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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十四章 冒険者へ
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第641話


 作業品店を出て、織物屋に向かう。


 織物屋はイザベルが着流しを買った店が近くにあるというので、そこへ。

 もう夕方。急がないと暗くなってしまう。

 色々買ったので、もう金貨1枚を切ってしまった。

 普通の稽古着なら、1着で大体銀貨10枚前後。


「こんにちは」


「はーい、いらっしゃいませ!」


 ふ、と小さくイザベルが息を吐く。

 ずっと革の臭いがする職人街を歩き回ったから、精神的に疲れたのだろう。


「稽古着ってありますか?」


「ありますよ。色はどうしましょう?」


 マサヒデが振り向いて、イザベルの方を向く。


「どうします?」


「色? 稽古着の色ですか?」


 考えた事もなかった。

 はて? どうしよう?


「ううむ・・・」


 イザベルが腕を組んで首を傾げる。


「ふふ。では私と同じにしましょう。

 上は白。袴は紺で。イザベルさん、荷物を下ろして合わせて来て下さい。

 同じ物を2着。外帯も2本」


「は!」


 どさ、と背負子を下ろして、店員に付いて行く。

 ここで安い下着を買ったのだった・・・

 思い出して、少し恥ずかしくなる。

 安物だったし、長く持つか不安だ。

 もう2、3枚、買い足しておこうか・・・

 でもマサヒデがいるから、今はやめておこう。


「では手を広げて下さい」


「頼む」


 さ、さ、と店員が丈を図り、稽古着を持って来る。


「はい、こちらですね。あちらが試着室です。合わせてみて下さい」


「うむ」


 ドアを開けて、着替えてみる。

 稽古着。

 懐かしいものだ。

 柔術の稽古の時は必ずこれだった。

 先生は今どこにいるだろうか?


 袖を伸ばしてみる。

 足元を見てみる。

 少し大きいか?

 ドアを開けて、


「大きい。もう少し小さい物が良い」


「あ、それで良いんです。稽古着は洗うと結構縮みますから。

 使ったらすぐ洗いますし、3、4寸は縮みますよ」


 ここから3、4寸。

 短いくらいになってしまうが、これ以上大きくても動きづらい。

 ううむ、と小さく首を傾げ、


「そうか。ではこれで良い」


 ドアを閉め、着流しに。

 よいしょ、と畳んだ稽古着を持ち上げ、


(うむ?)


 と、首を傾げる。

 これから野営だ。

 寝巻きにするなら良いが、着流しで野営準備は・・・

 もう一度着流しを脱ぎ、稽古着に着替える。

 着流しの裾から金を出し、稽古着の裾に入れる。


(ううむ)


 稽古着も使った後はすぐ洗うそうな。

 洗濯は家でも旅の最中でも人任せだった。

 もう暗くなるし、今夜は洗濯は出来まい。


 汗をかかなければ良いだろうか?

 天幕を立てた後は、つなぎに着替えるか。

 明日はもう1着の稽古着で行こう。


 稽古着を着たまま外に出て、


「この稽古着を頂く。この外帯も頂く。いくらか」


「銀18枚です」


「うむ」


 じゃりじゃりと裾から金を出し、


「数えてくれ」


「はい」


 ちゃり、ちゃり、ちゃり・・・


「はい! 18枚、確かに! 毎度ありがとうございました!」


「うむ」


 背負子の所に戻り、先程買った革袋に道着と着流し、帯を入れる。

 背負子をひょいと持ち上げて背負い、袋を持つ。

 マサヒデの方を向くと、マサヒデが頷く。


「では行きましょう」


 がらり。

 織物屋を出る。


 もう日が沈みかけ。

 外は紫色だ。


「野営地の候補地はいくつかあります」


「は!」


「ひとつ目。魔術師協会、冒険者ギルドがある方の町の門を出た街道脇。

 町の門には衛兵さんも居ますし、泥棒の心配もないでしょう。

 ただし、町からすぐ近くですし、個人の野営が許されるか分からない。

 そして、近くに水がない。

 ですので、井戸は魔術師協会の物を貸しましょう」


「は!」


「ふたつ目。門を出てそのまま真っ直ぐ行くと、森にぶつかります。

 森へは、私でも半刻も掛かりません。

 イザベルさんなら、さっと走って四半刻もいらないでしょう。

 人の手が入っているので、深いものではありません。

 散歩に丁度良い感じの程度。狩りも出来ます。

 危ないのは猪くらい。イザベルさんなら危なくもないですか。

 が、ここも水場がない。

 魔術師協会からも離れますから、水の確保が少し面倒」


「は!」


「みっつ目。そのまま森の中を真っ直ぐ行くと、川があります。

 水もある。川には魚も多く、狩りも出来る。食事には困らないでしょう。

 ですが、川の対岸の森は人の手が入っていない。

 もしかすると、魔獣なんかもいるかもしれない。

 町からも少し離れますね」


「は!」


「最後。騎士さん達と立ち会いをした辺り。

 草も深くないし、天幕を立てるには良いでしょう。

 ただし、水がない。

 あの辺りは動物がいるかいないか分かりません。

 食料の確保が出来るかどうか、不明です。

 また、回りも野っ原で開けている。人通りも少ない。

 離れている間、泥棒される危険が大きい」


「は!」


「どこにしますか?」


「まず町の門近くへ行き、衛兵に野営が許されるか尋ねます。

 駄目であれば、森に入って川へ行きます」


「分かりました。帰り道ですし、門まで一緒に行きましょう」


「ありがとうございます!」


「あ、それと」


「は!」


「塩を買っていませんね。明日、塩を買っておきなさい。

 今晩は、三浦酒天の弁当を奢ります」


「よろしいのですか!?」


「ええ。明日の道場への挨拶の為、精を付けておきなさい」


「感謝致します!」


「弓もありませんし、金を貯めたら、まず弓を買うと良いでしょう。

 イザベルさんは鼻も効くし、あの森なら鹿も猪も狩り放題。

 燻製肉を作り、あとはパンでも買えば、食事代が軽く済みますね。

 余った肉や皮を売れば、金はどんどん貯まっていくでしょう。

 ランクもすぐに上がるでしょうし・・・」


 ううむ、とマサヒデが腕を組み、


「そうですねえ・・・」


「・・・」


 イザベルがマサヒデの言葉を待つ。


「ある程度・・・武具が整って、金が貯まったら・・・

 他の町なんかに、配達を任されるようになったら・・・」


「・・・」


 マサヒデがにっこり笑って、


「馬を捕まえに行きましょうか」


「ははっ!」


「たくさん捕まえて売るのは駄目ですよ。1頭だけ。

 あそこの馬は貴重なんですから」


「ははーっ!」


 馬!

 あの黒嵐のような馬!

 騎士達が乗っていた、戦馬のような馬!

 イザベルの心がざわめく。

 馬! 馬が欲しい!


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