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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十四章 冒険者へ
635/758

第635話


 魔術師協会。


 からからから・・・


「只今戻りました」「イザベル、只今戻りました!」


 居間に戻って、


「おかえりなさいませ」「おかえりなさいませー!」


「さ、イザベルさん。その本置いて。急いで出掛けますよ」


「は? は!」


 クレールが驚いて、


「ええっ!? 帰って来ていきなり!?」


「もうイザベルさんは冒険者。ここには泊めません。

 それと、明日は道場です。さすがに着流しでは行けませんよ。

 早くしないと、日が沈みます」


「は!」


 さ、とカオルが立ち上がって湯呑を出し、


「出かける前にご一服」


「ありがとうございます」


「感謝致します!」


 ぐぐー・・・


「さ、行きましょう」


「は!」


 ひょいとマサヒデが廊下から顔を出し、


「遅くなるかもしれませんから、夕餉は先に食べて下さいね」


 すたすたすた・・・

 がらがら。


 居間に置かれた『冒険者心得と規約』。


「お忙しい事ですね・・・」


「本当・・・」



----------



 広場に向かいながら、


「イザベルさん」


「は!」


「きついでしょうが、職人街に行きますよ」


「う・・・はい」


「野営具なんかはあちらで揃えた方が良い。

 その杖を売るのも、あちらの方が良い」


「は・・・」


「目眩で危ないと感じたら、すぐ言って下さい。

 近くの店の中に逃げ込みましょう」


「は!」


「それと、これは全然関係ない話ですが・・・

 答えたくなければ構いません」


「お聞き下さい!」


「イザベルさんって、体重はどのくらいあります?」


「体重ですか? ううん・・・15、6貫(約56~60kg)でしょうか?

 申し訳ございません、旅に出てから、計る事はなかったもので」


「15、6貫・・・ううむ・・・」


 イザベルの体形はカオルと大して変わらない。

 カオルよりは重いだろうが、大きく変わらないだろう。


「何かご不審でも」


「貴方が黒嵐に乗っている時に気付いたんです。

 イザベルさん、カオルさんとはそう体形は変わりませんね。

 体重は少し重い程度でしょう」


「はい」


「でも、人族より遥かに凄い力と頑丈さがある」


「はい」


「シズクさんは、馬が潰れてしまうくらいの体重があります。

 ならば、あの剛力も納得がいく。それだけ筋肉が詰まっている。

 骨もぎっちり詰まって頑丈というわけです」


「はい」


「貴方は、人族と重さが殆ど変わらない。

 なのに、遥かに凄い力と頑丈さがある。

 ううむ、何故でしょう」


「さあ・・・そういう種族だからとしか。

 我々から見れば、人族はなぜこうも非力なのか。

 なぜ鬼族はああも重いのか、と」


「でしょうね。マツさんやクレールさんも、人族とそう変わらないでしょう」


 隣で歩くイザベルを見て、


「関節の位置も変わらない。おそらく、筋肉の筋なんかも変わらない。

 私よりも細いのに、私を遥かに超える剛力と頑丈さ。

 なのに、重さは大して変わらない。何故だろう?

 ううむ・・・不思議だ・・・」


「マサヒデ様。これは予測でしかありませんが」


「聞かせて下さい」


「身体にこもる魔力の違いでは?」


「というと?」


「この世のあらゆる物に魔力はあると言います。

 米粒ひとつ。砂粒ひとつ。

 我々と人族では、魔力が違うのでは?」


「では、マツさんはどうです。凄い魔力を持っている」


「魔力量ではなく、何と言いましょうか、魔力の付き方のような」


「魔力の付き方?」


「ホルニ工房にて、魔力のこもった鉄を見せて頂きました。

 他の鉄と重さは変わりませぬ。

 されど、あのような力」


「む・・・」


「恐ろしい力を持った魔剣も、重すぎて使えないのでは、そう脅威ではありませぬ。使えるから脅威。あらゆる物に魔力があるのなら、お腰の刀にも魔力があるはず。されど力はない。ならば魔力の量ではなく、付き方の違いでは?」


「ううむ。何となく得心がいきました。

 魔力の量ではなく、付き方か・・・」



----------



 職人街入口。


 イザベルが顔をしかめだした。


「急ぎましょう」


「は!」


「さっさと野営具を買いましょう。背負子もあるはず」


「は!」


 登山具の店。

 ここならあるだろう。

 イザベルの顔を見て、早足で入って行く。


「いらっしゃーい」


「野営具を一式準備したいです」


「はーい! 天幕の大きさは?」


「2人分ので」


「はいはーい!」


 すたすた歩いて行き、天幕の棚。

 袋に入っている。


「おっ! 畳んであると、意外と小さいですね。

 これでいくらでしょう」


「銀貨20枚です」


「ふむ」


 持ち上げてみる。2貫あるかないか。


「組み立て方は?」


「こちらへどうぞ!」


 店内の広い場所に来て、袋からごそごそと分厚い布を出す。

 よいしょ、よいしょと店員が広げて、真ん中を指差し、


「この、真ん中に茶色い丸がある方が上ですね」


「ふむ」


「で、この紐を持って来て、杭を打ち込む。

 この時、対角線で打ち込まないと、よじれちゃいますよ」


「イザベルさん、よく見てて」


「は!」


 がつん! がつん! と店員が杭を打ち込む。


「こうやって、こっち側を打ち込んだら、反対側を」


 反対側に回って、店員が杭を打ち込む。

 八角形が出来た。


「で、これが真ん中の柱ですね」


 袋から鉄の棒を出す。

 鉄の筒で、中に鉄線。


「潜り込みまして」


 3人が中に入る。


「この床のここの金具。ここに差し込むわけですね」


「ほう」


「で、後はこうして立てていく」


 柱を上に立てていき、


「はい立ちました!」


「おお、早いですね」


「で、外に出てみますっと」


 外に出ると、天幕の真ん中辺りの高さの所に紐。

 店員がそれを取って、引っ張って打ち込んでいく。


「はい完成! 慣れれば5分です」


「良いですね」


「で、こいつは前がこう開くんで・・・」


 袋の中から細い棒を2本出して、入口の布の左右の下に置く。

 小さなひさしだ。


「窓の布を開ければ暑い日も風が通るし、この下で焚き火も出来ます」


「こんな近くで焚き火は危なくありませんか?」


「この天幕は固い綿ですからね。固いと意外と燃えないんです。

 火花くらいは全然平気です」


「おお! 良いではないか!」


「まだありますよ。中に入って下さい」


 中に入って、店員が柱の引っ掛けを指差す。


「これはランプ掛け!」


「おお!」


「雨はどうです?」


「台風でも来なきゃ平気ですよ。穴でも空かなければ、雨漏りしません。

 ただ、綿ですからね。しっかり乾かさないと、かびちゃいます。

 すぐ使うなら構いませんが、長く畳んでおく時は注意して下さいよ」


「なるほど。イザベルさん、どうです」


「気に入りました!」


「では、天幕はこちらを下さい」


「ありがとうございます!」


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