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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十七章 初めての様々
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第677話


 明朝、冒険者ギルド。


「ふふん! ご苦労である!」


「イザベル様! おはようございます!」


 2日続けて大成功。

 ご機嫌なイザベルがにこにこしながら入って来た。


「今日もご機嫌ですね!」


「そうよ。昨日の代稽古も上手くいったようであるし・・・

 大殿様より、また代稽古の依頼を出すとお言葉を賜ったし」


「おおとのさま?」


「カゲミツ様の事よ。主のお父上様であるからな」


「ああ! それで大殿様なんですね! 分かりました」


「そうよ。稽古はちと厳し過ぎるかと思うたが、そのくらいで丁度良かった。

 流石はトミヤス道場であるな。皆、よく叩き込まれておる。

 飲み込みの早さも素晴らしい。いや、感心したぞ」


「さすがですね!」


「うむ。今日は指名はないか」


 くす、と受付嬢が笑い、


「何日も続けてはないですよ」


「ははは! それはそうよな! では掲示板を見て参る」


「はい!」


 すたすたと掲示板の前。

 今日はどんな依頼があろうか・・・


「りんご。稲刈り」


 まだりんごの旬には早い。

 この時期のりんごを貰っても、あまり美味くないだろう。

 稲刈り。

 米を貰える訳でもないだろう。


「ふっ」


 小さく笑って、ぴ、と依頼書を取る。


 椎茸。

 これだ。そのまま焼いて良し。

 大量に貰えたら、干しておいても良い。

 ・・・日干しで良いのか? この辺も聞いておくか。

 依頼者が場所の山に詳しい者であれば、狩り場なども聞けるかもしれない。


 報酬、銀貨10枚。

 町から離れて時間もかかるし、飯も出ない。

 が、行く価値はありそうだ。


 すたすたと受付に持って行く。


「これを請ける」


「椎茸・・・あ、山の下見を兼ねてですね!」


「如何にも。依頼者から色々と聞けるかもしれぬ」


 受付嬢が、ぽん! と印を押す。


「頑張って下さい!」


「うむ! 行って参る! と、その前に・・・食堂で握り飯を買ってから」



----------



 すたすたと街道を歩いて行き、山を見つめる。

 地図を開き、指定の場所を見る。


(山道に沿って登れば小屋があると)


 目を細めて山の方を見る。

 その山道は何処だろう。

 街道からではよく分からない。


 イザベルは地図をしまい込んで、山へ向かって歩いて行く。



----------



 結局、山道の入り口が分からず、ばしばしと山刀で薮を切り飛ばし、適当に直線で登っていったら、すぐ山道にぶつかった。


「全く・・・」


 これは分からん。

 人ひとりが歩ける細さしかないではないか。

 看板でも立てておいてくれれば良いのに・・・


 山刀を納め、山道を歩いて行く。

 そう高くもなく、すぐに小屋が見つかった。

 もう椎茸の匂いが分かる。


 ぱかん。ぐいぐい・・・

 薪を割って、丸太から斧を引っこ抜く細身の初老の男。

 あれが依頼者だろうか。


 歩いて近付いて行くと、男が立ち上がってじっとイザベルを見ている。

 そのまま歩いて男の前に立ち、


「冒険者ギルドの者だが、椎茸の依頼を出した者か?」


「そうだ」


 胡乱な目。

 イザベルが依頼書を差し出す。


「確認願う」


 男が無言で依頼書を受け取って、イザベルと依頼書をちらちらと見比べる。


「見習いか」


「如何にも」


「ふうん」


 顎に手を当て、男がじろじろとイザベルを見る。


「獣人族だな」


「見ての通りだ」


「山を歩けるのか?」


「細いから不安か?」


「ああ。お世話しながら山歩きは御免だ」


 すたすたと薪割り台の丸太に歩き、刺さった斧を片手で引っこ抜く。

 軽く振り下ろすと、ごきーん! と音が響き、斧の刃が根本まで食い込む。


「済まんな。我にはこの程度の力しかないのだ」


 依頼者の男は驚きも笑いもせず、


「獣人族だけあって、馬鹿力だけはあるな。もう芸はないのか」


 芸?

