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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十六章 救国の者
657/759

第657話


 冒険者ギルド、裏。


 メイドとイザベルが並ぶ。


 小さな丸太。

 山積みの太い薪。

 丸太に刺さった小さな斧。


 イザベルがすっと斧を片手で引き抜き、


「これで割れば良いのか?」


「はい」


「うむ。助かる。自分の得物を使わんで済む」


 ぽんぽん、と腰の山刀を叩く。


「4つに割って下さい」


「うむ。ところで相談だが、たくさん割れば少し分けてもらえるか?」


「量によりますが・・・そうですね・・・

 ひと山を終わらせましたら、一束でいかがでしょう」


「そうか。頑張ってみよう」


 よ、と山の上から薪を取る。


「ん」


 すかん!

 う! とメイドが目を見開く。

 片手で軽く真っ二つ。

 斧ががっつりと深く丸太に食い込んでいる。


「おお、薪とは良く割れる物だな!」


 真っ二つに割れた薪を取り、


「なるほど。乾燥しておるから簡単に割れるのか。

 うむ! これは気持ち良い仕事よな!

 4つに割るのだな? これを更に半分で良いか?」


「はい・・・」


 すかん! とん。すかん!


「うむ。1本割った。割れた物はどこに置く?」


「適当に積んでおいて頂ければ・・・」


「そうか」


 とん。すかん! とん。すかん! とん。すかん!


「簡単ではないか」


 とん。すかん! とん。すかん! とん。すかん!


「これで銀10枚か。良い仕事を取れたわ」


 とん。すかん! とん。すかん! とん。すかん!


「よっと」


 とん。すかん! とん。すかん! とん。すかん!


「む、そろそろ邪魔だな」


 イザベルが薪を束ねてひょいと放り投げる。

 全く疲れた様子がない。

 汗ひとつかいていない。


 あんなに細い腕で・・・

 メイドがくい、と自分の腕を掴む。


 すかん! すかん! すかん!


 獣人でもあれだけ軽く割る者は滅多にない。

 それを片手で・・・

 むしろ、台の丸太が割れてしまわないかが心配だ。

 丸太には斧が食い込んでいるのに、片手だけですっと抜いている。


「のう」


「は、はい」


「化粧はどうしたら良いと思う?」


「は? 化粧?」


「うむ。化粧だ」


 化粧。

 ううむ、とメイドがイザベルの横顔を見る。


「イザベル様であれば、ナチュラルが宜しいかと。

 目鼻立もくっきりしておりますし、肌もお綺麗です。

 あまり塗らない方が」


「ううむ・・・具体的にどう?」


 すかん! すかん! すかん!


「ファンデーションを軽く、透明感があり、あまりテカらない物。

 コンシーラーは・・・今は必要そうにもありませんね。

 目の下は睡眠不足でクマが出ることもありますし、時によって」


「ふむ?」


 すかん! すかん! すかん!


「リキッドファンデーションをつけて」


「ふむ」


 すかん! すかん! すかん!


「眉は全体をパウダーで。眉の中央辺りをパウダーより濃い色のペンシル」


「ふむ」


 すかん! すかん! すかん!


「アイシャドウは薄い色で、ふわりと・・・」


「ふむ」


 すかん! すかん! すかん!

 まとめて、どさ!


「ううむ・・・すまぬ、さっぱり分からん! 困った・・・」


「どうなされたのです? 化粧が何か?」


「うむ」


 すかん! すかん! すかん!


「我が全ての荷物を実家に送り返した事は、もう知られておろうな」


「はい」


「化粧品も全てよ」


「はい」


 すかん! すかん! すかん!


「で、さて化粧品も買わねば・・・と思ったが」


「はい」


 すかん! すかん! すかん!


「自分で化粧をしたことがない。どうしたら良いか」


「・・・」


 すかん! すかん! すかん! すかん! すかん! すかん!

 すかん! すかん! すかん! すかん! すかん! すかん!


 がらっ! ぽい! がらら・・・

 ぺき・・・


 すかん! すかん! すかん・・・


「いや、困った・・・これには参った・・・」


 よ、と薪をまとめて、どしゃ!

 からから・・・と薪が転がる。


「でしたら、サダマキ様にご相談されては?」


「カオルか?」


「お化粧上手ですよ。稽古で汗をかいた後も、全く元通りで」


「む」


 それはそうだ。変装した顔なのだから。

 いやしかし、変装上手か・・・そうだ。化粧も上手いはずだ。


「ふむ! そうか! そうであるな!

 うむ、ひとつ手ほどきをうけてみるか。

 今は稽古中であろうか。よし、急ごう。我も稽古に参加したい」


 すかん! すかん! すかん・・・



----------



 冒険者ギルド、受付。


 左右に1束ずつ薪を抱え、イザベルが戻って来た。

 半刻も経っていないが・・・


「終わったぞ」


「えっ」


 差し出された依頼書。

 確かにサインがある。


「ほれ、薪が欲しくてな。2山片付けてきた」


「えっ!?」


 くい、とイザベルが薪の束を持ち上げる。


「良い仕事であった! 薪割りは気持ちが良い!

 すかっと斧が通って行くのが良いな」


「すかっと」


「うむ!」


 汗ひとつかいていないが・・・

 よ、とイザベルが薪の束を下ろし、


「ここにサインだな。ペンを貸してくれ」


「あ、はい」


 さらさら・・・


「よし! 完了か! のう、訓練場に行ってみたいのだが、この薪はどこに置いたら良かろうか? 先程の、ここの後ろに置いておけば良いか?」


「あ、ええと、間違って使われてしまわないように、これに名前を書いて挟んでおけば」


 受付嬢が差し出したメモに名前を書いて、束に挟む。


「む、感謝する。訓練場の使用は、ここの冒険者であれば特に許可などいらぬのだったな」


「はい」


「マサヒデ様は?」


「いらっしゃいますよ!」


 ぱあ・・・とイザベルの顔が明るくなる。


「おお! 来ておられるか!」


 イザベルの顔を見て、受付嬢もにっこり笑う。


「訓練場の入り口前に準備室がありますよ!

 そこで稽古着に着替えて、稽古用の武器を選んで下さい!」


「分かった!」


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