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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十八章 大魔術師の称号
695/756

第695話


 冒険者ギルド、食堂。


 稽古が終わり、マサヒデの奢りで冒険者達は食い放題、飲み放題。

 大騒ぎの食堂で、入れ代わり立ち代わり祝いにくる冒険者を相手に、マサヒデが照れ笑いをしながら頭を下げては、すいすいと呑んでる。


 イザベルはマサヒデの後ろで、太刀持ちのように雲切丸を持っている。

 一緒に酒をお受け下さい、は勘弁だ。

 しばらく酒は呑みたくないので、こうして後ろに控えている。


(酒は嫌いと聞いていたが)


 カオルにも酒が嫌いだと注意されたし、マサヒデにも呑みすぎないようにと注意もされた。先日の深酒は大失敗であった。


「ありがとうございます。ではご返杯」


 マサヒデが嬉しそうに冒険者に酒を注いでいる。


(はて?)


 酒嫌いのようには全く見えないが・・・


 しばらくすると冒険者の祝いの酒が収まって、マサヒデは席を離れ、食堂の隅のテーブルに移った。マサヒデはイザベルの手から雲切丸を受け取って、


「さ、イザベルさんも座って」


「は」


 マサヒデが徳利を持って、イザベルに徳利の先を向ける。

 あ、と小さな盃を取ると、マサヒデが酒を注ぐ。


「マサヒデ様自ら、光栄でございます」


「そんなに固くならなくて良いんですよ」


「は」


 つい、と小さな盃に注がれた酒を一気に飲み干す。


「ふふふ。二日酔いで懲りましたか」


 顔に出てしまったか・・・


「は・・・先日は情けない姿を」


「構いません。私も、皆さんに酷い姿を見られています。

 さ、食べましょうか」


「は」


 マサヒデは自分の盃に少し注いで、テーブルの隅にどける。

 酒はいらない、のサイン。


 コップを前に置いて水を注いで、箸を取る。

 やはり酒は嫌いなのか?


「マサヒデ様は」


「ん?」


 唐揚げをかじりながら、マサヒデが顔を上げる。


「酒はお嫌いだと、お聞きしましたが」


「まあ・・・」


 マサヒデが徳利を持ち上げ、


「三浦酒天なんかの料理と合わせて呑むのは、美味しいと思います。

 それでも、美味しいと感じるのは、せいぜいこれ1本2本」


「それにしては、先程は随分と」


「ふふふ。イザベルさん、ここに来る時、私から何か匂いませんでしたか?

 そう、例えば・・・」


 マサヒデが裾から小さな紙包みをつまみ出し、


「薬のような」


 す、と小さく鼻を鳴らすと、確かに薬の匂い。


「それは?」


「カオルさんに調合してもらった酔い止め。

 いくら呑んでも酔わなくなります。

 なので、いくら受けても平気なんですよ」


「酔い止めですか」


「ええ。私は下戸な上に、無理に呑まされた事も何度かあって。

 二日酔いにも随分と苦しめられましたからね。

 カオルさんに頼んで、いくつか作ってもらってあるんです」


 カオルがテントに置いてくれた置き手紙!

 良薬相談、と書いてあった!


「昨日、二日酔いで寝込んでいる所に、カオル殿が来たようで。

 置き手紙が置いてありました」


「置き手紙?」


「二日酔い1包、銀貨10枚と」


「ははは! 1包で銀貨10枚ですか! カオルさんもふっかけましたね!」


 マサヒデが笑いを止めて、しげしげと紙包みを見つめる。


「いや、何使ってるか分かりませんし、実際そのくらいするのかな?

 ・・・これ、もしかしてすごい材料使ってあるのかな・・・」


 指先でつまめる1包で銀貨10枚。

 一体何を使っているのか?