 ぴく、とイザベルの眉が小さく上がる。

 この椎茸男が・・・両膝を砕いて這いつくばらせてやるか。

 と、足を出しかけてぐっと堪える。


 ふ、待て待て。

 我は冒険者ギルドの看板を背負った者である。


「すまぬ。期待に添えず残念であった。その依頼書を寄越せ。

 ギルドの掲示板に貼り直しておく」


「やれやれ、お前が来なけりゃ、他が請けてくれたかもしれんのに」


 ぴし! イザベルのこめかみに血管が浮く。

 ひく、ひく、と口の端が上がる。


「そ、それはっ・・・もっ、申し訳ない事をしたな・・・」


「全くだ」


 ぴし! と男の手から依頼書を奪い取り、ポケットにねじ込む。

 きりりと椎茸男を睨み付け、


「椎茸男。我が冒険者ギルドに所属する者であった事を、神に感謝せよ。

 ギルドの信頼に関わるゆえ、此度は見逃しておいてやる」


 ふん、と椎茸男が鼻で笑い、


「元気が良い子犬だな。遊び疲れて寝ちまわないか心配だ」


 椎茸男がすたすたと小屋に歩いて行き、背負籠を持って来て、イザベルに放り投げる。イザベルは受け取りもせず、顔に当たって籠が転がる。


「おや。今日は風が強いな。落ち葉が舞ってきたか」


「落ち葉を拾って付いてこい」


 ぎりぎりぎり・・・

 事故に見せかけて始末するか・・・


「貴様の救助は依頼にはない。事故が起こっても知らんぞ」


「何か言ったか。ここは子犬がうるさくて聞こえん。早く来い」


 ぴし! ぴしぴし!

 きりきりきり・・・


 限界ぎりぎりの所で我慢して、籠を背負う。

 私は冒険者。

 冒険者ギルドの信頼を背負っているのだ・・・


「ふうー・・・ふうー・・・」


 怒りで息を荒くして、椎茸男の背中を睨みつけながら付いていく。


「おい」


「何だ」


「随分息が荒いな。もうバテたのか」


「いいや。お前の背中を見ていると興奮するのだ」


「おいおい、発情期か」


「下衆めが。血に飢えておるだけだ。誰かの血を見たくて堪らん」


「何だ、もう腹が空いたのか。全く、子犬は困ったものだ」


「周りに人がおらんな。さて、この飢えをどうしたら良いか」


「自分で何とかしろ」


「おおそうか。では許しも出た事ゆえ」


「待て」


 ぴたりと椎茸男が足を止める。

 倒木から生えた椎茸を指差し、


「あったぞ。これが椎茸だ」


「知っておるわ」


「取り方も知っているのか?」


「ふん!」


 親指と人差し指で、ぴし! と椎茸を倒木からもぎ取る。

 椎茸男がイザベルの手の椎茸を見て、肩をすくめ、


「やれやれ・・・」


「何がおかしい。取ったぞ」


「根本を見ろ」


「・・・」


「黒い所は取るな。その上から取れ」


「ちっ・・・」


 根本を爪先でねじり取り、ぴん、と爪で弾いて捨てる。


「これで良いか、椎茸男」


「ああ。じゃ、後は好きに取れ。自慢の鼻でいくらでも見つけられるだろう」


 ぴくぴく・・・

 イザベルの顔が引きつる。


「1籠分で良いが、変なキノコは混ぜるなよ。

 椎茸以外はいらん。その可愛いお鼻でよく確認しろ」


「ああ」


「1籠貯まったら小屋に戻れ。ちゃあんと取れたら報酬をやる。

 子犬ちゃんでも獣人だ。その鼻なら椎茸探しなんて楽な仕事だろ」


「ああ!」


 ふんふんふん!

 ざすざすざす!

 鼻息荒く、足音荒く、イザベルが山の中に入って行く。


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