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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十六章 救国の者
662/756

第662話


 魔術師協会。


 がらりと玄関を開けると、手を付いたカオル。


「おお、カオル殿。お疲れ様でございます」


 カオルがにっこり笑って、


「さ、お入り下さい」


「失礼致します」


 ずた袋を背負って、居間に上がる。

 す、と頭を下げ、


「皆様、お疲れ様でございます。お邪魔致します」


「おいーす」「こんにちは!」「お疲れ様です」


 きらきらきら・・・

 嗚呼、輝くマサヒデ様のお顔。

 ほわー、とマサヒデの顔を見るイザベルを見て、皆がくすくす笑う。


「さ。座ってくつろいで下さい」


「はーっ!」


「ふふ。化粧品は買えましたか?」


「は!」


「では、カオルさんからお化粧の稽古ですか」


「は!」


 くす、とマサヒデが笑って、


「頑張って下さいね」


「は!」


 皆がにこにこと笑っている。

 カオルも笑顔で茶を持って来て、イザベルの前に湯呑を置く。


「イザベル様。まずは、ご一服」


「ありがとうございます!」


 ごくごく・・・


「ふはっ」


 この冷たい茶が何とも言えない。美味い!

 これは高かろう・・・


「では、化粧品を」


「は!」


 ごそごそとずた袋から受付嬢に教えてもらった化粧品セットを出す。


「ふむ・・・」


 カオルが首を傾げ、


「失礼致します」


 す、と蓋を開けて、カオルが中身をじっと見つめる。

 顔を上げて、真剣な顔のイザベルを見つめる。


「イザベル様がお使いになるのは、これだけで宜しいかと」


 カオルが指差したのは、薄い桜色の口紅。


「口紅?」


「冒険者仕事でお化粧など必要ありません。貴族の護衛などの仕事でも、パーティー等で側の警護として出向くのであれば、向こうでしてくれます」


「カオル殿、マサヒデ様のパーティーの時などは如何致しましょう」


「そのような際は、美容室に行けば宜しいでしょう。

 美容室が閉まっているようであれば、我々が致します」


「・・・」


 カオルが小指にそっと口紅をつけて、イザベルの唇に塗る。

 懐紙を出して、すっと滑らせ、


「さ、これで十分。むしろこれも必要ありませんね。

 いちいち塗り直していては、時間の無駄」


 手鏡を取って、イザベルの手に持たせる。

 ぷ! とマツが吹き出し、皆も笑い出す。


「ははは! 焦りましたね!? ははは!」


「あはははは!」


 皆が膝を叩いてげらげら笑う。


「これだけ?」


「はい」


 カオルがにやにやしながら、手鏡を持ったイザベルの手を顔の前に上げる。


「如何です」


「は・・・」


「お綺麗ですよ」


「は・・・」


 クレールが口に手を当てて笑いながら、


「んふ、んふふふ! イザベルさんは何もしなくてもお綺麗ですもの!

 もーう! 羨ましーい!」


「ははは! イザベルさんは化粧なんてしなくても、十分綺麗ですよ!」


 はっ!


「マサヒデ様! お褒め、ありがたく!」


 やった・・・私は綺麗だったのか!

 マツがくすくす笑いながら、


「あらあら。マサヒデ様、もう第三婦人ですか」


「ははは! イザベルさんなら悪くないですね!」


 悪くない!? 悪くない・・・

 ほわー・・・にやあ・・・


「ぶふぁ! イザベル様! 顔! 顔!」


 シズクがげらげら笑いながら、イザベルを指差す。


「はっ!」


 ぱしん! と頬を叩き、


「申し訳ありません! 婦人などと私めには過ぎた立場!

 妾で結構でございます!」


「あーはははは! その気だ! その気になっちゃったあ!」


「あははは! 私はイザベルさんならお嫁さんになっても良いですよ!」


「あらあら・・・うふふふ。私はどうしようかしら・・・

 お父様は何ておっしゃるかしら・・・うふふふ・・・」


 ぎくっ!


 しまった! 何と軽率な!

 マツの機嫌を損ねたら・・・どうなる!?

 さー、と顔から血の気が引いていくのをはっきり感じる。

 お父様・・・魔王様・・・


 どきどきどき・・・

 ぷるぷるぷる・・・


「ははは! 奥方様!」


「ぷっ! うふふ! 冗談! 冗談ですよ!」


 助かった・・・

 懐紙を出して、ぺたぺたと額に当て、


「わっ、悪い、ご冗談を・・・あいや、私めが軽率な」


「うふふ。構いませんよ」


 マサヒデがにやにや笑いながら、平伏するイザベルに、


「ふふふ。まあ、顔を上げて。

 ちょっとイザベルさんにお尋ねしたい事があるんです」


「は・・・」


 少しどきどきしながら顔を上げる。

 青い顔を見て、マサヒデがくす、と笑う。


「イザベルさん。狼族の主になるって、凄く名誉な事だと聞きました」


「は」


「国王陛下どころか、魔王様にもお伝えするほど」


「は」


「その理由が分かりません。

 過去に100人もいない。うん、確かに珍しいです。

 でも、魔王様にまで伝える事ですか?」


「は」


「貴方自身や、貴方のご家族にとっては、それは大きな事でしょう。

 しかし、それを魔王様にまで報告するのは何故?

 私には、個人的な問題を報告する理由が分かりません」


 イザベルが胸に手を置いて、


「我ら狼族が、血で主と認めるのは・・・

 強く、魅力ある、人を統べられる・・・

 いわば、王の資質を持つ者のみと聞いております」


「王? 王ですか? 私が?」


「男女として愛し合っていても、主と認められるか。否。

 立ち会って負けた。主と認められるか。否。

 恋愛感情ではない。強さではない。

 個人的に主従関係を結びたいと感じるからではない。

 その者に、我ら狼族の王たりうる資質があるか。

 我らはそれを血で感じ取り、主と選ぶと聞いております」


 マサヒデが腕を組んで、


「ううむ、ちょっと待って下さい。

 では、私が他の狼族の方と会ったらですよ。

 その方も私の家臣になるんですか?」


「既に主と認めた者がおらねば、おそらく」


 マサヒデが部屋を見回す。

 皆の唖然とした顔。

 胸に手を当て、幸せそうな顔をしたイザベル。


 マサヒデが頭を抱えてしまった。

 うっかり狼族と顔を合わせてしまったらどうなる!?

 どんどん家臣が増えていくではないか!


 イザベルの家に挨拶に行ったらどうなるのだ!?

 イザベルの一家が丸ごと家臣になるのか!?


「魔王様の最初の兵が、我ら狼族であった事から・・・

 我ら狼族では、そのような人物を、古では建国の者。

 現在では、救国の者と呼んでおります」


 シズクがぽかんとした顔で、頭を抱えるマサヒデを見て呟く。


「すっげえ・・・救国の者・・・

 マサちゃん、鬼族だけじゃないんだ・・・

 世界の救世主だったんだ・・・」


「如何にも。マサヒデ様は、救世主です」


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