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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十四章 冒険者へ
636/758

第636話


 職人街、登山具店。


 イザベルの野営具を揃え中。


「あと、火打ち石を下さい」


「はーい! 火打ち石は良い物がありますよ!」


 すたすたと別の棚に歩いて行く。

 小さい野営具が色々と並んでいる。

 店員が3寸くらいの鉄の棒を取り、


「これが火打ち石!」


「ん?」「石?」


 マサヒデとイザベルが怪訝な顔で棒を見る。


「ほら、こっちの棒。やすりで深く削ったようにがりがりになってますね」


「ええ」


「で、こっちの棒をつけて、こう」


 じゃりりっ!


「うお!? すごい火花が出ますね!」


「でしょう? これなら火もつけやすいですよ」


「おいくらでしょう?」


「銀貨2枚!」


「これは良い。イザベルさん、これを買いましょう。

 小さいし場所も取らない」


「は!」


「背負子を見せて下さい」


「はーい!」


 奥の棚へ。

 色々な背負子が並んでいる。


「ううむ、背負子も色々ありますね・・・」


「一式持って長旅なら、これですかね」


 店員が大きめの背負子を指差す。


「骨が鉄製で、ちょっと重いですけど、荷物もたくさん詰めます。

 で、ここの紐が良いんですよ」


 よいしょ、と店員が背負って、幅広の革のベルトを巻いて腰を回して縛る。


「ああ、これで横に傾きづらい」


「だけじゃないんですね! 重さが肩だけではなく、腰でも押さえられる。

 だから、長く歩いても肩がこらない!」


「ほう!」


 よいしょ、と下ろして、


「背中に当たる所も、中には綿が詰まってて、痛くない。

 この大きさで重さは2貫! どうぞ、試してみて下さい」


「イザベルさん」


「は!」


 ひょいと持ち上げて、背中に背負う。


「む! 鉄を使っているが、意外と軽いな?」


 2貫あるのに、片手で軽く。

 さすがは獣人族。


「どのくらい積めるでしょう?」


「15貫はいけます。力のある御方なら17、8も平気でしょう」


「おお、イザベルさん、良いではないですか。

 石も積んでいけますよ」


「は!」


「お値段は?」


「銀30枚です」


「む、背負子って意外とするんですね・・・天幕より高いではないですか」


「ええ、これは結構積めるやつですから。一式持っていくとなると、積める重さに余裕も持たせて、このくらいのにした方が良いと思いますよ。狩りなんかするなら、これで獲物も運べますし」


「確かに。あとは・・・何があると良いでしょう?」


「食器類なんかあると良いでしょうね」


「見せて下さい」


 先程の火打ち石の棚へ戻る。


「この鍋。小さな鍋がこれだけ入ってます」


 鍋の中に、鍋、鍋、鍋。

 深い物が2。浅い物が2。

 細い鉄棒が鍋にぴったり付いている。


「これが持ち手?」


「そうです。こう回すと、ほら持ち手に」


「ほうほう」


 開いて持って来て、棒と棒を重ねる。


「お、良いですね。4つも入っているのも良い」


「浅い方はそのまま皿にも使えますよ」


「あ、なるほど。おいくらでしょう」


「銀で2枚です」


「頂きましょう」


「はい、毎度!」


「他に何か必要なものは」


「大事な物がありますよ。寝袋」


「ああ! 見せて下さい」


 棚を回って裏側。

 筒型の袋がたくさん並んでいる。


「あ、ここまで小さくなるんですか。

 ううむ・・・私のより全然良いですね・・・」


「おすすめはこいつです」


 ごそごそと袋から出して、床に広げる。

 四角い形で、よく見る死体袋のような寝袋ではない。

 立ち上がって、


「これの良い所は、丸洗い出来る所ですね。

 いちいち中を広げて拭いたりしなくても良いです。

 大きさも見ての通り、結構広いです」


 マサヒデが座ってぐいぐいと寝袋を押し、


「冬場でも平気ですかね?」


「冬場はきついですかねー」


 店員が広げた寝袋を丸めて袋に入れ、ぐっと縛る。

 隣の袋を取って、


「冬場にも使えるのはこれ。高い所まで登っても大丈夫。

 水が凍りつくような寒さでもいけます」


 言いながら広げる。

 普通の死体袋の形。


「これも丸洗い出来ますよ。横が開けられるんで、暑くても使えます。

 さっきのより、重さがちょっと重くなりますね」


「どのくらい?」


「1貫弱って所ですか」


「おいくらでしょう」


「銀5枚です」


「む、頂きましょう。

 このくらいの重さ、イザベルさんなら全然いけるでしょう。

 ここまで、さっきの背負子に積んでもらえますか」


「はーい!」


 よ、よ、よ、と背負子に乗せて、上から紐を縛って固定。


「イザベルさん。背負って」


「は!」


 荷物が積まれていても、ひょいと片手で持ち上げる。

 背負って、


「どうです?」


「軽いです! うむ、店主、これだけか?」


「あとは、ナイフとランプと手袋ですね。

 あ、そうそう! 山ごもりするなら良いのがひとつ!」


 四角い、薄い鉄鍋のような物。

 中に小さな入れ物が固定されている。

 上に網、蓋。


「これは?」


「これで燻製が作れます」


「え!? こんなので!?」


「この中の入れ物に、燻製で使う木を入れて軽く火を着けたら、網に肉乗っけて、後は蓋をして放って置くだけ」


「へえ!」


「干し肉なんか作るのは時間掛かりますからね。

 出先で軽く何か狩って、なんて時はこの方が良いでしょう。

 1日放って置くだけです」


「あ、軽い。こんなに薄い鉄で良いんですね」


「燻製ですからね。中に煙がこもれば良いんですから」


「はあ・・・こんな便利な物が! やっぱり高いですか」


「銀2枚です」


「え!? それだけ?」


「ははは! やっぱり驚かれますか! 大した材料も使ってませんし、見ての通り、作りも簡単ですから」


「イザベルさん、これは良いと思いませんか?」


「はい! 狩りをした後も、肉を長持ちさせられます!」


 店員が革袋を差し出し、


「で、これが燻製に使う木。どれも銅30枚です」


「店主、どんな木があるか」


「桜、ナラ、オニクルミ、リンゴ・・・と色々ありますが、オニクルミが良いでしょう。肉にも魚にも、何にでも使えますからね。猪みたいに癖が強いのは桜じゃないと物足りないですが、まあ大体これで済みますよ」


「何にでもか! 良いな! 物足りない程度なら構わん。それを頼む」


「ご注意ですが、天幕の中とか、家の中で使ってはいけませんよ。

 なにせ燻製ですから、煙が出ますし、匂いも強いですからね。

 あと、燃やしてるわけですから、熱くなります。素手で触らない事」


「む。気を付けよう」


「さて、燻製の木ですが、大袋なら銅50枚! 中身は5倍! いかがです」


 イザベルが驚いて、


「何? 中身5倍で2倍もせんのか? 商売になるのか?」


「なりますとも。使う木は木くずでタダ同然ですし。

 ほとんど袋の値段なんですよ」


 マサヒデとイザベルが顔を見合わせる。


「大袋で頂く!」


「毎度!」


 後はランプと手袋。

 ナイフはホルニ工房で買えば、安く良い物が手に入る。

 野営具は、全部揃えても金貨1枚で済みそうだ。


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