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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十六章 救国の者
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第660話


 イザベルの野営地。


 戻って来て、テントから少し離れ、周りにじっと集中。

 よし、誰も居ない。

 そっと落ち葉をどけて、木の根本を掘る。

 大事な大事な、金の隠し場所。


 靴の代金に10枚くらい。余裕を持って、15枚。

 何かあった時の為、服の補修などに使えるよう、15枚。

 30枚を別の小袋に入れて、地面に埋める。

 この30枚は絶対に使ってはいけない。


 残りの金貨、86枚。

 これで指輪とネックレスを揃えねば。

 控えめかつ、それなりに華はあるが、前に出過ぎない物。

 家臣として恥ずかしくなく、しかし周りを食ってしまわない。

 執事曰く、トパーズであれば安く揃えられるそうだが・・・


(実際の値が分からんな?)


 大体、この田舎町で揃えられるか?

 控えめ、控えめ。石は小さくても良いか。

 細工もシンプル目に。

 かつ、安く見られない物・・・難しい。


(店の者と相談するか)


 よし、と金貨の袋をポケットに突っ込んで、さーと森を駆け抜けていく。



----------



 職人街、宝飾店。


「う、ぷぁー!」


「あ! 大丈夫ですか!?」


 ぱたぱたと店員が駆け寄ってくる。


「ううむ、すまぬ・・・平気ではないが、平気だ。

 この職人街の、革なめしの臭いがたまらんだけよ」


 ふうー、と息をついて、イザベルが顔をしかめて立ち上がる。

 くす、と店員が笑って、


「ああ。獣人族の方ですときついですよね。ふふふ」


「堪らん! ふぁー・・・助かったわ・・・」


「あの、お間違いでしたら、失礼ですけど」


「なんだ?」


「イザベル様ですか? トミヤス様のご家臣になられた」


「む。いかにも・・・もう知れておるのか?」


「うふふ。最近、青い顔をした獣人族が職人街を走り回ってるって」


 イザベルが気不味い顔をして目を逸らす。


「ううむ・・・」


「古物屋さんでお倒れになられたとか」


「そうだっ! あんなに臭いとは、知らんかったのだ・・・」


「うふふ。それで、今日はお買い物ですか? 避難ですか?」


「ええい! 買い物だ! もうやめてくれ!」


「はい。どのような物をお探しですか?」


 イザベルがぷんぷんしながら腕を組んで、


「むうん! トパーズだ! 黄色の物! 指輪とネックレス!

 あまり攻めすぎない程度で、それなりの物!」


「あら・・・それは難しいですね」


「ううむ・・・やはり難しいか」


「ええ! イザベル様は、お顔で攻めておりますもの! お綺麗な顔!」


「ふん! そんな安い世辞で我の機嫌は直らんぞ!」


「まあまあ、お気をお鎮めに。こちらへ」


 ふん、と鼻を鳴らして、店員の後に付いていく。


「実際の所、着ける方の容姿や立ち居振る舞い、ご性格・・・

 それで、デザインの派手さ、地味さも大きく変わって参ります」


「ふうん! そうか!」


「うふふ」


 連れて行かれた、指輪の棚。


「例えばこちら。さ、お手を」


 イザベルが手を差し出すと、店員が指輪をはめ、同じ物を店員がはめる。

 手を並べて、


「私の指輪。イザベル様の指輪。同じ物です」


「うむ」


「ですけど、簡単に見て、目立ち方など違うと思いませんか?」


「そうであるな」


「このように、身に着ける方によって、同じ物でも見え方が変わってきます。

 選び方も変わってきますから・・・」


「ふうむ・・・」


「攻めすぎず、かと言って、控えめに過ぎず・・・

 ご家臣と・・・やはり、トミヤス様の護衛や、警護などを?」


「と、考えておるが、マサヒデ様に我の護衛など必要ないか。

 我など手も足も出ぬ始末であるし・・・壁にはなれようか」


「うふふ」


 店員がイザベルの指輪を外して棚に戻し、手を取ったまま、顔を見つめる。

 イザベルの手を見て、もう一度顔を見て、一歩下がって、もう一度。

 棚から指輪を取る。


「私の見立てですと、こちら」


 ん? とイザベルが首を傾げる。

 デザインはシンプルだが、石が少し大きく見える。


「んん? ううむ、石がやや大きく見えるが・・・」


「はめて見ますと・・・」


 店員がイザベルの指を取ってはめる。

 自分の指にもはめる。


「ほら。イザベル様には、違和感はございませんでしょう?

