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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十三章 イザベル登場
626/780

第626話


 サクマは騎士なのに、アルマダの為に命はかけられないと言う。

 彼の死に場所は、勇者となり、後世に名を残し、贅沢三昧をした後。

 我欲の塊ではないか。

 だが、アルマダも周りの皆も、そんなサクマを信頼していると言う。


 これはどういう事なのか。

 あれが皆に信頼される騎士なのか。

 イザベルの頭が混乱してきた。


「イザベル様。どうです? サクマさんの意見は参考になりましたか?」


「分かりません・・・余計に分からなくなってきました」


「人それぞれ違う、というのは分かりましたね」


「はい」


「私の死ぬべき場所も違います。

 マサヒデさんの死ぬべき場所も違います。

 では、今の所で構いません。イザベル様の死ぬべき場所は」


「マサヒデ様のお役に立てる所」


 アルマダが腕を組んで、くい、くい、と首を左右に傾げる。


「自分の命を軽く扱いすぎる。

 命の捨て場所が分かっていない。

 武人の価値なし。

 家臣としての価値なし。

 そう言われたのですね」


「は・・・」


「まあ、イザベル様はマサヒデさんと会って間もない。

 マサヒデさんがどういう姿勢の主かも分かっていないでしょう」


「そう、かもしれませんが」


「人によっては、貴方のような家臣を持ちたいという方もいると思います」


「しかし、私はマサヒデ様にお仕えしたいのです」


「では、マサヒデさんは主としてどういう考えを持つのか。

 そこが分かれば、貴方の命の捨て場所がはっきり分かる。

 イザベル様、今、分かるのは?」


「命を軽く扱うな・・・死ぬな、という事でしょうか。

 他に命を捨てるべき場所があるなら、引いても逃げても良いと」


 ふはっ、とアルマダが呆れ顔で笑って、


「なあんだ・・・もうほとんど分かっているではありませんか。

 マサヒデさんも、随分と丁寧に教えてくれましたね」


「えっ? えっ?」


「では、私からの助言。

 命は誰でもひとつしか持っていません。

 とっておきにしておけ、ということです」


「とっておき?」


「そう。とっておきのドレスと同じです。

 大事に大事にしまっておいて、ここぞと言う時にだけ着れば良いだけです」


「ここぞと言う時?」


「そう。貴方がここぞと思う時と、マサヒデさんがここぞと思う時は違うと言うだけです。今の貴方は、場違いな所でそんなドレスを着ているだけです」


「場違い? 場違いですか? 場違い・・・」


「カジュアルな場に、気合の入ったドレスを着て行って、浮いてしまう。

 いやあ、恥ずかしいですよね」


「はあ」


「旅の途中。おっと、干し肉がそろそろ・・・

 貴方は剣を抜き、殺気満々で「干し肉を買いたい」と言います。

 いやあ、周りは驚くでしょうね」


「それは驚くと思います」


「ふふ。叱られたきっかけは?」


「シズク殿との、蒸し風呂対決」


「蒸し風呂対決?」


「蒸し風呂に、どちらが長く入っていられるか。

 私は勝ちましたが、気を失ってしまいまして」


 アルマダがぱしぱしと膝を叩き、


「は、ははははは! それは怒られて当然ですね!」


「反省しております」


「カジュアルな、楽な服装という気持ちで行けば良かったのです。

 そんな勝負で、気を失うまで気合を入れないこと」


「とっておき・・・カジュアル・・・」


「冒険者として仕事をすると聞きました」


「はい」


「冒険者の仕事。パーティーで言ったら、どんな場でしょうね。

 魔王様主催のお城でのパーティーか。

 家族と家臣だけ。親戚も来ないような、慰労会のパーティーか」


「後者かと」


「とっておきのドレス、着ますか?

 むしろ、普段着でも許されるでしょう。

 気心の知れた皆で、食事して酒を飲んで。そんな場でしょう」


「はい」


「闇夜の中、貴方とマサヒデさんが、10人の暗殺者に囲まれた。

 誰ひとり見ても、一切の隙もない。

 これはまずい。マサヒデさんでも切り抜けられるか分からない。

 さて、これはどっちでしょう」


「魔王様主催のパーティー・・・」


「そう。とっておきのドレスを着るのは、魔王様主催のパーティーです。

 イザベル様は、どうでも良いパーティーで気合を入れすぎただけです」


「何となく・・・何となく、分かってきました」


「ふふふ。場に合った服を選ぶように、場に合った姿勢で向かう事。

 後はマサヒデさんとお付き合いを続けていくだけ。

 マサヒデさんにとって、どんな場がどんなパーティーか見えてくる。

 場に合わせてドレスを選ぶ事が出来るのが、良い家臣です」


「は!」


 イザベルの顔が明るくなった。

 もう分かったのだ。

 クレールもにっこりと笑う。


「ところで、クレール様」


「はい!」


「先日、耳にしたのですが・・・お七夜のパーティーの際ですけど」


「何でしょう!」


「ラディさんとシズクさんを連れ、香水店を貸し切り、店の前の通りで、馬車からテーブルを出して、銀の大傘を広げて食事をしていたとか・・・」


「はい・・・ああー! あの香水は失敗しました! 

