表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者祭  作者: 牧野三河
第四十三章 イザベル登場
614/759

第614話


 翌早朝。


 今朝は素振りをやめ、厩舎に向かう。


 イザベルが馬を選び、馬術をアルマダの騎士達に見定めてもらうのだ。

 選んで初乗りで試験では、さすがに厳しい。

 イザベルに慣らしの時間を与える為、早めに出る。


 腰に短弓を差し、槍を立てて、イザベルが後ろから付いてくる。

 マサヒデとカオルがにやにやしながら、


「さて、どれを選びますかね?」


「私は白百合と見ました」


「ほう」


「白百合は、何と言うか・・・優しい、心安い。

 初乗りなら、必ず白百合を選びます」


「なるほど」


「黒影は大きすぎましょう。

 揺れも大きいですし、得物を扱うには難しいかと」


「黒嵐は駄目ですか?」


「さて・・・確かに3頭の中では抜群でしょう。

 ですが、心を開いてくれましょうか。

 イザベル様の言う事を聞くかどうか」


「そんなに気難しい馬ではないですけど」


「マサヒデ様、マツ様には心を開いておりますから・・・

 私にはそう見えます」


「ふむ? そうですかね?」


「乗せてはくれましょう。が、その先はどうか分かりません。

 クレール様が怖い、緊張すると仰っていたではありませんか。

 誇り高き馬、それが黒嵐なのですよ」



----------



 厩舎に着くと、馬屋が水を運んでいた。

 おっ、とマサヒデ達に気付き、桶を置いて、


「これぁトミヤス様! おはようございます!」


「おはようございます。朝早くから申し訳ありません」


「いやいや、夜中だって構いやしませんよ。

 今日も馬術のお稽古で?」


「いえ。いや、稽古と言えば稽古でもありますか・・・」


 マサヒデが後ろを振り向き、


「イザベルさん。こちらへ」


「は!」


 イザベルが歩いて来て、マサヒデの斜め後ろで止まる。


「ご紹介します。故あって新しく私の家臣になった、イザベルさん」


「いやいや、これはまた! トミヤス様の所は別嬪さんが揃いますな!」


 イザベルが馬屋を見下ろし、


「イザベル=エッセン=ファッテンベルクである」


 威圧感。

 う!? と馬屋の腰が引ける。

 ぴく、とカオルが眉を寄せる。

 ぱしん! とマサヒデがイザベルの背中を叩き、


「ははは! 申し訳ありません。今まで、お固い騎士生活だったもので。

 さあ、イザベルさんもそんな怖い顔をしない。

 こちらがいつもお世話になっている、厩舎のご店主です」


 騎士ではないが、別に構わないだろう。


「は! ご店主、失礼致した!」


 びし! とイザベルが頭を下げる。

 ああ! と馬屋が慌てて、


「ああいやいや! 頭をお上げ下せえ!

