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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十八章 大魔術師の称号
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第693話


 魔術師協会、居間。


 まだタマゴなのに、大魔術師の称号をもらってしまったテルクニ。

 証明のメダルを見て、マツとクレールがにこにこしている。

 だが、要はただの試験免除で、魔術師協会に属さなくて良いだけらしい。


 凄い物らしいが、大した物でもなく思える。


「それって、剣聖になるのに、御前試合みたいなやつに参加しなくても良い、みたいな感じですか? 評価とか何とか、そういうのなしみたいな」


「それです! さすがマサヒデ様、お分かりが早い!」


「そうです! ですから、世の中には相応の実力があっても、魔術師協会に属した事がないから大魔術師ではない、という方は沢山おられるんですって!」


「へえ・・・父上が言ってた、自分より強い人はごろごろしているみたいな」


「クレールさんも、そうですよ」


「マツ様、さっきも言ってましたけど、それ本当ですか?

 私は自分ではまだまだって気がしますけど」


「うふふ。試しに試験を受けてみますか?」


「でも、魔術師協会のお仕事もしないといけないんですよね?」


「ええ」


「んん・・・それは面倒というか・・・えへへ」


 マサヒデが首を傾げる。

 物自体はあまり大した物ではなさそうだ。

 しかし、称号をもらえたというのは大きい。

 良くも悪くも・・・


「でも、面倒ですね」


「何がでしょうか」


 床の間に振り返って、タマゴを見る。


「こいつの将来、決まってしまいましたね。魔術師になるしかないんですよ。

 剣。冒険者。職人。商人。学者。百姓・・・色々な道があるのに」


 マツ達は首を傾げて、


「別に良いのではないですか?

 大魔術師の称号を持ってるだけで、他の職になっても」


「それ、許されますかね。剣聖が剣以外の道を歩いて、許されると思います?

 称号って王から貰うものですし。大魔術師もそうではないですか?」


 マツとクレールが顔を見合わせる。


「そうでしょうか?」


「あまりそんな感じはしませんけど・・・」


 ぱん、とマツが手を合わせ、


「そうそう! 冒険者の方にも大魔術師って何人かいますよ!

 オリネオには残念ながらおりませんけど。

 大魔術師って、結構自由というか、称号に縛られない感じ、しませんか?」


 マサヒデが小さく口を開ける。

 意外だ。何か想像していたのとは違う。


「そうなんですか?」


「ええ。魔術って色々な所で使われますから、大体どんな職になっても不自然はないと思いますけど。大魔術師の料理! 最高の火加減! どうでしょう」


「あー! マツ様、それすごく美味しそうですね!」


 マサヒデが腕を組んで首を傾げる。

 言われればそうでもないような気もしてくる。


「強いて言えば、協会からあれこれうるさく誘いが来るのが面倒ですけど」


「誘い?」


「称号をもらったら、すぐ魔術師協会を出てしまう方もおられますし。

 魔術師協会って名前ですもの、大魔術師は抱えておきたい所ですよね。

 面倒って、その誘いを断るくらいでは?」


「その程度なんですか?」


「はい」


「ううむ、では、あまり難しく考えなくても良い感じですか?

 お褒めの言葉を頂いたくらいで?」


「そのくらいで良いと思いますけど」


「多分そのくらいですよ!」


「ふうん・・・では、父上と母上に報告しに行きましょうか。

 と言っても、私は行けないのか。マツさん、頼んで良いですかね?