 オリエンタルを選ぶなら、匂い袋で良かったですよね・・・大失敗です!」


 やれやれ、とアルマダが苦笑いをして、


「イザベル様。これが場を間違えるという例です」


 くす、とイザベルが笑う。

 やっと笑えた。


「ええっ!? どこがですか!?」


「ははは! イザベル様は、さっきまでこうだったんですよ!」


「は! クレール様、お教えありがとうございます!」


「ええーっ!?」


「ははは! さあ、食事にしましょうか!

 やはり肉は焚き火で直火! 食べていって下さい」


「は! 有り難く!」


「んんー・・・頂きます!」



----------



 焚き火を囲んで、もちゃもちゃとパンと肉をかじる。


 がじっと肉をかじって、串を見る。

 つい先日まで、旅先ではこうだった。

 町に入れば、レストランだったが・・・


 うん? とイザベルが首を傾げる。


(食事はあまり変わらない?)


 塩を振って焼いてあるだけ。

 だが、道中の野営ではこれが普通だった。


 あれ?

 マサヒデ達と初めて食べた食事。

 何という粗食だろう、と肩を落としたが・・・


 アルマダが首を傾げて肉を見つめるイザベルを見て、


「どうしました?」


「いえ・・・ううむ? 自分でも良く分からないのですが」


「何が分からないのです」


「先日、魔術師協会で食事を頂きました」


「ええ」


 ちら、とクレールを見て、


「その際、こんな粗食かと驚いたのですが・・・ううむ?

 今、この肉を食べていると、全く・・・

 旅中では、こういう食事が普通でしたし・・・

 何故あんなに驚いたのか?」


「ははは! 貴方はきっと冒険者で大成出来ますよ!」


「ううむ・・・」


 騎士達もげらげら笑う。

 トモヤも笑いながら、


「のう! イザベルさんとやら」


「何か」


「お主は武門の家の出だそうじゃの。それも魔の国一番だと聞いた」


「うむ」


「武門の家となれば、ただ腕っぷしだけではなかろうの?」


「まあ、軍学もそれなりに叩き込まれてはいる」


「将棋は出来るか」


「当然だ」


「そうかそうか。将棋は出来るか!」


 ははは! と皆が笑う。


「後でワシと一局どうじゃ。

 遅くなるでの、良い所で封じ手として」


「トモヤ殿とか?」


 アルマダが笑って、


「そうですか。イザベル様は知りませんか。

 トモヤさんは、将棋で魔族の組を追い払った程の打ち手ですよ」


「何!? 将棋でか!?」


「おお、そうよ。ついでに金もかっぱいでやったわ。わははは!」


「ううむ・・・トモヤ殿、正直に謝る。申し訳ない。

 それ程、その・・・何と言うか・・・頭が回るようには見えず」


「わーはははは! 皆に言われるわい!

 で、どうじゃ。三浦酒天の酒1升を賭けて。如何かの?」


「すまぬ。今は一文無しなのだ。勝負に出せる物がない」


「構わん、構わん! 金が出来たらで良い!」


 クレールがにやにや笑って、


「マサヒデ様も、トモヤ様には一度も勝てた事がないんですよ。

 トモヤ様に勝てたら・・・にぇへへへ」


「む・・・ううむ」


「ふふふ。まあ、用兵学の勉強にもなるでしょう。

 これがカジュアルな場、というものですよ」


「ふふん。アルマダ殿、それはどうかの? 楽な服装でワシに勝てるかの?

 とっておきの晴れ着でなければ勝てぬと思うぞ」


「ははは! 言いますね!」


「ううむ、トモヤ殿、後日で良いだろうか。

 今日は・・・今日は、早く帰ってマサヒデ様の顔を拝みたいのだ」


「良いぞ良いぞ! ワシは昼はこの先の寺におる。

 そこの坊様は、ワシ以上の打ち手じゃ。

 それは良い軍学の勉強になろうの」


「トモヤ殿以上のか!? ううむ・・・」


「マツ殿も自信があるらしいの。

 ワシはまだ勝負をしたことはないがの」


「そうか・・・しばらくは忙しいと思うが、時間が出来たら必ず寺へ行く。

 マツ様の腕も見せて頂く」


「わははは! 楽しみじゃの!」


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