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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十七章 初めての様々
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第683話


 魔術師協会、庭。


 アルマダに教えてもらった、弾かれた時のカウンター技。

 動きは大体分かったが、上手く使えず、イザベルはマサヒデに教えを請う。


 マサヒデとカオルが向き合って、これからお手本。

 マサヒデは木刀。

 カオルは槍。槍は鞘を付けたままだ。


「では、手本です。カオルさん、適当に弾いて下さい」


「は」


 かん、とマサヒデの木刀が弾かれる。

 くるっと回って・・・


「おお!?」


 すぱん! とカオルの槍が斜め上に弾かれ、マサヒデの木刀が真っ直ぐカオルの顔に向けられる。


「こうです。踏み込めば取れますね。カオルさん、もう一度」


「は」


 かん、と木刀が弾かれる。

 上からくるりと回り、すぱーん! とカオルの槍が横に弾かれる。


「この通り。このまま踏み込んで斬り上げる。

 カオルさん、無念! ははは!」


 カオルが笑って小さく頭を下げ、槍を立てる。

 マサヒデが木刀の棟に指を置き、


「刀ではこの棟で下から打ち上げるのが定石ですね。

 上からだと、刃を痛めるおそれがありますし。

 まあ、イザベルさんは剣だから関係ないんですけど」


 マサヒデがシズクの方を向いて手招きして、


「さ、今度はシズクさんです。相手して下さい」


「お、おお! やるやるー!」


 カオルが下がり、シズクがどすどすと小走りして、マサヒデの前に立つ。


「では、シズクさん。軽く弾いて下さい。軽くですよ」


「うん!」


 かつん! くるりと回って、マサヒデの木刀が下で止まる。


「ん?」


 あれ? とシズクがマサヒデの木刀を見る。


「この通り、シズクさんだと打ち上げられません」


「ええ? なんで?」


「ははは! 貴方は力がありすぎるんですよ!

 私が思い切り打ち上げようとしても、その棒は動きもしないでしょう!

 重すぎて、身体を倒すことも無理!」


 マサヒデが木刀を持った右手の拳をかくんと下げ、手の甲に左手を当てて、イザベルに顔を向ける。いわゆる、猿手の形。


「イザベルさん、この形。これ、完全に手首極まってしまっていますよね。

 ぐっと押さえれば、ばきん! ですよね」


「はい」


「シズクさん、この上にカオルさんが乗っても、手首だけでこうやって持ち上げる事が出来るくらい、力があるんですよ」


 マサヒデがくいっと手首を立てる。


「はっ!?」


 人一人を手首だけで!? シズクにはそんなに力があるのか!?

 マサヒデが手首をくいくいしながら、


「これだけの動きでですよ? 信じられます?」


「・・・」


「そんな力と手首を持ったシズクさんには、これは絶対に通用しないです。

 弾き返すのは無理。今みたいに巻いて内に入れようとしても無理。

 簡単に押さえられて、おしまいです。それとですね」


 マサヒデがカオルの方を向くと、カオルが頷いてマサヒデの前に立つ。

 マサヒデが少し前に出て、カオルの槍と木刀を合わせる。

 イザベルの方を向いて、


「この間。相手が長柄武器だと、弾くより、まず突いてきますね」


「あ!」


「間ですね。相手が剣を弾いてこようとする間。

 そこで、わざと弾かせて、これを狙うんですよ。

 長柄武器なら遠間から剣を弾きにくる事もあるので、その時に狙います」


「ううむ・・・」


「しかし、シズクさんにも通用する使い方はあります」


「え!? ほんと! 見せて見せて!」


 む! とシズクが構える。

 マサヒデが笑いながら木刀を構えて、


「はい、弾いて」


 くい、とシズクが弾いた瞬間、マサヒデの木刀の切先が上がる。

 シズクの弾きが空振り。

 マサヒデがくるっと木刀を回して、シズクの棒を後ろから押す形。

 く、とシズクの棒が少し外に出る。


「あっ!」


 シズクが声を上げた。

 マサヒデが小さく笑って、


「こういう事です。押して手伝って上げると、その方向に行きます。

 そして、シズクさんの体勢」


 外に棒を押され、マサヒデに肩を向けている。

 マサヒデが木刀を返して上げると、シズクの喉元にぴたり。


「こうですね」


 マサヒデが一歩下がって、シズクの脇腹に木刀の切っ先を当てて、


「間が離れていたら、このように脇腹。剣は横に寝かせて平正眼。

 鎧で胴が狙えないなら、脇に突き込みますが・・・

 ま、イザベルさんの力なら、そんなの考えなくても良いですね。

 適当に突き込めば宜しい」


「は!」


 マサヒデが空を見上げる。

 そろそろ、日が西に傾いてきている。

 もう少し出来るか。


「では、少しやりますか」


「ありがたき幸せ!」


 イザベルの満面の笑顔。

 幸せいっぱい。

 カオルとシズクがくす、と笑う。

 まるで飼い主に遊んでもらう子犬。

 ふ、とマサヒデも小さく笑い、木刀を構える。

 イザベルも石の棒を構える。


「ふふ。その棒、私に弾けますかね」


 マサヒデがイザベルの石の棒を見て、少し苦笑いして、かん! と弾く。

 石と、乾いた木がぶつかった音。

 くるっと回した所で、ひょいとマサヒデが木刀を出し、小手を押さえる。


「ああ、違いますね。それは巻いていない。ただ回してるだけです」


 は! とイザベルが顔を変えて、


「巻く・・・ああ! 巻く! それが分かりませんでした!

