第69話
「はっ!」
気付いて起きると、そこは見慣れない部屋。
ばっ! と周りを見渡すと、枕元に大小が立てかけてある。
大小に跳びついて、警戒して見渡す・・・
(ここは・・・)
そっと戸を開けると、ここ数日で見慣れた廊下。
どうやら、冒険者ギルドの一室のようだ。
息をついて安心したが、昨晩の事が途中から思い出せない。
おそらく、自分は随分と酒を飲まされて、酔い潰れてここに運ばれたのだ。
マサヒデがそこまで思い当たると、急に頭痛がしてきた。
これが二日酔いというものか。
胸もむかむかする。
静かに戸を閉めて、改めて部屋を見渡す。
大小が置いてあった逆の枕元には、水差しとコップが置いてある。
部屋の隅に、マサヒデの服が畳んで置いてあり、荷物も置いてある。
マサヒデは服を着替え、水差しを取った。
ひどい頭痛に、吐き気。
(これが二日酔いか。もう酒は呑みたくないな)
ゆっくり水を飲んだ後、服を着替え、寝巻きをきれいに畳んでベッドの上に置いた。
とんとん。
控えめな、ノックの音。
「はい」
「トミヤス様。おはようございます」
ドアが開き、ギルドのメイドが頭を下げている。
「おはようございます。私、昨晩は・・・」
メイドは頭を上げ、小さく笑う。
「ひどい顔色ですね。トミヤス様、昨晩は随分と呑まされておりましたね。酔い潰れてしまって、私共がこちらへ」
「・・・やっぱりそうだったんですか・・・お恥ずかしい所をお見せしました」
「朝食はどうなさいますか」
「とても食べられる状態ではありません。これが二日酔いというものなんですね」
メイドが口に手を当てて笑う。
「ふふ、トミヤス様にも弱点があったのですね。では、粥などお持ち致します。少しは食べておきませんと」
「そうですね。無理にでも入れておかないと・・・」
「お食事が済みましたら、小会議室へご案内致します。ハワード様がお待ちです」
「アルマダさんが? 何の用でしょうか」
「私は聞いておりません。それでは」
ドアを静かに閉めて、メイドは去って行った。
マサヒデは水差しを取って、もう一杯、ゆっくりと水を飲む。
窓を開けると、雀が飛んでいき、朝の町が見える。ここは2階だ。
人通りは多く、明るい。日の高さから、9時頃であろうと分かる。
(俺は勝った)
300人近くの人数を倒し、勝ちを収めた。
1敗。あの凄腕の忍には、真剣なら負けてしまっていたが、試合には勝てた。
もし次に立ち会うことが出来たら、今度は勝ちたい。いや、勝つ。
最終日の午後。
女の忍と戦った時。身が打ち震えた。
そういえば・・・
とんとん。
「朝食をお持ち致しました」
「入って下さい」
「失礼致します」
ドアが開いて、メイドが盆に乗せた粥を持ってきた。
静かにテーブルに置かれる。
「先程も申しましたが、食べ終わりましたら、小会議室へ。私は外に控えておりますので、ご用がありましたら、お呼び下さい」
ぺこり、と頭を下げ、メイドは出て行った。
粥の置かれたテーブルにつくが、全く食欲が湧かない。
マサヒデは少しづつ粥を腹に入れた。
何とか食べ終わって、水を飲む。
ふう、と息をついた。
こんなに食事がつらいとは・・・もう酒は控えよう。
立ち上がり、ドアを開けた。
「お待たせしました」
「それでは、ご案内致します」
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先を歩くメイドに着いていき、ぐるりと廊下を回って、会議室の隣。
『小会議室』と書かれたドアがある。
「どうぞ」
ドアを開けると、アルマダが座っている。
酷い顔色のマサヒデを見て、苦笑する。
「おはようございます。随分と呑まされたようですね」
「ええ」
「ま、お座り下さい。まだ終わっていませんから、今後の話を進めましょう」
「はい」
「まず人材についてです。数日中に返事がくるでしょう」
「ええと、鬼の女性。銀髪の魔術師の・・・」
(しまった・・・忘れていた)
マサヒデの言葉のせいで、まるで結婚の誘いのような言葉で誘ってしまった。
どうしよう・・・
「・・・あと、最後の女の忍者の方ですか」
アルマダがにやりと笑う。
「ふふ。全員、女性になりましたね。さすがマサヒデさんと言った所ですか。あなた、その気がなくても、自然に女性を口説いてますからね」
「やめて下さい・・・」
「まあ、マサヒデさんが戦った中で、特に光っていた方は、その3人ですね。治癒師については、リー達が素晴らしい方を選抜してくれました。旅の仲間にもなってくれるそうです。後ほど、紹介しましょう」
「しかし、4人とも参加するとなると、1人余ってしまいますね」
