げてみる。

 ずっしり重い。砂の重さではない。

 さらさらと手から落ちていく。


「こんなのがあったら大変だよ! 簡単に鉄が作れちゃうよ! 大事件だよ!」


 イマイの顔は全然大変という顔ではない。喜色満面だ。

 マサヒデは立ち上がって、ラディの手から落ちた布を拾った。


「これで鉄作りが盛んになるんですね」


「なるよ! なるなる! この辺でも作れちゃうんじゃないの!?」


 棒を指先でつまんで、布をくるくると巻き付け、慎重に懐に入れる。


「さっきの御三家の話ですけど」


「何々? 御三家? どうかしたの?」


「3つ家があるなら、4ヶ月回り持ちで貸すなんてどうでしょう。

 競争相手が居なくなると、いずれ廃れると思うんですが」


 お? とイマイが顔を上げて、にやにやして、


「トミヤスさーん」


「なんです、その顔」


「黒いなあ。御三家全部から絞ろうっての?」


「違いますよ!」


「ははは! 冗談、冗談! でも、それならちゃんと御目付をつけないと」


「御目付かあ」


「レイシクランに看板が増えるね」


「ふうむ・・・」


 マサヒデが腕を組んで、


「イマイさん。たたらの鉄って、他の・・・

 何て言うのかな、鉱山から掘る鉄より儲かるんですか?」


「いや、全然。たたら御三家なんて言われてても、貧乏貴族も良い所だよ。

 イザベルさんも驚くんじゃない?」


「ふむ。では今回は同じ貧乏貴族同士、ファッテンベルクに譲りましょう。

 ファッテンベルクから御目付を置いてもらって、鉄なり金なり。

 こっちには、ホルニ工房に一級の鉄を分けてもらうって感じで」


「トミヤスさん取り分は?」


「んん・・・月に金貨5枚でいいかな」


「ええ?」「マサヒデさん、それは」


「私、マツさん、クレールさん、カオルさん、シズクさん。

 魔術師協会の5人分。十分ですよ」


 イマイがにっこり笑って、


「5枚じゃ少ないよ。そこは10枚にしておかなきゃ。

 1人1枚じゃ、クレール様とシズクさんが食べられないと思うよ」


「む、そうですね・・・」


「良いもの見れたし、戻ろうか。イザベル様に相談しようよ」


「ははは! 相談出来ますかね? 酔っ払ってないと良いんですけど」


 う、とラディが気不味い顔をして、


「父が申し訳ありません」


「祝いで呑んでるんですよ。何も謝る事はありません。さあ、戻りましょう」


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