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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十六章 救国の者
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第659話


 冒険者ギルド、食堂。


 マサヒデ達が定食をつついている。


「マサちゃん、厳しかったねえ」


「何がです?」


「イザベル様ー! 弱い、弱いって」


「実際、弱いんですから。私は幇間稽古はしません」


「うーん。ちょっとかわいそう」


 シズクががぶっと肉の塊をかじる。


「カオルさんはどう見ました」


「ご主人様のおっしゃる通り。成っていません。

 ただし・・・身体の使い方。これもご主人様のおっしゃる通り」


「でしょう? 少しの手直しで、あっという間に良くなります」


「はい。細かな所に、鍛えた動きがしかと見られます」


「なのにあんなに弱い。何故だと思います?」


「やはり身体に傾きすぎ?」


「うーん・・・」


 カオルとシズクが首を傾げる。


「カオルさん、半分正解。傾きすぎなだけ。それも半端なく酷い。

 端々に鍛えた動きが見える。が、学んだ技術が全て死んでいる。

 それを身体能力に依存するあまり、全部殺している。

 所々に技術が見える。死んだ技術が折角の身体を引っ張ってしまっている。

 身体も技術も互いに殺し合っている。ここまで酷い者は見たことがない」


「うーわー! マサちゃん厳しーい!」


 ふ、とマサヒデが苦笑いして、


「ま、ここまで来られたのも、身に着けていた装備の良さと、お供の方々のお陰でしょう。戦っても、身体だけで押していけたから。それで更に身体だけに傾いていった。まあ、こんな所ではないですかね」


「疑問があります」


「む、カオルさん、なんでしょう」


「何故、ファッテンベルクがそんな教えを」


「私もそこを疑問に思いましたが・・・

 イザベルさんが家に連絡した時、ほら、私が家が許してくれるか聞いた時」


「はい」


「イザベルさんの返答、覚えてます?」


「武を磨く為であれば、家の名誉など、という・・・」


「いえ、そこではない。

 お父上に、好きにしろ、投げられていると言った所」


 んん? とカオルとシズクが首を傾げる。


「まあ、推測でしかないですよ。

 お父上も、イザベルさんの悪い所は分かっていたんじゃないですかね。

 いくら教えても、いつまで経っても身体任せ。分からない。

 教えた技術を殺し、殺した技術に変に引っ張られ、身体まで死んでいる。

 こりゃ武術は駄目だ、もういいや、と投げられたのでは?」


「なるほど、それで」


「兄上はどんな武術家相手にも、引けを取らない強さと聞きました。

 同じ狼族、同じ家で稽古を受けているのに、この差はちょっと考えられない。

 もう才能云々の差ではありませんよ。

 実際、身体は優れたものがある。

 あの力。俊敏性。鋭い五感。勘の良さ。

 なのに、冒険者相手に簡単に負けるほど弱い」


「ううん・・・」


「勇者祭は良い機会。お供もつけておけば、イザベルさんならまず死なない。

 痛い目を見て来れば、武術の道は諦めるだろうって所じゃないですか。

 学の道に行かせて軍の文官辺りにするか、何処かに嫁に出すか。

 どちらにしても、諦めて大人しく聞くだろうって感じ」


 ごきゅん、とシズクが口の中の物を飲み込み、


「そっかあー」


 と頷く。

 マサヒデがにやっと笑って、


「が、ここで大事件。大きく事情が変わった。私が主になった。

 私の命令を何でも聞くようになってしまった。

 どんな教えも素直に聞いて、言われるまま。

 では、私が命令を出してみよう。素直に聞いていけば・・・」


「簡単に、大きく伸びる」


「その通り。使えていないだけで、既に技術は叩き込まれている。

 軽く手直しするだけで、どんどん伸びるのでは?

 魔族と人族の覚えの早さは関係ない。

 だって、もう技術は叩き込まれているんですから。

 さて、教える所は? 身体に傾きすぎないことだけ。

 簡単に言えば、余計な力を抜くだけ。たったそれだけ。技術でもなんでもない」


 くす、とカオルが笑って、


「楽しみですね」


「ええ。家に戻ったら、お父上も驚くのではないですか?」


「ふふ。もう驚いているのでは?」


「何をです」


「ご主人様が主になると連絡が届いているはず。

 近々、あちらからお返事が届くでしょう」


 む、とマサヒデが顔をしかめて、


「そうでした・・・また面倒ごとにならないでしょうね・・・

 そう言えば、陛下にも連絡するとか言ってましたよね」


 ぐっとシズクが身を乗り出し、


「本当に凄い事なんだって!」


「ううむ、いまいちそこが良く分からないですね。

 主になった人が数が少ない、というのは分かります。

 でも、まあ珍しいなってだけでしょう? 何が名誉なんだか」


「魔王様の兵士って、狼族だったんだよ!?

 この凄さ、分かんない!? 魔王様と同じ家臣を持ってるって事!」


「ええ? 何か酷いこじつけですね・・・

 カオルさんもそう思いません?」


 はて? とカオルも首を傾げる。


「言われてみれば・・・大名誉だ、ああそうなのか・・・

 ううん、それが何故かと理由を考えた事はありませんでした」


「ですよね。珍しい以外の理由がさっぱり」


「魔王様と同じ家臣だよ!?」


「家臣は他にもいるではありませんか。

 同一人物であればともかく、ただ同じ種族というだけです。

 それに、他の種族の方だって、たくさんいるでしょう?」


「ん? あれ? そういえば、そうか・・・あれれ? じゃあなんで?」


 シズクも首を傾げる。


「ね? 分からないでしょう? 珍しい、しか理由がないんですよ」


「うーん・・・なんで?」


 マサヒデは肩を竦め、


「さあ? さっぱり。珍しいというだけで、陛下に連絡するほどですかね。

 そんな事はないはずです。となると、何か他にあるんでしょうが・・・」


「奥方様に聞けば分かるでしょうか?」


「どうでしょうね? マツさんも、数少ない! これは名誉だ!

 としか言ってませんでしたし・・・理由、知ってますかね」



----------



 マサヒデ達が首を傾げ、さあそろそろ、と立ち上がった時。


「カオルどっ、カオルー!」


 イザベルの大きな声。

 食堂の皆が驚いてイザベルを見る。


「む」


 険しい顔でイザベルが歩いて来て、カオルの前に立つ。


「なにか・・・」


 ば! とイザベルがカオルの肩を掴み、


「時間がある時で良い。我に化粧を教えてくれぬか」


「はっ?」


 予想外。化粧?

 なんだ? とマサヒデとシズクが顔を見合わせる。


「我は自分で化粧をしたことがない。頼む」


「・・・」


「どうか。頼んで良いか」


「はあ・・・」


「そうか!」


「化粧品は?」


「いや、まだない。これから買ってくるゆえ」


「左様で・・・では、お買い上げになりましたら・・・」


「おお! 助かる! では!」


 くるりと振り向いて、イザベルは食堂を出ていった。

 はー・・・とシズクが食堂の入り口を見つめたまま、


「お化粧、な・・・歌舞伎役者みたいにならないだろうな?」


「う、ううむ・・・」


 マサヒデが首を傾げ、


「冒険者仕事ですよ。化粧なんて滅多にしないでしょうに。

 必要な時は美容室、で良いのでは?」


「ええ・・・」


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