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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十六章 救国の者
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第664話


 オリネオの町、広場・・・


 長椅子にマツ、クレール、カオルが座る。

 講談師の周りに、飴をくわえた子供達。


「越後屋よ、儂が家宰に出世したらお主は国一番の商人になるのう」


 くるり。

 講談師が揉み手をし、頭をへこへこ下げる。


「へっへっへ。あの男も哀れなもので。

 今頃は三途の川で鬼と舟遊びを楽しんでおりますかな」


 ぱん!


「と! そこで障子に人影が映る!」


 べべん!

 ぱらりと次の紙芝居の絵。


「その宴、この世の名残りの宴と知るがよい・・・

 はっと顔を上げる悪人ども! 何奴! ぱっと障子が開かれた!

 ばたんばたん! と襖が開く! 抜き身を握った用心棒がずらり!」


 どどん!


「面を被ったこの男! 一体何者!? そっと面を取ると・・・」


 ぱらり。


「はっと驚く用心棒! 用心棒が指を差す!

 貴様はこの前の浪人! お代官様! 邪魔をしたのはこいつです!

 が! 不敵に笑う悪代官! ずらりと並ぶ用心棒!

 たった1人の浪人など、恐れるべくもなし!

 鼻で笑って、始末せい! 用心棒共が立ち上がる!」


 どどん!


「ぐぁー! 障子の裏から刀が一閃! 用心棒が血を流して倒れたあー!」


 ぱらり。


「ばっさり斬れた障子が倒れる! そこに立つはこの男! 首切り十郎!

 悪党共。三途の川の舟遊び、お主らもしたくはないか・・・

 ぴぴっと血を払い・・・鋭い目が光る!

 ひょいと面を捨て、8代王も剣を抜く! ばらりと投げる銅貨6枚!

 三途の川の渡し賃! これは奢りよ! 舟遊びを楽しんで参れ!」


 ぱらり。ぱらり。


「ばっさばっさと十郎に斬られる悪党共!

 ばたりばたりと8代王の前に倒れる悪党共!

 なんと8代王、全て峰打ちで倒しておられるではないか!」


 どどん!


「恐れ慄き、用心棒共の剣も止まる! そこで十郎が血を払って一喝!

 腐った代官めが・・・この御方がどなたか、まだ分からぬか!」


 ぱらり。


「あっと驚く悪代官! この御方はもしや! 貴方様は8代王!?」


 ぱん! ぱん!


「貴様のような悪党を・・・代官に任命した余にこそ責があろう・・・

 嗚呼、悔やみに悔やみ切れぬ顔の8代王!

 が、ぱっと顔を上げて剣を向けた!」


 ぱらり。


「御用商人と結託して私腹を肥やし! 手先を用いて証人殺し!

 その罪、もはや申開きの猶予なし! 天に代わって余が成敗する!」


 どどん!


「ええい! 何をほざくか素浪人! 恐れ多くも王を騙る不届き者よ!

 皆の者! こ奴は王ではない! 王がこのような所に来られるはずもなし!

 出会え! 出会えーい! 斬れ! 斬れーい!

 先生方! 先生方! 慌てた商人も用心棒を呼ぶ!」


 ぱらり。

 どどん!


「さあ皆! この剣を見よ! 8代王の剣に光る、王家の刻印!」


 ぱらり。


「8代王の剣がきらめく! 次々に倒れる用心棒!

 何と鮮やか、御留流剣術!」


 ぱらり。


「十郎の刀が光る! 次々に倒れる用心棒!

 首切りで磨かれた腕は、悪を斬る!」


 ぱらり。


「ついに悪の手下共も打ち倒された! 悪代官が刀を抜く! おのれ!

 8代王の剣が一閃! 膝をつく悪代官!

 8代王を睨みつける悪代官に一喝! 成敗!」


 ぱらり。


「ぴぴーっと血振いされた十郎の刀! 畳に転がる悪代官の首!」


 ぱらり。


「事が済み、宵闇を歩く8代王と十郎の姿・・・

 8代王が月を眺めてぽつりと一言。

 総てはただの素浪人がやったことよ・・・のう十郎。

 さあ、世の悪がまたひとつ消えた! これにて一件落着!

 此度の8代王暴れ日記、これにて完! ご静聴ありがとうございました!」


 わあー! ぱちぱちぱち! と子供達の拍手が上がる。


「うおおー!」


 ぱちぱちぱち! とクレールも拍手を上げる。


「おっ・・・面白いですね・・・」


「はい・・・」


 棒付き飴をくわえて、ぱちぱち、とマツとカオルも手を叩く。



----------



 がらっ!


