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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十三章 イザベル登場

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第625話


 マサヒデの厳しい叱責を受け、イザベルは真っ青な顔で項垂れてしまった。


 居間の中も、しんと静まり返ってしまった。

 ごく、とマサヒデが茶を飲んで、


「カオルさん。おかわり下さい」


 と、湯呑を差し出す。


「は」


 カオルが静かに茶を注ぐ。


「マサヒデ様」


「なにか」


 マツがマサヒデに声を掛けたが、鋭い目を向けられ、黙ってしまった。

 少しして、クレールがそーっと立ち上がり、イザベルの横に座る。


「イザベルさん」


 そっとイザベルの手を取って、


「誰かにご相談してみましょう。ね」


「・・・」


「ほら。ハワード様の所には、騎士様がおられるではありませんか」


「はい」


「ハワード様も、騎士道にお詳しい方ですから。

 皆様のご意見を聞いてみましょう。参考になるかも」


「はい」


「さあ、参りましょう」


「はい」


 クレールがイザベルの手を引っ張る。

 立ち上がるイザベルを、マサヒデがじっと見ている。

 クレールが気不味そうにマサヒデを見て、


「あの、行ってきます」


「いってらっしゃい」



----------



 郊外のあばら家。

 日も傾いてきて、もう夕方。

 空は茜色に染まっている。


「ここですか?」


「はい。皆さん、ここで野営してるんです。屋根もありますし」


「・・・」


「さあ、参りましょう」


 草がぼうぼう。

 わしゃわしゃと草を分けて入って行く。

 着流しの隙間から草が当たる。


 ひょい、と入口の左右から騎士が顔を出す。


「あ、クレール様・・・イザベル様」


「遅くにすみません」


 んん? と騎士2人がイザベルに顔を向ける。

 えらく憔悴した顔だが・・・


「どうかされましたか? 今朝の立ち会いで?」


「あ、いえ! 違うんです」


 クレールがイザベルの顔を見上げて、


「イザベルさん、さっき、マサヒデ様からすごく怒られてしまって・・・

 それで、皆さんからお話が聞ければと思って」


「はあ」


「中に入ってよろしいでしょうか」


「勿論です。どうぞ」


 クレールがイザベルの手を引っ張って、中に入って行く。

 縁側で将棋の感想戦をしていたトモヤとアルマダが顔を上げる。


「おや」


「どなた様じゃ?」


「あれがイザベル様ですよ」


「はあー! あれがか。ふうん・・・」


 ぺすぺすと草履を鳴らして、2人が縁側の前に立ち、


「イザベルさん」


「は」


「こちらの方が、トモヤさん。マサヒデ様の幼馴染の方」


 しゅた! とトモヤが手を上げて、にっこり笑う。


「おう! トモヤ=マツイじゃ。見ての通り、汚い平民じゃ!」


「宜しく頼む」


「うん・・・? なんじゃ、元気がないの?」


「・・・」


 ん、とアルマダが小さく傾げ、


「お掛け下さい」


「はい」「は」


 2人がアルマダの横に腰掛ける。


「何がありました?」


「あの、イザベルさん、先程マサヒデ様から叱責を受けてしまって」


「マサヒデさんから? どんな」


「武人の価値なし、家臣としての価値なしって言われてしまって・・・」


「おや。それは手厳しい」


「それで、ええと」


 クレールを遮って、イザベルが頭を下げ、


「ハワード様! 私、己が命を軽く扱いすぎると!

 命の捨て場所が分かっておらぬと!」


「ふむ」


「何か、何か・・・ハワード様は騎士道にお詳しいと聞きました!

 私に何か、ご助言を頂けませぬか!」


「ふうむ。まず、頭を上げて下さい」


「は!」


「飲み物でも取って来ましょう」


 アルマダが立ち上がり、奥に入って行って、盆に湯呑を乗せて戻って来た。


「ただの水ですが、まず飲んで、落ち着いて下さい。

 一口ずつ、ゆっくり」


「は」


 くぴり、くぴり、とイザベルが水を飲み、静かに湯呑を置く。


「では、結論から言います。細かい所は後で」


「はい」


「命を捨てるべき場所なんて、人それぞれ。

 ですから、私の命の捨て場所なんて聞いても、参考になりはしません」


「・・・」


 アルマダが振り向いて、


「トモヤさんは、どんな所で死にたいですか?」


「布団の上じゃ。そうじゃのお、勇者祭で戦って死ぬなど、まっぴらじゃ。

 ジジイになって、ボケてから死にたいの」


「こういう場合なら死んでも良い、という所は?」


 うん? とトモヤが腕を組んで首を傾げて、


「ううむ・・・将棋で魔王杯を取ったら・・・

 いや、死んだら取れるなんてごめんじゃな。今の所、ワシにはないの!」


 ふ、とアルマダが笑い、


「サクマさん! こちらへ!」


「はい!」


 焚き火で肉を焼いていたサクマが縁側に来る。


「イザベルさん。サクマさんは雇いとはいえ騎士です」


「は!」


「ふふ。もしかしたら、彼の意見は参考になるかもしれませんよ」


 アルマダがにやっと笑って、サクマの方を見て、


「イザベル様は、先程マサヒデさんから厳しい叱責を受けました」


「ああ、それであんなに・・・」


 酷くがっかりしていた様子だったが、お叱りを受けたのか。


「イザベル様は命を捨てるべき場所が分かっていない。

 それでマサヒデさんが怒ったそうです」


「なるほど」


「そこで、サクマさんのご意見を聞きたい。

 私とクレール様の前で答えづらいと思いますが・・・」


 う、とサクマが気不味い顔をする。


「サクマさん。私の為に命を捨てられますか?」


「ああ・・・っと・・・いや、そこは・・・」


 ちらちらとクレールとイザベルを見る。


「はっきりと」


「ううむ・・・アルマダ様、申し訳ありません。無理です」


「え!?」


 イザベルが驚いて顔を上げる。


「サクマ殿! サクマ殿は騎士ではありませぬか!?」


「ええ、まあ・・・」


「では、では! どこで、どういう場合でなら!?」


「ううむ・・・そうですね・・・

 魔王様の所へ行き、勇者となり・・・ええと・・・

 後世に名を残して、満足行くまで遊び暮らせたら、ですかね」


「・・・」


「ははははは!」


 アルマダがげらげら笑う。


「あいや、実際にアルマダ様が狙われたとなれば・・・

 動いてしまう、かも・・・」


「かも、ですか!? ははははは!」


「アルマダ様、ご勘弁下さい。先日、騎士道のお話の際も・・・

 何故、いつも私なのです」


「目についたからです」


「・・・」


「ははは! 別に構いませんよ! 貴方を信頼していないのではありません。

 私も、皆も、貴方を戦友として信頼しているのは分かっているでしょう。

 大事な時に尻尾を巻いて逃げるような方ではないと、皆が知ってます」


「はい・・・」


 アルマダがにやにやしながらイザベルを見る。


「サクマさん、肉をたくさん頼みます。

 今日はイザベル様達にも食べていってもらいましょう」


「はい」


 気不味い顔のまま、サクマが焚き火に戻って行った。


「ふふ。参考になりましたかね?」


「・・・」


 イザベルが驚いた目で、サクマの背中を見ている。

 クレールがほっとした顔で頷いた。

 武士道。騎士道。

 あの時と同じだ。

 イザベルならすぐに分かってくれる。


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