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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十三章 イザベル登場
620/758

第620話


 職人街、ホルニ工房。


 がらり。


「こんにちは」「失礼致す!」


 カウンターにラディの母。

 いつもの光景。


「はーい。カオルさん、いらっしゃいませ!」


「本日は、こちらのお方のご挨拶に参りました」


 す、とイザベルが前に出て、頭を下げ、


「我が名はイザベル=エッセン=ファッテンベルク。

 マサヒデ様の家臣となりました。

 以後、お見知りおきを」


「は? 家臣?」


「マサヒデ様の名誉を汚さぬよう、働きます。

 近く、こちらで我が得物を揃えたく思っております」


「はあ・・・ありがとうございます」


 ん、とカオルが小さく頷き、


「エッセン=ファッテンベルク家は、魔の国で随一の武門の家。

 マサヒデ様の脇差をご覧になり、是非にと」


「まあまあまあ! 武門の家! それは亭主も喜びますよ!」


「いや、我が家は武門の家と名こそ知られておりますが、名だけの貧乏貴族。

 私も、恥ずかしながら、今は無一文。

 マサヒデ様との約により、冒険者として働き、稼がねばなりませぬ。

 金が貯まるまで、お待ち下さいましょうか」


「勿論ですとも! お買い上げにならずとも、いつでも見に来て下さいませ」


「ありがとうございます」


 かきん! かきん!

 鉄を打つ音。

 ちらりとイザベルが仕事場の方を向く。


「ご亭主は、今」


「はい。仕事場に。呼びますよ」


「お待ちを。実は私、本物の鍛冶場を見た事がありませぬ。

 もしお許しを頂けたらば、見せて頂く事は叶いますでしょうか」


「構いませんとも! 火にはお気を付け下さいまし」


 ぺこりとカオルが頭を下げ、仕事場への戸を開ける。

 中にはホルニとラディ。


「あちらが・・・」


 2人が凄い目で、細い棒を睨んでいる。

 何かの金具か?


「イザベル様。参りましょう」


「うむ」


 すたすたと歩いて行くと、む、と2人がこちらを向いた。


「カオルさん」


「お仕事中、申し訳ありません。本日はこちらの方がご挨拶にと」


「イザベル=エッセン=ファッテンベルクと申します。

 マサヒデ様の家臣となりました。

 以後、宜しくお願い致します」


「・・・」「・・・」


 家臣。

 マサヒデの家臣?


「家臣ですか?」


「は」


「あの・・・おめでとうございます」


「は! 誠心誠意、マサヒデ様にお仕え致します!

 近い内、ホルニ殿の作を是非にと、ご挨拶に参りました」


「う、うむ、左様で・・・ありがとうございます」


「恥ずかしながら、今は無一文。

 されど、必ずや稼ぎ、こちらで我が得物をと考えております」


 カオルが出て、


「ホルニ様、ラディさん。

 イザベル様は鍛冶場を見た事がなく、是非一度、と。

 お邪魔は致しませんので、しばし見学の時間を頂けますでしょうか」


 ラディとホルニが顔を見合わせる。


「うむ・・・それは構いませんが、今は剣を打っておりませんでな。

 面白くはないと思いますが」


 やっとこに挟まれた、熱せられて黄色く輝く小さな棒。

 にやりとカオルが笑う。


「いえ。きっと面白いはず。『あの鉄』の試し打ちですね」


 ホルニも笑って、


「ははは! うむ、あちらにいくつかありますが、ご覧になりますか」


「是非とも」


 む、とホルニが頷いて、


「ラディ。ご案内を頼む」


「はい」


「イザベル様。見せて頂きましょう。驚きますよ」


「うむ。では」


 ラディに付いて行き、小さな机の前に並ぶ。

 山と積まれた書類の束と、小さな棒が何本も並んでいる。

 はて? とイザベルが首を傾げ、


「ラディ殿と申されましたか」


「はい」


「これが面白い物?」


 ラディが小さく笑い、


「そうです。例えばこれ」


 1本取って、


「イザベル様、お手を」


 イザベルが出した手の上に、棒を乗せる。


「ふむ?」


「握ってみて下さい」


「こううっ! ううっ!?」


 がくん! とイザベルの手が落ちる。

 凄い重さだ!