「只今戻りましたー!」


 元気なクレールの声。

 ぱたぱた・・・すさー! と畳の上を滑りながら正座して、


「マサヒデ様!」


 マサヒデがちょっと仰け反って、にっこり笑い、


「おおっ? その顔は楽しんでもらえたようですね」


「格好良ったです! 三途の川の舟遊び、お主らもしたくはないか・・・

 うわあー! 痺れましたー!」


 ははっ! とシズクが笑って、


「おっ! クレール様は十郎にやられちゃったか!」


「はい!」


「ははは! 成敗!」


「ばしゃー! 総てはただの素浪人がやったことよ・・・」


「ははは!」「あははは!」


 げらげらとマサヒデとシズクが笑う。


「あれ、本はないんですか!?」


「本・・・本は・・・聞いた事ないですね。講談だけではないですか。

 それに、文字だけではあの面白さは分からない気がします」


「ううん・・・確かに・・・」


「シズクさん、本見た事あります?」


「8代王はないなあー。引退王漫遊記はあるよ」


「だ、そうです」


 うーん、とクレールが俯く。


「でも、演劇なんかはありそうですよね」


「演劇っ!?」


「殺陣とか面白そうですよね」


「ああー! マサちゃん、それは面白そう!」


 からからから・・・

 玄関が開く音。


「おっ。マツさん達ですね」


 マサヒデとシズクがにやにやする。


「マサヒデ様」


「ご主人様・・・」


「ははは! 面白かったでしょう!」


「はい」


 ぽすり、とマツが座る。


「紙芝居で、講談とか・・・子供のものと思っておりましたけど・・・」


「でしょう?」


 ささー、とカオルも戻って来て、皆の前に茶を置いていく。


「私も舐めておりました。これからは懐に銅貨6枚を入れておきます。

 三途の川の渡し賃・・・ううむ」


「おおっ! カオルさんは8代王にやられてしまったようですね。

 でも、そんな事したら証拠を残してしまうからいけませんよ」


「はっ! 確かに!」


「ははは!」


「あはは! でも、カオルは決まりそうだよな! 後ろからぶっすり!

 ううって呻く奴の口を押さえて「三途の川の渡し賃です」とか言って!

 懐にそっと入れて、さっと闇の中に消える! クレール様、どうこれ」


「あー! それ格好良いですね!」


「マサちゃんはあれだよ。ばっさー! ぴぴっと血を振るう!

 後ろで倒れる悪党! さっと刀を納めて、懐から銅貨を1枚!

 肩越しに、ぴーんて指で弾いて「永代供養銭です」だよ!」


「ははははは! 私、そんな役者ですか!」


「良い! それも良いですね! 痺れますね!」


「シズクさん、シズクさん!」


「ん?」


 クレールが自分を指差して、


「私の決め台詞は?」


「え? クレール様? うーん・・・」


 シズクが腕を組んで考える。


「んん・・・こんなのどう? ぼん! て相手を消し炭にしちゃって。

 くるって後ろを振り向く! ああーって燃えながら膝をつく悪党!

 で、立ち去りながら一言! 「火葬場に行く手間が省けたな」とか」


「あー! 格好良い!」


 ぱ! とシズクが手を前に出して、


「あーいやいや! 待った待った! これはマツ様だね!

 クレール様だったら・・・ううんと、ううん・・・」


「・・・」


「あ! こんなのどうかな。これは終わった後じゃなくて、勝負前!

 カラスいっぱい死霊術で呼び出してさ」


「うんうん!」


「カラスってのは死体に群がるもんだけどよ・・・

 ところでお前さん、随分とカラスに好かれてるな・・・

 そこで、いっぱいのカラスが、うぎゃーっ!

 どうこれ!? 絶対ビビるよね!?」


「きゃー! 良い! 良いですね、それ!」


「終わったらカラスがいっぱい、ぎゃーって相手に群がるのさ!

 ちらっと見てから、クレール様がくるって後ろ振り向く!

 やっぱりお前さん、カラスに好かれてるな・・・どう!?」


「良い! 凄く良い! 決まってますね!」


「だろだろ!?」


「ではでは、シズクさんは!?」


 にやっとシズクが笑って、


「あっはーん。あるぞ! 昔、飲み屋で酔っ払い相手にこれで決めたぞ!」


「どんなのですか!?」


 シズクがドスのきいた声で、


「鬼ってな、地獄の門番ていうけどさ・・・

 そんなに地獄を覗きたいなら、その門、開けてやってもいいぜ! てね!

 あのおっさん、尻尾巻いて逃げてったぜー! あーはははー!」


「ひゃあー! かーっこいいー!」


「そうだろそうだろー! あははは!」


「イザベルさんは!?」


「イザベル様は台詞いらないね! ぴ! って剣を血振い!

 懐紙を出して、拭ってばらっと。あとは無言で去っていくだけ!

 ね? これだけでかっこいいだろ!」


「ああー! 良い! そういうの凄く似合いそうですね!」


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