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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十四章 冒険者へ
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第637話


「ありがとうございましたー!」


 野営具一式を揃えて店を出る

 外に出るとイザベルが顔をしかめて、


「うっ」


 と唸る。


「さあ、ホルニ工房に急ぎましょう。ナイフは買っておかないと」


「は・・・」


 ざす。ざす。

 全然平気そうだ。

 全身の金属鎧を着て普通に歩いていたのだから、当然か。

 足を早めて、工房に急ぐ。


 がらっ。


「うわあ・・・」


 駆け込むようにイザベルが入って、膝をつく。


「あ! ちょっと!」


 驚いて、ラディの母がカウンターから掛け出てくる。

 マサヒデが笑って、


「ははは! ご心配なく」


「大丈夫!? 重いの!?」


「いや、荷物は平気だ。臭いが・・・臭いが」


「ははは!」


 ええ? とラディの母がマサヒデを見る。


「ほら、イザベルさんは獣人ですから。鼻が利きすぎるんですよ。

 外の革なめしの臭いで堪らないんです」


「あらあら・・・」


「さ、イザベルさんは休んでて」


「は・・・」


 ぐったりとイザベルが座り込む。


「ナイフと・・・そうですね、鉈か山刀を下さい。

 イザベルさん、しばらく野営生活になりますから」


「そうなんですか? 狩りにでも?」


「今日から待ちに待った冒険者生活なんですよ。

 ふふふ。貴族様が仕送りもなしで、無一文から生活です」


「ああ! でも、大丈夫でしょうか?」


「イザベルさんなら、余裕でランクを上げて行きますよ。

 他にも回らないといけませんので、軽く見繕ってもらえますか?

 新米冒険者価格のやつ。合わせて金貨1枚以内って所で」


「ううん、分かりました」


 ラディの母がナイフと大きな鉈のような四角い刃の山刀を取って、


「うちは武具専門ですから、鉈はないですけど、これなんか如何でしょう?

 ちょっと変わった形の山刀って所かしら。

 薮を切って開いたり、普通に薪割りにも十分使えますよ。

 頑丈ですから、獣人のイザベル様なら、斧代わりにも使えそう」


 2尺弱。

 ずしりとくる重さ。

 形は鉈だが、先にも刃が付いている。


「うおっ? これ、普通の鉈より重いですね」


「刀身だけなら、刀よりも全然重いですよ。

 見ての通り、頑丈一番! うちはそれが売りですもの」


「良いではありませんか! この握りも良い!

 指に合わせて山があって。中くらいの所が少しへこんでるのも良いですね。

 ううむ、握りやすい! 工夫してある・・・

 作業にも使えるし、得物にも使える!」


「でしょう?」


 鞘に入れ、イザベルの前にしゃがんで、


「ほら、イザベルさん。持ってみて」


「は」


 よいしょ、と、まだ少しきつそうな顔で山刀を握る。


「む? む?」


 鞘から抜く。

 イザベルの力なら、軽いものだろう。


「お、おお!? これは良い!」


 ぱあ、とイザベルの顔が明るくなる。


「この山刀なら、薪割りどころか斧にもなる。

 どうです。手に合いますか」


「は! これは良く使えそうです!

 いや、流石ホルニ殿! 一流の職人は違います!」


「ありがとうございます。ナイフはこちら」


 握りと刃を合わせて丁度1尺。

 大きさの割には重いが・・・


「お?」


 柄頭までずっと伸びていて、それを木の柄で挟んだ形。

 これは頑丈そうだ!

 柄は少し曲線があり、中ほどがふわりと膨らんでいて、握りやすい。

 重量の釣り合いが良く、重さの釣り合いが取れている。

 持てば重さが軽く感じる。

 ホルニの打った物は、どれも重さの釣り合いが絶妙だ。


「おおっ!? お母上、これは凄い!