「材料の名はお聞きに?」


「いや、調薬については教えられないと。まあ、当然ですか。

 素人が真似して事故になっては大変ですし」


「ううむ・・・」


「実際、カオルさんの薬ってすごく効くんです。

 頭痛も吐き気もすっと引くし、変な副作用とかもないし・・・

 何を使って、どう作ってるんだろう?」


 すんすん、とイザベルが鼻を鳴らし、首を傾げる。


「匂いはよくある漢方薬、という感じしか分かりませんが・・・」


「何なんでしょうね? 混ぜ方とか分量とか、そういう所でしょうか」


「ううむ、薬の知識があれば、何を使っているかも分かったと思いますが」


 マサヒデが紙包みを裾に入れて、


「機会があったら、カオルさんとキノコ取りにでも行ってきたらどうです」


 キノコ。

 あの椎茸男を思い出す。


「キノコですか」


「ええ。先日、山に行った際、すごい色のキノコを見つけて、大喜びしてましたよ。

 真っ赤で、白い斑点が付いてて、どう見ても食べてはいけないキノコです。

 何に使うかって聞いたら、毒だって」


「毒・・・」


 マサヒデは苦笑いして、


「ふふふ。早くて数秒、長くて1分、だなんて喜んで。

 カオルさんは大喜びでしたが、私もアルマダさんも、冷や汗ものでした」


「それを取ってきたという事は、何処かに・・・」


 マサヒデが頷き、


「隠してあるんでしょう。今頃は乾いて粉になってるんじゃないですか。

 カオルさん、立ち会いで粉を撒き散らしたりしますし」


 致死性の毒を撒く・・・どきどきどき。

 カオルはそんな手も使うのか・・・

 もし本気の立ち会いになったら、絶対に逃げよう。


「イザベルさんは知らないと思いますけど、カオルさん、火も得意です。

 燃やしたり、目潰しにしたり。

 魔術師協会の何処かに、火薬がたくさん隠してあるそうですよ」


「ええっ!?」


「ははは! 火事になっても平気な所って言ってましたから、意外と池の中にでも隠してあるかもしれませんね」


 マサヒデは笑っているが、イザベルの胸は高鳴る。

 あの魔術師協会には、カオルが毒と火薬を山と隠しているのか・・・


「そうだ。イザベルさんって、人族の毒は効くんですか?

 マツさん達には、何が効くのかさっぱり分からないのですが」


「毒ですか? 勿論、効きます。薬が効きますし」


「鼻が良いから、すごく微量で効いてしまうとかないですよね?

 やっぱり、人族より丈夫な分、濃くないと効かないのかな」


「いや・・・どうでしょう、比べた事がないもので」


 ぽん! とマサヒデが手を叩き、


「ああ、そうか! それで1包で銀貨10枚!」


「どういう事でしょうか?」


「きっと、人族よりも分量が濃くないと、大して効かないのでは?」


「なるほど! それで・・・あ、いや、昨日飲んだ人参湯は効いたのですが」


「昨日はずっと寝てたんじゃありませんか?」


「ああ! 私も昨日は薬を飲んだ後は一日寝ておりました!

 それで治っただけかも・・・そうか、そうかもしれません」


「多分そこでしょうね。ふっかけた訳じゃないんだ。

 銀貨10枚あれば、普通の薬、買えますからね」


「ううむ・・・」


 既に買ってしまった。

 無駄な買い物だったか・・・


「塗り薬とかは別にして、市販されてる人族の内服薬は、イザベルさんの身体にはあまり効果がないんでしょう。大量に飲まないといけないのでは」


 大量に飲めば良いのか?

 しかし、人族にとっての大量とは?

 我々の普通は人族と大きく違うのか?


「そう言えば、幼い頃に風邪をひくと、よく葛粉を」


「あ! 私もですよ。大量に食べさせられたんですか?」


「いえ。普通に丼で」


「丼!? やっぱり! 私達なんか椀1杯もない程度ですよ!」


「え!? お言葉ですが、それは葛粉の意味がないではありませんか!

 あれは食事が取れない時に、代わりに腹に入れる物では!?

 パンとスープと肉とサラダなど、1食分合わせたら丼1杯は少ないかと」


「そりゃ量はそうですけど、葛粉って半分以上は薬みたいな物ですよ。

 熱冷ましとか、風邪薬みたいな」


「はっ! 葛根湯もよく飲まされました!」


 ぱん! とマサヒデがテーブルを叩き、


「それですよ! 葛って薬なんですから!

 葛粉も丼で、さらに葛根湯まで飲んで!

 我々から見たら、過剰摂取も良い所ですよ!」


 ふるふると手を震わせ、イザベルが両手を見つめる。


「そ、そうだったのですね・・・」


「やっぱり、イザベルさんはたくさん飲まないといけないんですね。

 市販薬では大して効かないんですよ」


「ううむ・・・」


「風邪なんかは治癒師さんが治してくれるでしょうけど、常備薬で買うとなると高くつきそうですね。二日酔いも解毒では治らないようだし、薬はカオルさんに少しずつ作ってもらいなさい」


「は・・・そうします・・・」


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