 それ持ってってもらって、自慢して下さい」


「勿論ですとも!」


「私も行きます!」


 マサヒデはにっこり笑って、


「ふふ。きっと、父上が宴会だなんて言い出すと思いますけど、今日はお祝いですから、好きなだけ呑んできて結構ですよ」


「まあ!」


「本当ですか!?」


「ははは! お二人共、いくら呑んだって酔いませんから、構いませんとも。

 明日起きた時に、家中が酒臭くなっても構いませんよ。

 カオルさんとシズクさんを呼んでくるので、少し待ってて下さい」



----------



 冒険者ギルド、訓練場。


 重い扉を開けて、マサヒデが遅れて入ってくる。

 冒険者と稽古中のカオルとシズクに手を振って、歩いて行く。


「皆さん、遅れて申し訳ありません。

 カオルさん、シズクさん。こちらに来て下さい。お話があります」


「は」「はーい」


 少し離れて、マサヒデ達が固まる。


「陛下からの贈り物の件です」


 シズクがにやっと笑い、


「その顔はパーティーじゃなさそうだね」


「はい。お二人共すぐに着替えて、マツさん達と一緒に道場に行って下さい」


「道場へ?」


「テルクニに大魔術師の称号を頂きました。

 マツさん達と一緒に、父上と母上に自慢しに行って下さい」


「ええっ!?」「うっそおー!?」


 マサヒデがにっこり笑って、


「まだ朝ですけど、今日のトミヤス道場は1日宴会になると思いますから。

 さ、二人共急いで下さい」


「マサちゃんは?」


 マサヒデは苦笑して、


「私は入れませんから。一人で門前でちびちび酒を、なんて、寂しくてやってられないでしょう。さあ、マツさんとクレールさんを待たせてはいけません。ほら行った行った!」


「じゃあ行くー!」


 どたどたとシズクが走って行く。


「ご主人様」


「カオルさんも行きなさい。稽古は私が引き継ぎます」


「しかし・・・」


 ばん! とカオルの背を叩き、にっこり笑う。


「行って下さい。私の分も、祝ってきて下さい」


「は! 失礼致します!」


 カオルが頭を下げて、振り返って早足で歩いて行く。


(何と気丈な! ご家族皆で祝いたいであろうに!)


 扉に手を掛け、ちらっとマサヒデの方を向くと、マサヒデが小さく頷いた。


(行って参ります)


 カオルも小さく頭を下げ、訓練場を出て行った。

 マサヒデがそれを見て、冒険者達の前に立つ。

 にっこり笑って、


「皆さん、おはようございます」


「「「おはようございます!」」」


「今日は遅くなりましたが、先程、陛下からある物が届いたので、そちらの対応で遅れてしまいました。お許し下さい」


 陛下から・・・

 何だ何だと皆が顔を見合わせる。

 マサヒデはにこにこしているし、何かすごい褒美か?


「私の子、テルクニに、なんと大魔術師の称号を授けて下さいました」


「おお!」「ええー!?」「すげえーっ!」


「ははは! いくらマツさんの魔力を受け継いでいるとはいえ、ここまで期待されていたとは思いもよりませんでした! 私も鼻が高いものです!」


 おおー! と拍手と歓声が上がる。


「テルクニが大きくなって、おとなしく魔術師になるかどうかは私には分かりませんが! 祝いとして、本日の稽古の後の昼食は私の奢りにします! 高い酒! 高い料理! 好きな物を好きなだけ楽しんで下さい!」


「やったッ!」「トミヤス先生!」「テルクニ様万歳!」


「さあ、気を取り直して下さい! 稽古を始めます!」



----------



 受付。


 イザベルが水汲みを終えて戻って来ると、がたん! と音を立てて受付嬢が立ち上がった。


「イザベル様ー!」


 イザベルが依頼書を差し出しながら、


「何かあったか」


「大変ですよ! 大変!」


「何だ。魔獣でも湧いたのか」


「ちち違います! トミヤス様!」


「む! マサヒデ様に何事か!」


「そうじゃなくて! お子様! テルクニ様!」


 ぴく! とイザベルの眉が寄る。


「落ち着け。若殿様、テルクニ様のタマゴに何かあったのか」


「そうです!」


「まさかとは思うが、盗まれたか」


「違います! 今朝、陛下からお手紙が届いて、そしたら、そうしたら、テルクニ様が大変な事に!」


「陛下から? で、若殿様がどうした」


「大魔術師になりました!」


「大魔術師になった? どういう事か?」


「お祝いです! 陛下からお祝い! 大魔術師の称号を貰ったんです!」


「若殿様がか!? まだタマゴだぞ!?」


「そうなんです! まだタマゴなのに!」


 イザベルは一瞬呆然として、ふ、と小さく笑って首を振り、


「ふふ・・・騙されぬぞ。信じられん。我をかついでおるな?

 クレール様か、シズク殿のいたずらか?」


「トミヤス様が、今稽古中ですよ! 直にお聞きになってみて下さい!」


「・・・嘘ではないのか? 真であるのか?」


「マツ様達は、もう道場に行きましたよ!

 先程、ハワード様達も、馬でそこをすっ飛んで!」


 イザベルが受付の机に前のめりにのしかかり、


「馬鹿な! タマゴから生まれる前であるぞ!? 大魔術師か!?」


「そうなんです!」


「訓練場に参る!」


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