「そこについては問題ありません」
「と言いますと」
「あの女忍者の方。『家臣にしてほしい』と言ってましたね。彼女は祭の参加者ではなく、雑用係として連れて行けば良い」
「なるほど、戦いには参加せず、荷物の管理とかをしてもらえば、と」
「そうです。ただ、何があっても絶対に手を出さないよう、強く言い含めておかないといけませんね。里を出て主を探すほどの方です。マサヒデさんが危険となれば、失格になってしまうと分かっていても、飛びかかってしまうかもしれません」
「ううむ・・・」
「彼女はまず来ると見て間違いないでしょう。参加者の枠が余った時に、パーティーに入れれば良い」
「ふむ」
「そうすると、あの鬼の方。銀髪の魔術師の方」
アルマダの目が厳しくなる。
「鬼の方は分かりませんが・・・問題はあの魔術師の方です」
「う・・・」
「もし『結婚します』と来たら、あなた、どうなさいます」
マサヒデはしょんぼりしてしまった。
「・・・どうしましょうか・・・」
「『ただ祭のパーティーメンバーと誘っただけです』と言ったら、彼女は悲しむでしょうね」
「・・・」
「マツ様はどうします。あれだけ怒っていたんですよ」
マサヒデは顔を上げ、
「あ、マツさんは大丈夫です」
「ほう」
「もし、彼女が嫁に来たとしても、許すって」
「許す・・・ですか。あなたは許されても、彼女はどうなりますかね」
「大丈夫です。私が正妻であれば良い、と」
「つまり、第二夫人であれば良い、と?」
「はい」
「・・・分かりました。マツ様の方はそれで良いとしましょう。しかし、私が見た所、彼女も十中八九来ますよ。パーティーメンバーではなく、嫁として」
マサヒデは、また、しょんぼりと肩を落とした。
「・・・」
「追い返しますか? あなたから誘っておいて。それとも『妻となってほしい、という誘いではありません。ただ祭のパーティーの誘いです。あなたの思い込みです』そう言えば、大人しく結婚を諦めて、パーティーメンバーになってくれますかね」
「・・・それで、許されるでしょうか・・・」
「あなたは人の気持ちを踏みにじる気ですか? たしかに、あなたにその気はなかった。しかし、あれは誰が聞いても口説き文句でしたよ。その気にさせたのなら、そんな事は一男性として、許されるものではない」
「ですよね・・・」
「マツ様から許しが出たのなら、もう腹を決めて下さい。彼女があなたとの結婚を望んできたら、迎えて下さい。彼女が祭に参加するかどうかは、その後です」
「はい・・・」
「鬼の女性については不明ですが、彼女もおそらく来ます。ただし、パーティーに入れるとなると、危険を伴います。『負けたら種族の婿になってもらう』と、言ってましたね。寝込みを襲われて『お前の負けだ。さあ種族の種馬に』なんてことになるかもしれませんよ」
「確かに。そうすると、彼女を加えると、身内に敵を抱えて旅するようなことになりますね」
「彼女には参加条件として、パーティーのメンバーに一切手を出さないよう、条件を出します。それが飲めないと言うなら、彼女は諦めます」
「うーむ」
「良い人材でしたが・・・味方にするなら、これだけは絶対飲んでもらいませんと」
「そうですね・・・」
「他にも、彼女には危険があります」
「と言いますと」
「彼女がメンバーを諦めた所で、これも危険です。下手をすれば、旅の間中・・・いや、旅が終わっても、ずっと付け狙われることにもなりかねません。あの強さです。必ず被害が、いや、おそらく死人も出る。これは絶対に避けなければ。上手くあしらわないといけませんよ。どちらにしても、あの方にずっと付け狙われるなんてことは避けなければ」
「そうなったら・・・もう、彼女を斬るしか・・・」
「そうです」
はっ、とマサヒデが顔を上げた。
「あ、そうだ! 彼女、魔族でしたね!」
「ええ。何かいい案でも」
「マツさんに仲介してもらうのはどうでしょうか」
「ふむ」
「必ず、私と尋常な一対一の勝負で立ち会うこと、としてもらえば、私は問題ありません」
「悪くない案です。しかし、マツ様は身分を隠しておられますし・・・交渉の席には同席してもらいますが、どうしても、と言う時の切り札にしましょう。なるべく、マツ様の事は知られたくはない。それと、マツ様の意見も聞いてきましょう。身分を笠に、強引に条件を飲ませるようなことは、マツ様もしたくないと思います」
「そうですね」
「では、鬼の女性に関しては、ここまでにしましょう。マツ様の意見を確認してから、考えます。次に、あの忍者の方について、少し懸念があります」




