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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十七章 初めての様々
690/760

第690話


 冒険者ギルド、食堂・・・


 2人の冒険者の前にイザベルが座り、金貨を2枚ずつ差し出す。


「イザベル様?」


「受け取れ・・・」


「この金は?」


「調薬の者が買い取ってくれた物があってな・・・山分けだ」


「この額でですか!? 山分けという事は、6枚!?」


「ああ」


 すごい金額!

 一体、どの部位なのだ!?


「それは、それは何処の」


「聞いてくれるな。頼む」


「待って下さい。もしかして、お縄になるような薬になるのでは」


「いや。そうではない。れっきとした薬ではあるのだが・・・」


 イザベルはがっくりと頭を垂れている。

 普段の覇気が全く感じられない。


「一体、どういう薬になるのです。どの部位なのです」


「・・・」


「話して下さい。でなければ、我々は安心してこの金を受け取れませんよ。

 話せない、不明な薬の報酬だなどと」


「決して怪しい薬ではないのだ・・・いや、怪しいと言えば怪しいか・・・」


「イザベル様、お話し下さい。安心して我々にこの金を受け取らせて下さい」


「ううっ!」


 イザベルが顔を覆う。

 これは一体・・・


「・・・性病の薬になる・・・」


「なんですって? もう一度」


「性病だ。性病の薬だ」


「性病・・・」


 冒険者が顔を見合わせる。

 性病に使う部位。イザベルのこの様子。

 もしかして・・・『あれ』?

 2人の目が、静かに自分の股間に向けられる。


「イザベル様。もしかして、その部位」


 ぱ、と隣の冒険者が言いかけた口を押さえ、


「もう聞くな! な? もう十分だろ? ありがたく受け取ろう」


 うんうん、と言いかけた冒険者が頷き、


「そう! そうだよな! イザベル様、ありがとうございます!」


「う、う・・・汚れてしまった・・・」


「さあ、もう忘れましょう!」


 冒険者が手を上げると、メイドが歩いて来る。


「10年をボトルで! 氷も頼む!」


「はい。少々お待ち下さい」


 顔を押さえた手の隙間から、涙が静かに落ちていく。



----------



 夜。


 べろべろになったイザベル達。


「な事ぁない! な事ぁないすよ! なあ!」


「そうすよ!」


「いや! 我はもう汚れた! もう、もう・・・」


「いいや! んーな事ぁ言わないっ! 俺らぁトミヤス先生と長いんだ!」


「そうすよ!」


「もうクビだ・・・どうしたら・・・」


「イザベル様の主! そーんな器の狭え人の訳がないっ!」


「そうすよ!」


 とくとくとく・・・からん。

 ぐびっ。


「黙ってりゃ分かりゃしませんよ!」


「そうすよ!」


「だが・・・だが・・・買い取った者は知っておる!」


「そんな口の軽い奴ですか! んじゃお仕置きですよ!」


「そうすよ!」


「無理だ! 彼の者には我では刃が立たぬ!」


「じゃああれだ! 何か弱み握っちまえば良いんだ!」


「そうすよ!」


 すたすたすた・・・


「誰に刃が立たないんです」


「げっ!?」「うぉ!?」


 はぁん? とイザベルが真っ赤な顔を上げる。

 マサヒデの向こうで、カオルとシズクがくすくす笑っている。

 マツとクレールが「どうした?」という顔で見ている。


「イザベルさん。何か問題ですか? 私に何とか出来ますか?」


「あっ・・・ああっ!」


 マサヒデがイザベルの横にしゃがみこんで、そっと手を取り、


「こんなになるまで飲むなんて。何があったんですか」


「う、う」


 イザベルがマサヒデの手を取り、額に押し当てるようにして、だらだら涙を流す。

 一瞬、マサヒデの顔が痛みに歪む。


(またか)


 ちらっと後ろのマツの方を見て、顔を歪めて頷く。

 マツが歩いて来て、マサヒデの横に座る。

 マサヒデが痛みを堪えながら、


「イザベルさん。話して下さい。私に貴方を助けられますか」


「はっ、話せません!」


「私は貴方の主ですよ。今、目の前で家臣が困っている。

 私で出来ないなら、マツさん、クレールさん、カオルさん、シズクさん。

 力になれる者はいます。さあ、話して下さい」


「トミヤス先生! それぁ酷ってもんですよ!」


「そうすよ!」


「何があったんです」


「駄目すよ! 言える訳ないじゃないすか!」


「そうすよ!」


 何だかさっぱり分からない。

 マサヒデとマツが顔を見合わせる。


「時にぁ優しいってのも酷になっちまうんだ! トミヤス先生!」


「そうすよ!」


「はあ?」


 どういう話なのだ?


「イザベル様! 思い切ってお尋ねしてみるしかねえ!」


「そうすよ!」


 この2人も完全に出来上がっている。

 さっきは言える訳がないなどと言っていたのに・・・


 きりきりきり。

 マサヒデの手が軋む。


「く・・・」


 必死に痛みを堪えながら、


「イザベルさん。これは命令です。話しなさい」


「は・・・あの・・・昼間・・・」


「昼間ですね。何がありました」


「カオル殿に・・・」


「カオルさんですか?」


 ちら、と後ろのカオルを見ると、シズクと一緒に笑いを堪えて震えている。

 あの2人に、からかわれるような弱みでも握られたのか?


「カオル殿に、売りました」


「何を」


「あれを・・・ああ! 口に出すのも穢らわしい!

 私はあれを手で持って! カオル殿にお届けしたのです!」


「穢らわしい? もしかして、危険な毒とか、そういう類の物ですか?」


「いえ! いえ! 決してそうではないのです!」


「では一体何なんです」


「熊の」


「熊の?」


「せいき・・・」


「せいき?」


 一緒に飲んでいた冒険者に目を向ける。

 冒険者が気不味い顔で小さく頷きながら、テーブルの下に指を差す。

 性器。


「私はもう汚れてしまいました!

 嗚呼! マサヒデ様・・・」


 かくん、とイザベルが首を下げて、椅子から下り、床に正座して、


「お手討ちは覚悟しております」


「ぷーっ!」


 マツが吹き出して、マサヒデもげらげら笑い出した。

 マツがばしばしマサヒデの肩を叩き、


「お手討ち! マサヒデ様、お手討ちですって!」


「ははははは!」


 ぱん! とイザベルの頭を軽くはたき、


「はい! お手で打ちました! ははははは!」


「あはははは! マサヒデ様、マサヒデ様、おてうち!」


 は! とイザベルが顔を上げる。

 マサヒデがひいひい言いながら笑い涙を袖で拭き、


「これでおしまい! 明日からもしっかり働いて下さいよ! ははは!」


 げらげら笑いながら、マサヒデ達が奥のテーブルまで歩いて行く。

 冒険者がそれを見送って、


「ほおら! イザベル様、言った通り! トミヤス先生は懐が深いっ!」


「そうすよ!」


「我は・・・我は許されたのか・・・?」


「そうそう! 明日からも働け! 家臣としてって事!」


「そうすよ!」


「なんと器の広い主であろうか! このように穢れた我が許されるとは!」


「でしょお!? トミヤス先生は器がでかい!」


「そうすよ!」


「熊鍋を、熊鍋を食べるか!?」


「食べましょう!」


「そうすね! ちゅーもーん!」


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