「ぬ! ぬぬぬ・・・」


 ぎりぎりぎり、と拳を握り、何とか持って来る。

 ラディが目を見開いて驚く。


「持てるの!?」


 父が両手でも持ち上げられなかったのに、片手で持ち上げるとは!?


「手を開いて! 軽くなります!」


「う、くっ、く・・・」


「開いて! 大丈夫ですから!」


 ぱ、と手を開くと、からん、と棒が落ちた。

 きん、と跳ねる。

 落ちた鉄の棒の音からは、全然重さを感じられない。


「な、何だ! これは!?」


 カオルがにやっと笑って、指先で摘み上げて、


「驚きましたか」


「何だ今のは!? 凄い重さだったぞ!? 手首が抜けるかと!」


「しかし私は指先で」


 カオルが摘んだ棒をふりふりと振る。


「どういう事だ・・・」


「魔力の鉱石!」


「何っ!?」


「とある筋から入手することが出来まして・・・

 今、ホルニ様とラディさんに色々と試し打ちを」


「何だと!?」


 イザベルが驚いて、ホルニの方を振り向く。

 あの鉄の棒は、魔力の籠もった鉄だったのか!?


 カオルがにやにやしながら、かたりと棒を机の上に棒を置く。

 がば、と机に目を戻す。

 あの重さであれば、この机など簡単に折れてしまうはず・・・


 ラディも別の所で驚いている。


「よく持てましたね・・・しかも片手で」


「イザベル様は、ただの獣人族ではありません」


「ただの獣人族ではない? 鬼族との混血とか?」


「狼族です」


「えっ・・・狼族の方でしたか・・・」


「うむ。恥ずかしながら」


「驚きました。お父様が両手でも持ち上げられなかったのに。

 まさか片手1本で持てるとは・・・」


「いやしかし、これは扱いづらいな。

 落とす瞬間に握るとか、そういう使い方か。

 しかし、うっかり握ると自分に剣が落ちてくるな」


「はい。この力は使えませんね。

 しかし、同じ打ち方をしているはずなのに、力が変わるのです。

 例えばこちらなど」


 ラディが1本棒を取って握る。

 びゅん! と他の棒が飛んで行って、先に固まる。


「おお! 強力な磁石のような力か!」


「はい。手を開けば」


 かららん、と集まった棒が落ちる。


「これは使えそうではないか!」


「いえ、お味方の得物まで奪ってしまいます。

 自分が鎧を着ていれば、鎧にくっついて離れず」


「む、そうか。磁石だからな・・・」


「ですが、別の使い方があります」


「どんな使い方だ?」


「砂鉄集めです」


「砂鉄? 何に使うのだ?」


「刀に使う鋼は、砂鉄を溶かして作るのです」


「おお! これほど強力なら、持って数歩も歩けば大量に!」


「そうです。マサヒデさんから許しが頂けたら、たたら場にと」


「ううむ、面白いな!

 いや待て、刀に使う鋼は、それは良い鋼だと聞く。

 これで大量に鋼が作れれば、それで剣も打ってもらえるだろうか?」


「マサヒデさんが許してくれましたら」


「そうか! いや、マサヒデ様は懐が深い! 必ず許してくれるぞ!

 うむ、楽しみだ! おお、そうだ! ホルニ殿の脇差を見たぞ!

 あれほどの作を打てる鍛冶師の剣、持ってみたいものだ!」


 くす、とカオルが笑って、


「ふふふ。お高くなりますよ。

 イザベル様がお使いのあの長さとなれば、金貨が何百枚必要でしょうか」


「む! ううむ・・・いや、いや! 必ず稼いでみせる!

 ラディ殿、金が出来たら、必ずホルニ殿に打ってもらう!」


「ありがとうございます」


「ラディさん、試し打ちもよろしいですが、店のお仕事に障りないよう。

 色々と出て面白いとは思いますが」


「はい」


「では、イザベル様。そろそろ参りましょう。

 あまり遅くなりますと」


「む、そうだな。ラディ殿、仕事中に時間を割いて頂き、感謝する」


「いつでも来て下さい。マサヒデさんの家臣なら、もう友人です」


「友人! うむ、友人か! 宜しく頼む! それでは失礼する!」


 す、と頭を下げ、イザベルが出て行った。


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