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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十七章 初めての様々
680/782

第680話


 魔術師協会、縁側。


「イザベルさん。今日の仕事はどうでした」


 マサヒデがにこやかに尋ねる。


 ○○○○キノコ野郎。

 ぴくぴく・・・


「上々でございましたあ!」


 イザベルの引きつった固い笑顔。

 ああ、この人は嘘がつけないんだな・・・

 皆が呆れて小さく笑う。


「そうですか。どんな仕事でした」


「椎茸をたくさん取りました! ついでに、鹿も狩って参りました!」


「鹿はどうやって」


 イザベルが左手を上げ、手首に右手を当て、


「頂きました五寸釘にて」


「へえ! 鹿をその五寸釘で! 何本使ったんです」


「2本です」


「2本?」


 マサヒデとカオルが顔を見合わせる。


「頭に2本です」


「ああ、気絶させたんですか」


「いえ。しかと刺さりました」


 イザベルがにっこり笑う。

 頭蓋を貫通したのか?


「というと、どのくらい深く?」


「先から頭までしかと」


 ちりーん・・・

 風鈴の音。


「ううむ・・・やりますね。我々ではとても無理です。見事です」


「お褒め有り難く!」


「訓練場で棒手裏剣を使う時は、頭や心臓を狙わないようにして下さい。

 あなたが投げては、稽古用の物でも死んでしまいます」


「は!」


 マサヒデが空を見上げる。

 まだ日は高い。


「これから、もう一仕事?」


「いえ。ハワード様がいらっしゃれば、一度稽古に参加したく」


「ああ。貴方の得物は剣ですしね。

 アルマダさんの稽古はうってつけでしょう。

 いつも通りなら、まだやっているはずです」


 くす、とマサヒデが笑う。


「ふふ、行ってきなさい。面白いと思いますよ」


「は!」


 ぴし! とイザベルが立ち上がり、


「イザベル、ハワード様の稽古に参加して参ります!」


「ははは! 緩く緩く! 楽しんできて下さい」



----------



 冒険者ギルド、稽古場前、準備室。


 準備室で得物を見ながら、首を傾げる。


 イザベルの得物は、一般にツーハンデッドとかツヴァイハンダーと呼ばれる長さの物。が、柄は普通のロングソードと同じか少し短いくらい、という一風変わった物。狼族の力ゆえに扱える。

 普通はそんな柄の長さでは扱えないのだが、イザベルはそれを知らない。


 もう少し柄が短い物はないのか?

 普通の長剣では刃の長さが足りぬ。

 刃の長さが丁度良い物だと、柄が長過ぎる物ばかり。

 これでは振るに邪魔ではないのか?


(まあ良いか)


 これまでロングソードの木剣で練習していたので、今日は丁度良い長さの物にしてみよう。かた、と大きなツヴァイハンダーのサイズの木剣を取って、訓練場に向かう。



----------



 訓練場。


 ぎいい・・・と戸を開け、よ、と戸を片手で閉めた瞬間、


「ひゃあー!」「きゃー!」


 黄色い声。

 声の方を向くと、ハワード様。


(やれやれ)


 門弟が言っていた事は本当だったか。

 女ばかりで男は締め出されるとか・・・


(おや?)


 イザベルが小さく首を傾げる。

 アルマダが派手な鎧を着ている。

 が、くるりくるりと綺麗に動き、冒険者の剣をするする避けている。


(ううむ!)


 無駄な動きがない。隙がない。

 イザベルの力任せの動きとは違う。

 洗練された、とは、正にあの動きであろうか・・・

 見ているだけで、叩きのめされた気分になってくる。


 自分がどれほど未熟であったか。

 普通より分厚い鎧でも動けるから、生き残ってこれたのだ。

 確かにそれも正解であろうが、あの動きを見ると気が沈む。


 例え鎧を着ていたとしても、あれには絶対に勝てないだろう。

 肩を落として、アルマダ達の所に歩いて行く。


 こつん、と女冒険者の頭に剣を当て、アルマダがイザベルの方を向く。


「おお! イザベル様ではありませんか!」


 ぴしーん! 女冒険者達の目がイザベルを射抜く。

 これはある意味厳しい・・・


 アルマダに礼。

 半分は女冒険者達の視線を避けるための礼。


「は! イザベル=エッセン=ファッテンベルクであります!

