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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十六章 救国の者
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第666話


 明朝、冒険者ギルド。


 髪を綺麗に梳いてきて、イザベルは上機嫌。


「うむ! おはよう!」


「おはようございます! 今日はご機嫌ですね!」


「うむ! 獣人族たる者、髪は綺麗に梳いておかねばな!

 どうだ? 尻尾も綺麗にしてきたぞ!」


 くす、と受付嬢が笑う。


「よし! 何でもやるぞ! と言いたいが・・・

 実は出来ん仕事があることに気付いてしまったのだ」


「え? 何か問題でも?」


 ううむ、とイザベルが顔を曇らせ、


「職人街で気絶する者が、肥運びや側溝の掃除は出来ぬ・・・

 仕事の途中で、気絶して倒れてしまうであろう。

 割の良い仕事であるのに、無念だ」


「あ、なるほど・・・」


「となると、稼ぐならやはり炭よ。

 炭焼きか炭割で行くしかないな」


「炭焼きは泊りがけになりますし、炭割では?

 イザベル様なら、1日で何件も出来そうですけど」


「何? 炭焼きは泊りがけなのか?」


「はい。1日では焼けないんです。

 その代わり、3食昼寝に寝床も付いてますよ」


「む! 飯も寝床も付くか! ではそうするか」


 と足を出しかけ、


「あいや、しまった。今、我の野営地で燻製を作っておる。

 炭焼きは山の中であったな。

 夕刻頃に出来上がるゆえ、仕事は町でないとまずい」


「燻製を作ってるんですか?」


 イザベルがにやっと笑って、


「そうよ、燻製よ! 野営具の店に良い燻製器があったのだ!

 なんとたったの銀2枚。チップもこんな大きな袋で銅50枚だぞ!」


「ええ! 凄いですね、それ!」


「であろう? 生から作ると2日ほどしか持たぬそうだが、これがもう堪らぬ美味さとか! 一度干してから作ると1ヶ月、2ヶ月はもつ燻製が出来るそうだが、これは味が落ちるそうだ。干し魚や干し肉がましになる程度らしい」


「へえー!」


「煙が凄いがな。ま、燻製ゆえ仕方ないな。

 魚の燻製だが、明日1匹持って来てやろうか」


「えー! 良いんですか!?」


「良いとも! だが、持ってこなかった時は察してくれ」


「うふふ。はーい!」



----------



 掲示板前。


「ううむ・・・」


 イザベルが険しい顔で腕を組む。

 炭割りの仕事が厳しい。職人街ばかりだ。

 少しずつ慣れてはいきたいが、仕事中に倒れてはまずい。

 どこか・・・


「む! これだッ!」


 ぴ! と依頼書を取る。

 三浦酒天!

 薪割り! 炭割! 水運び! 皿洗い!

 他と比べて高くはないが、4つ同時にこなせる!

 しかもすぐ近く!


「いや・・・」


 皿洗いをそっと戻す。

 割ってしまいそうだ。


 またたくさん薪を割って、今度は飯か酒を分けてもらおう。

 あの店の物はどれも美味!


「よし!」


 すたすたすた。

 受付に依頼書を3枚出す。


「この3つをこなすぞ!」


「あ! 三浦酒天ですね!」


「うむ。薪割り、炭割りで多目に割って、食い物か酒をもらう」


「ナイスです! 頑張って下さい!」


 受付嬢が印鑑を出して、

 ぽん! ぽん! ぽん!


「はい!」


「行ってくる!」



----------



 三浦酒天、裏。


「まずは水運びからか」


「炭割りなんかした後の汚れた格好で、水に汚れが入っちゃいけませんで」


「む、道理だな」


 店員があぜ道を指差して、


「そこのあぜ道を行くと井戸があります。

 そこで水を汲んで」


 大きな2つの桶を指差し、


「あの桶をふたつ、一杯にして下さい」


「ふうん・・・他に桶はないのか? もっと運んでも良いぞ」


 はは、と店員が笑って、


「ううん、桶はもうありませんなあ」


 にや、とイザベルが笑って、


「では、薪割りで倍割ろう。これでもつけてくれんか」


 これ、と指でお猪口の形を作る。


「む! 倍ですか・・・酒5合で如何です」


「良かろう。では、炭割りを倍したら、飯もつけてくれんか」


「お! 炭割りも倍ですか! 炭割りが倍か・・・

 ううん、じゃあ、酒は1升! 更に弁当2つ! 如何です」


「弁当か! マッリーは先日食べたが、他にこの店の推しはあるか?」


「これってのはありませんよ。なんせ全部が推しですからね」


 交渉成立。

 イザベルがにやりと笑い、


「ふむ。では任せるが、弁当は被らないようにしてくれ。

 先日、この店の酒とマッリーの味に、我は酔ってしまった。

 他の物でも酔わせてもらえるな?」


 どん! と店員が胸を叩き、


「お任せ下さい!」



----------



「ぬう・・・」


 意外。水運びが難しい。

 重さは軽いものだが、揺れると簡単に溢れてしまう。

 走る事が出来ない。


 溢れないように気を付けながら、てくてく歩いて行く。

 ばしゃー、と桶に入れて、さー! と井戸まで走って行く。


 かららら! と鶴瓶桶を落として引き上げる。

 これも急ぐと溢してしまう。

 ゆっくり、ゆっくり。


 いらいらいら・・・

 我慢、我慢。

 さっさと終わらせて、薪割り、炭割りに入らなければ・・・


「てえい!」


 ばしゃー!


「ふう! 終わったな」


 どんどんどん! 戸を叩くと店員が顔を出す。


「水汲みは終わった。確認を頼む」


「もう? 早いですね」


 言いながら、桶の蓋を開ける。


「おお、ちゃんと入ってる。こりゃすげえ!」


「溢れてしまうゆえ、歩かねばならんかったから、いらいらした」


 懐から水汲みの依頼書を出して、


「サインを頼む」


「はいはい! じゃ、薪はあれです」


 と、店員が薪の山を指差す。


「あれを2山で良いのだな」


「お願いしますよ」


「細く見えるが、4つに割るか?」


「ええ。四つ割りで」


「む、分かった。割ったのは適当に積んでおけば良いか?」


「はい」


「良し。ここでは初めてゆえ、少し確認を頼む」


「はい」


 薪割り台に歩いていき、鉈を片手で引き抜く。

 細いから、ここでは鉈か。

 薪を山から取って、すかん! すかん!


「この感じで良いか?」


「・・・はい」


「で、炭はあれよな」


「あ、はい」


「炭割りは初めてだ。この鉈で割るのか?」


「ええ。ちょいと失礼。お手本を」


 店員が鉈を取って、ばきん! ばきん! と炭を割る。

 ぱ、ぱ、と手をはたいて、


「このくらいの大きさで」


「む。分かった。まず薪割りを済ませる。終わったら呼ぶ」


「お願いします」


 すかん! すかん! すかん・・・


(えれえ早さだ!)


 片手で簡単に割っていく。

 振り下ろす鉈がほとんど見えない。

 割れた薪がすっ飛んでいく。

 普通なら午前中一杯は掛かりそうだが、倍の量でも簡単に終わりそうだ。


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