 ほら、イザベルさん、持ってみて!」


「は!」


 イザベルが握って鞘から出すと、目を丸くして、


「おお・・・これは良い・・・」


 後ろでラディの母がにこにこ笑っている。


「お母上、これはいくらの?」


「銀で30枚ですよ」


「ええ!? これで銀30枚!? まけてくれてるんですか?」


「いいええ! 元から30枚! 数打ちですよ」


 ラディの母が立ち上がって、ナイフの所に置いてあった値札を出す。

 銀貨30枚。これが数打ち。

 おお・・・とマサヒデとイザベルが顔を合わせる。


「ううむ! さっきの山刀は?」


「銀72枚。うふふ。そのナイフでも、細めの薪くらい簡単に割れますよ。

 でも、薪割り用じゃありませんから、さっきの山刀でお願いしますね」


「む、む・・・」


「合わせて買ってくれたら金貨1枚ぽっきり!

 今なら更に砥石もお付けしちゃいます!

 イザベル様、おいかがでしょう?」


「買った! いや買わせてくれ! 頼む!」


「うふふ。お買い上げ、ありがとうございます!」


「マサヒデ様、これは良い買い物を致しました!」


「ええ! やはりここに来て良かった!」


「これからもご贔屓にー!」



----------



「良い買い物をしましたね!」


 イザベルは腰の山刀とナイフを「ぽんぽん」と叩き、


「は! やはりホルニ殿は一流!

 これほどの物が、合わせてたった金貨1枚とは!」


「良し。残りは金貨1枚と少し。

 先に杖を売りに行きましょう」


「は!」


 イザベルがまた倒れ込まないように、早足で歩いて行く。

 職人街に古物屋はいくつもあるので、すぐ見つかった。


「あそこに入りましょう」


「は!」


 がらり!


 むわあ・・・

 む、とマサヒデが小さく顔をしかめた瞬間、


「ぼふっ!」


 変な声を出して、ばたりとイザベルが膝をつく。


「ああ! イザベルさん!」


「どうなすった!?」


 ばたばたと店員が駆け寄って来る。


「すみません、大丈夫。鼻です。獣人の鼻。臭いでやられたんです」


「へっ・・・? は、ははは! 臭いで!

 姐さん、慣れてねえなら古物屋に入っちゃ駄目ですよ! ははは!」


「申し訳ありません。ちょっと何処かに避難させます。

 すぐ戻りますから、少し待ってて下さい」


「ははは! お待ちしております!」


 よ、とイザベルに肩を回して立ち上がらせ、ホルニ工房に戻る。


 がらり。


 あ、とラディの母が顔を上げる。


「すみません。イザベルさんが古物屋でやられてしまって・・・」


「ええっ!? 古物屋に入っちゃったんですか!?」


「申し訳ありません。あんな臭いがするとは、私も知らなかったんです」


 古着の革装備!

 履き古しの革ブーツ!

 冒険者達の汗が染み込んだ、革の地獄!

 それが職人街の古物屋なのだ!


「あらあら・・・」


「少し、ここで休ませてやってもらえますか」


「構いませんとも。さ、イザベル様、こっちでお休み下さい。

 枕持ってきますから」


「うう・・・」


 マサヒデが背中の背負子を外して、抱き上げてカウンターの後ろの上がり框に運んで行く。


「いや、申し訳ありません。私の不覚でした」


「良いんですよ。さ、イザベルさん。横になって」


「ああ・・・」


 ゆっくり寝かせ、少しして、ラディの母が枕を持って来て、頭の下に置く。


「ふう・・・すみません」


 イザベルの腰から杖を抜いて、額に手を置く。

 熱はないが、顔が真っ青だ。


「これを売ってきます。すぐ戻りますから、お願いします」


「はい。お任せ下さい。臭いでやられたって、ラディで治せるかしら・・・」


「ご迷惑をお掛けしてしまって、申し訳ありません。では」


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