 巻くとは? 剣術の用語でしょうか?」


「ああ、知りませんでしたか。構え直して」


「は!」


 マサヒデがイザベルの石の棒と木刀を絡めて、くるくる回す。

 回しながら、


「ああ、そうか、ファッテンベルクは軍って感じだから・・・

 あまり、こういう剣の術はないんでしょうね。これが、巻く」


「?」


 どういう事だろう? 回すのと何が違うのか。


「巻いているとですね、こう」


 回っていたマサヒデの木刀の先が、ぴた! とイザベルの腹に当てられる。


「う!?」


「相手が巻いていなくて、ただ回しているだけの時。

 何処かでこの円の動きにほころびが出来ます。

 で、そのほころび。隙ですね。そこを狙えば、こういう事が出来ます」


「どうやって・・・」


「ううむ、その棒だとちょっと分かりづらいかな・・・」


 すたすたとカオルが歩いて来て、


「イザベル様。どうぞ」


 と、木剣を渡す。いつの間に用意したのか。


「は!」


 イザベルが数歩離れて、石の棒を置き、戻ってカオルから木剣を受け取る。


「カオルさん、ありがとうございます。うん、棒より剣の方が分かりやすい。

 さ、イザベルさん、もう一度。剣を合わせて」


「は!」


 どちらも正眼に構えて、剣先を合わせる。


「では、突きますからね」


 瞬間、しゅりっ、と木刀と木剣がすられる音がして、マサヒデの木刀は平正眼でイザベルの水月に。イザベルの木剣は下に。


「おっ!?」


「これが巻き」


「これも奥義ですか!?」


 マサヒデとカオルが笑う。


「ははは! そんなんじゃありませんよ!

 技術と言えば技術ですけど、9割以上は感覚。個人の勘です。

 ですから、イザベルさんも練習してればすぐ出来ます」


「出来ましょうか!?」


「出来ますとも。獣人族の方が人族より勘が良いんですから、むしろ、人族より早く習得出来るはず。ソウジさんもすぐ出来たんです」


「ソウジ殿も」


「ですから、イザベルさんも出来ます。こういう勘の部分が大きい技術は、獣人族にすごく向いているんでしょうね。剣を当てている感触で、相手の剣の動きを感じるんです」


「なるほど・・・」


「で、これを弾かれるのに利用するという訳です。さ、構えて」


 剣先を合わせる。


「私は前に出ていきます。顔に当たる前に、私の剣を弾き落として下さい」


「は!」


 マサヒデが足を踏み出した。

 かん、とイザベルがマサヒデの木刀を横に払う。

 マサヒデは弾かれた木刀をくるっと下から上に縦に回しながら前に出て、左手でイザベルの手首を押さえる。回ってきた右手の木刀の先はイザベルの喉元。手をはね退けても、刺される。


「うっ、う」


「ほら。こんな感じ。相手に出させて、その力を利用して、こう」


 マサヒデが離れて、


「ではもう一度。また私の剣を弾いて下さい」


「は!」


 かん! と横に弾くと、マサヒデの木刀は『し』の字を描くように斜め下から上がってきて、くいとマサヒデが膝を沈めると切先がイザベルの首元。

 裾にマサヒデの木刀が掠めていった感触。


「むっ・・・」


 す、とマサヒデが下がって、


「イザベルさんが見つけたのは、この動きですね」


「何故!? 何故、私に出来ないのでしょう!?」


「ふふふ。すごく惜しい所まで来ています。ほら、緩い握りです。

 弾かれて、思わず手が固まってしまっている。それで出来ないんです。

 弾かれたら、弾かれたままで良いんです。

 あ、勿論ですけど、弾かれたままって、剣を離しちゃ駄目ですよ」


「しかし、ハワード様は緩く握っているだけではいけないと」


「ははは! それはそうですよ。弾かれたまま、力の方向を変えるんです。

 ここで握りが固くなってると、それが出来ない。

 右手はそのまま。左手だけで剣を巻くように、くるっと。だから、巻き」


「では、外から巻くとはどういうことでしょうか」


「今の動きそのままですよ。弾かれて、外側から回って入ってきた。

 横に弾かれる力の方向を変えた。この動きです」


 マサヒデが弾かれるように横に木刀を動かし、くるんと下から回して斬り上げの動き。右手はほとんど動かない。左手だけ。


「握りが緩くないと、この回転は出来ない。

 固いと腕で回してしまうから、簡単に押さえられる。手だけ」


 回転を小さくしながら、


「基本的に、小さな回転は攻め。大きな回転は守り・・・

 さっき突いた時は、刀をくるっと横にしただけの回転」


 回転を止め、くい、と木刀を平正眼に。


「これだけの回転です」


「ううむ・・・」


「たったこれだけ。これに突きの動きが合わさっただけ。

 これだけの動きで、あれだけ剣が下に弾かれるんです」


 マサヒデが木刀を回しながら、


「こうやって回すのも」


 回転を止め、平正眼にして突きを出し、


「こんな小さな回転も」


 ぐるんと下から上に縦に回して、


「横だけじゃなく、こういう縦の回転とか。全部勘です」


 マサヒデが木刀を納めて、


「私が見せたままの動きを真似しても、イザベルさんだと多分合わない。

 出来るようになった時、私とは微妙に違っているはずです。

 弾く時、弾かれた時、どう持って行く、どう方向を変える。

 全部が感覚と勘。だから、個人によって違ってきてしまうんです」


 イザベルもくりくり剣を回して、


「感覚と、勘」


「はい。では、そろそろ稽古は終わりましょう。

 日が落ちてきました」


 あ、とイザベルが木剣を納めて頭を下げる。


「ご教授、ありがとうございました!」


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