 私では浮きに浮いて、宝石が攻めて前に出過ぎますけれど」


 くる、くる、と手を回す。

 確かに。地味なデザインという所もあるが、浮いては見えない。

 はて、と店員の手を見れば、浮きまくっている。


「ううむ・・・参った」


「うふふ! 参っただなんて!」


 うむ、と頷いて、


「先程の非礼を詫びよう。見事な目である」


「お褒め、ありがとうございます」


「これはいくらであろうか」


「金貨30枚です」


「30枚? トパーズは安いと聞いたが、この大きさで30枚か」


「ええ」


「これがシトリンであれば如何ほどするであろうか」


「シトリンですか! ううん・・・倍は軽く超えますね。

 最高品質になると、この大きさで・・・何倍になりましょうか・・・」


「何? 高いと聞いたが、それほどか」


「シトリンは数だけはあるんですよ。数珠なんかにも入ってたり。

 でも、本格的な宝飾にするとなると別。選定がすごく厳しいんです。

 質の良い物が非常に少なくて、それはもう貴重な宝石なんです」


「ほう? 適当な質の物は意外とあるのか?」


「ええ。露天の銀貨数枚程度の安いブレスレットについていたり」


「何? そうなのか? ふうむ・・・」


「シトリンにご興味が?」


「いや。実は、我が家の宝石はシトリンと決まっておってな。

 されど、金がないゆえ、同じ色のトパーズを探しに来たのよ」


「へえ・・・イザベル様のお家には、何かシトリンに謂れでも」


 ふ、とイザベルが笑って、指輪を外してケースに入れ、手に取る。


「謂れはあるが、実に下らん謂れだ」


 とん、と指で目の下を指差し、


「ほれ。目が黄色いからよ」


「うふふ」


「ふふふ。だから、同じ色であるトパーズで良いのだ。

 何ならイエローダイヤモンドでも良いな!」


「あら! シトリンを超えてしまいますね!」


「ははは! うむ、ネックレスも任せるぞ!

 お主の目は見事だからな!」


「はい。お任せ下さい。

 でも、お家の石がシトリンでしたら、トパーズは良い選定ですよ」


「色が同じだからか」


「いいえ。シトリンは黄色の水晶です。ご存知ですか?」


「ああ」


「トパーズは水晶の親戚なんですよ」


「何? そうだったのか?」


「ええ。6角形の結晶が水晶。4角形の結晶がトパーズです」


「それは知らなんだ・・・」


 店員がネックレスを順に見ていきながら、


「トパーズは凄く硬いんですけど・・・」


 これでもかという大きな石のネックレスを取り、上下に指で挟み、


「この向き。縦向きに当たってしまうと、簡単にぱきんと割れます。

 竹のようなものですね。これが水晶との違いです」


「縦には割れやすい。竹な・・・ううむ、なるほど。気を付けよう」


 店員がネックレスを戻し、指差しながら歩いて行く。

 うん、と店員が頷いて、涙の形の石が着いたネックレスを取る。

 石は小さいが、石を囲む銀の装飾がやや派手に見える。

 黄色に近いが色味が違う、オレンジに近い色。


「これはインペリアルトパーズ」


「インペリアル。王宮、王室」


「そして、最上級の、威厳を持つ、という意味の・・・」


 店員がそっとイザベルの首に手を回し、にっこり笑う。


「うん。黄金色の瞳。威厳ある立ち居振る舞い。イザベル様にはぴったり。

 この色のトパーズは少なくて、当店にはこの程度しかありませんけど」


「いくらか」


「50枚でいかがでしょう」


「買おう」


 店員が頷いて、ネックレスを外して箱に入れる。


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