 ハワード様! 稽古のご参加をお許し願えましょうか!」


「勿論ですとも! 貴方と立ち会ってみたかったんですよ!」


 立ち会ってみたかったんですよ。

 女冒険者達の視線が針のように鋭くなった。

 下げた頭に、針が突き刺さっているような感じ。


「さあ、こちらへ!」


「は!」


 頭を上げ、アルマダの前に歩いて行く。

 女冒険者達と目を合わせないように・・・

 恐ろしくて、顔が歪みそうだ。


「ふふふ。噂のイザベル様が来たので、皆さん気合が入りましたね」


 アルマダがにこにこしている。

 ハワード様! それは違います!


「イザベル様はそんなサイズの剣を使うんですか。

 女性には珍しいですね」


「いえ、刃はこのくらいなのですが、私の剣は柄がもう少し短く」


 アルマダがちょっと驚いた顔で、


「へえ・・・流石は狼族ですね。

 普通、その長さで柄が短い、なんて中々言えませんよ。

 獣人族の方でも、扱いには苦労するんですが」


「恐縮です」


「ううむ・・・」


 かちゃ、と小さく鎧の音を立て、アルマダが腕を組む。


「木剣ではなく、刃を丸めてある真剣の方を持って来て下さい」


「は?」


「刃が丸めてあるのに、真剣というのもおかしい気がしますが」


「宜しいのでしょうか?」


 アルマダは木剣ではないか。

 受けたら簡単に折れてしまう。


「私はこれで構いません。真剣での貴方の動きが見たい」


「や、しかし」


 アルマダがにっこり笑って、


「大丈夫ですよ。さ、急いで下さい」


「は!」


 ぱー! と訓練場を駆け出て、準備室に戻る。

 並んだ得物を見て、あれ? とまた首を傾げる。


(なんだこれは?)


 鍔の部分から拳よりも少し長く、刃の鍔の所から持ち手が付いている。

 リカッソと言われる握りだが、イザベルは知らない。


 革が巻いてあるから、ここを持つのか?

 その上に、小さく鍔のような物も付いている。

 やはりここを持つのか・・・一体なぜ?


(いかん。待たせてはならぬ)


 首を傾げながら、刃を丸めたツヴァイハンダーを握って、訓練場を飛び出て飛ぶようにアルマダの前に戻る。


「お待たせ致しました!」


「いえいえ」


「ハワード様! ご質問をお許し下さい!」


「なんでしょう?」


「我が家では、このようなおかしな剣を見た事がありません。

 自分で選んでおいてなんですが、これで良いのでしょうか?」


「どこがおかしいのです?」


 はて? とアルマダが首を傾げる。おかしな剣?

 女冒険者達も何がおかしいのだ? と顔を見合わせる。

 イザベルがリカッソの所を指差し、


「ここに持ち手があるのですが・・・」


 は! とイザベルが顔を上げ、


「あ、ああ! 分かりました! 狭い場所や乱戦でも振れるようにですね!

 そうか! 小さく振れる! 人の国は何でも良く工夫されております!」


「ああ、いや。ううむ・・・正解でもありますが。ちょっと貸して下さい」


 アルマダがイザベルの手からツヴァイハンダーを受け取って、


「おっと、流石に重い。見ての通り、この剣は普通の剣より長いですね」


 アルマダが自分の木剣を指差す。


「はい」


「疑問の持ち手。これはリカッソと言います」


「リカッソ」


「ここを持ちまして・・・」


 アルマダが柄の方の手を柄頭まで滑らせ、


「こう持つと。柄の長さと合わせ、長柄武器に近い使い方が出来るわけです」


「おお!」


「小さく振る事も出来ますが、それを目的にしたのではなく、こう持てばより威力を増した振りが出来ますね。このような長く重い剣では、多くの種族ではロングソード程度の長さの柄ではまともに振れないのです」


「それで柄が長かったのですか!」


「そういう事です。狼族の貴方の家では、こんな物は要らなかったのですね」


 イザベルががっくりと肩を落とし、


「う、ううむ・・・なんと恥ずかしい。

 武門の家でありながら、武器もまともに知らぬとは」


 アルマダが苦笑しながらイザベルに剣を返す。


「貴方達、狼族にはなくても良い物です。知らなくて当然でしょう。

 普通に振るだけで、長柄以上の威力なのですから・・・」


 アルマダが木剣を構える。


「さあ、イザベル様の剣を見せて下さい」


「は!」


 イザベルが構える。

 いつものように少し前かがみになったが、む、と持ち直す。

 これではいけないではないか。


 伝授された奥義。

 がっくりと肩を落とし、剣は緩く持つ。

 握るだけ! 握るだけで剣は大きく上がる!


 しっかり脱力されたイザベルを見て、ぴく、とアルマダの眉が動く。

 マサヒデは剣術1点と言っていたが・・・

 アルマダの顔から、笑みが消えた。


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