 分かりますよ、貴族のお方でらっしゃいますな。

 私みてえな平民に、頭を下げねえで下さいまし」


「感謝する」


「で、トミヤス様、今日はこちらの方と馬術のお稽古って訳で」


「ちょっと違います。彼女の馬術の腕を試します」


「ほう!」


「アルマダさんの騎士さん達に見て頂きます。

 皆さん、熟練の馬術達者ですからね」


「あの騎士さん達と腕試しですか!」


 へこへこしていた馬屋が、腕を組んで、険しい顔をイザベルに向ける。


「イザベルさん、でしたな」


「そうだ」


「あの騎士さん達ぁ、雇われ騎士だ。

 だが、今までずっと馬術で生きてきた、本物の馬乗りです」


「うむ」


「雇われだからって舐めちゃあいけねえ。

 雇われって事ぁ、これまで野でずっと実戦の腕を磨いてきたって事だ。

 お稽古じゃなく、命を賭けた実戦で磨いてきた腕ですぜ。

 当然、目も腕も並じゃありませんよ。お気を付け下せえまし」


「ご忠告、感謝する。しかと心にとめておく」


 す、とイザベルが頭を下げる。

 うむ、と馬屋が頷く。

 マサヒデも頷いて、


「では、厩舎へ行きましょう。私達の馬から、1頭を選んで下さい」


「はっ!」



----------



「ううむ!」


 マサヒデ達の馬を見て、イザベルが唸る。


「奥のはアルマダさんの馬ですから、あれ以外の3頭です」


「お見事です・・・これ程の馬を!」


「選んで下さい」


「はっ!」


 マサヒデ達は厩舎の入口で待つ。

 イザベルがゆっくりと馬達の前を歩き・・・


「控えい!」


 ばば、と馬達が顔を上げてイザベルを見る。

 マサヒデ達も驚いてイザベルを見る。

 見ていると、しゅんとした感じで、馬達が頭を下げ、下を向いた。


「うむ。それで良い」


 奥まで歩いて行く。

 気難しいアルマダのファルコンまで、しゅんと下を向いたまま。

 小さく頷きながら入口まで戻って来て、また歩いて行く。


 イザベルは黒嵐の前で止まった。


「マサヒデ様。この馬に致します」


「ふふふ」「や、お見事!」


 マサヒデがにやっと笑い、馬屋が手を叩く。

 カオルが頷いて歩いて行き、イザベルの横に並ぶ。


「この馬は、黒嵐と言います」


「黒嵐」


「黒い嵐と書き、黒嵐。

 ふふ、マサヒデ様の乗馬です」


 イザベルが入口のマサヒデを見ると、マサヒデが笑って頷いた。



----------



 ぽくり、ぽくり・・・


 馬を引くイザベルの姿は堂に入っている。

 鎧を着ていなくても、騎士のように見えてしまう。


 町の門を通って、街道に出る。

 マサヒデがあばら家の方を指差し、


「あちらにアルマダさん達の野営地があります」


「は!」


 反対側を指差し、


「向こうへは、しばらく何もない野っ原です。

 畑とかは少しありますが、慣らしに走るには丁度良いと思います。

 慣らしは1刻で良いですか」


「は!」


「では、1刻したらここへ。私達はアルマダさん達の所へ行きます」


「ははっ! 黒嵐、お借り致します!」


 槍を持ったまま、大柄の黒嵐に軽く乗る。

 見事な腕前だ。ぴたりと収まっている。

 乗り方を見ただけで、自分やカオルとは違うと分かる。


 遠ざかって行くイザベルを見ながら、マサヒデが腕を組み、


「ううむ・・・私達より、遥かに上ですね。

 見てもらわなくても分かります。合格は確実ですね」


「はい。これは良い勝負が見られそうです」


「アルマダさんの所に行って、伝えてきましょう。

 皆さんも準備が必要でしょうし」


「はい」



----------



 あばら家前。


 騎士達が馬に草を食べさせている。

 いつものあばら家の朝。


「おはようございます!」


「おっ! マサヒデ殿! カオル殿! おはようございます!」


 騎士達が手を振る。

 マサヒデはがさがさと高い草の中を歩いて行き、サクマの所に行く。


「サクマさん。お願いがあります」


「おっ! 馬術で何か?」


「はい。ですが、私とカオルさんではありません」


「と言いますと? まさかシズクさんが乗れる馬・・・とか・・・?」


 ぷ! とカオルが吹き出す。


「ははは! 違います! 詳しい事は後で話しますが、そこそこ馬術が出来る家臣が出来たんですよ」


「ほう! ついにマサヒデ殿も家臣を!」


「で、この家臣の馬術の腕を、皆さんに見てもらいたいのです。

 言うまでもなく、私もカオルさんも素人ですからね。

 私達より上とは分かりますが、サクマさん達から見てどうか」


「ふむ」


「本気の準備で願えますか」


「本気の?」


「鎧も着て頂いて。持ってる槍も矢も、刃引きしてないんですよ。

 面倒だと思いますが、頼めますか?」


「ほう・・・」


「イザベル・・・イザベルさんと言いますが、鎧はありません。

 ですが、身体は頑丈ですから遠慮なく。狼族です」


「狼族ですか!? ううむ、滅多に見ませんが、よくもまた家臣に・・・」


 マサヒデは少し周りを見渡し、


「ここらは草が高いですし、少し向こうに場を移して・・・

 1対1の決闘方式でどうですかね?

 それとも、やはり皆さんで連携して?」


 サクマは少し首を傾げて、


「馬術の腕だけを見るのなら、1対1で構わないでしょう。

 連携は連携でまた別です」


「分かりました。アルマダさんに話を通してきます」


「はい。私も皆にこの話を伝えておきましょう。時間は?」


「1刻後で如何でしょう」


「了解しました。ふふ、狼族相手ですか! 腕が鳴りますな」


 狼族と聞いても、全く臆さない。

 剣術勝負であれば、剣を投げ出して、ご勘弁を、と言うだろう。

 だが、馬術は超一流。

 これは傲慢ではなく、確かな腕に裏打ちされた自信なのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