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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十三章 イザベル登場
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第612話


 マサヒデはイザベルに主として認められてしまった。

 彼女は、マサヒデが死ぬか、自分が死ぬまで、離れない。

 それが本能なのだから、もうどうしようもない。


 無理に引き剥がせばどうなるか。

 そんなのはお前の都合、知ったことではない。

 ・・・などと割り切った事は、マサヒデには出来ない。


「ええっと、イザベルさん」


「は!」


「既に内弟子が居るので、もう弟子を抱える事は出来ないと話しましたね」


「は!」


「あの話には、少し嘘があります。

 私はイザベルさんの主になりますから、お話ししておきます」


「あっ・・・主・・・主に・・・」


 主! 私はこの人の家臣! この人に認められた!

 ぼろぼろとイザベルの目からまた涙。


「おいおい、またか・・・イザベル様、すぐ泣くんだね」


 シズクが後ろからイザベルに手拭いを渡す。

 イザベルが受け取って、ぐいぐいと顔を拭う。


「先程、カオルさんは同僚と言いました。

 つまり、カオルさんは家臣で、内弟子ではありません」


「はい・・・ぐしゅっ」


「しかし、外ではカオルさんは私の家臣ではなく、内弟子、という体で通しています。カオルさんが私の家臣だと知っている方は、ほとんどいません。ですから、イザベルさんも、この事は口外しないように。カオルさんは私の内弟子で通すこと。良いですね」


「はい! 絶対に口外は致しません!」


 マサヒデがカオルの方を向き、


「カオルさんも、人前ではイザベルさんを立てるようにして下さい。

 貴方はただの弟子、イザベルさんは家臣という形ですから。

 イザベルさんも、人前でうっかり「先輩!」とか言わないように」


「はあ・・・」「承知致しました!」


「それと、冒険者になると決まったら。いや、冒険者が駄目だったとしても。

 私の家臣でいたいなら、しっかり仕事をし、金は自分で稼いで下さい。

 住む場所、食事、装備、そういったものは自分で用意すること。

 通い弟子ならぬ、通い家臣といった所です。

 ここに住まずとも、あなたは家臣です」


 ずいっとイザベルが膝を進め、


「マサヒデ様! 金は稼ぎます! 給金など要りません!

 ここに住む事は叶いませんか! お側に置いて下さい! 何卒!」


「残念ですが、もう空き部屋がないのです。

 シズクさんも、この居間で寝ているくらいです」


「屋根など要りません! 庭の隅にでも!」


「駄目ですよ。良いですか。自分の家臣を庭に寝かせているなんて、それこそ私の恥ではありませんか」


「・・・」


「それに、ほら。国王陛下だって、家臣は城に住まわせていないでしょう?

 皆さん、仕事の時間に登城していますよね。

 常駐しているのは、メイドさんとか執事とか、お手伝いの方。

 騎士さん達も、警備以外の方は夜は宿舎に行くんですから」


「確かに、確かにそうですが・・・」


「ね? だから、通いでも全く問題ない訳です。

 私も貴方も、この点は恥ではありません。

 私の恥はただひとつ。私から給金を払えないことです。

 ですから、代わりに武術を教えるんです。許して下さい」


「そんな! 私がマサヒデ様を許すなどと! 畏れ多い!」


「私も、常に貴方を側に置けないというのは残念ですが・・・」


「ううっ! マサヒデ様! そこまで私を・・・」


 ぼろぼろ。ぐすぐす。


「申し訳ありません。私の甲斐性がないのが、全て悪いのです」


「マサヒデ様!」


 一体これは何だろう・・・

 芝居を見ているようだ。

 カオルとシズクが首を傾げる。


「貴方の家からお返事が来るまでは、ここで過ごして下さい。

 皆さんからも許可を貰いましたから」


「は!」


 ふ、と小さく息を吐いて、マサヒデが外を見る。

 日が傾いてきた。


「カオルさん。早いですが、夕餉の買い物を。

 イザベルさんも連れて行って、少し市場を案内してあげて下さい」


「は」


「カオル殿! 宜しくお願い致します!」


「・・・では、参りましょうか・・・」


「ははっ!」



----------



 カオルとイザベルが出て行って、


「ああー!」


 とマサヒデが声を出して大の字になる。

 シズクが顎に手を当てて、


「マサちゃん。もしかしてって言うか・・・

 主に認められちゃったんだ?」


「みたいですねえ・・・」


「うわ! すっげえー! やっぱ救世主様だ! 本物だよ!?

 狼族に認められるって、大名誉じゃん!」


 クレールが目を輝かせ、拳を握って、


「ね! ね! 凄いですよね!?」


「うんうん! 魔族にも中々出ないんだよ!?

 今まで100人も居ないよね? 人族は初じゃないの?」


「あれだけの方に主として認められるのは、名誉だってのは分かります。

 私も嬉しいですよ。ですけどね、大変じゃないですか」


「そうだよ! 大変な事だよ!」


「いや、そうじゃなくて。

 私の一言一言で、イザベルさんの生き方が、大きく変わってしまうんです。

 私に、イザベルさんの人生が、そのまま乗っかってしまったんですよ」


「うんうん! 凄いよね!」


「あのですねえ。これから私に、イザベルさんの人生の責任が増えたんです」


「何々? 面倒ってこと?」


「ではなくて。責任を負いきれませんよ・・・」


 マツ達が顔を見合わせる。


「今更ですよね」「そうですよね」「だねー」


「どこがですか?」


「私達を嫁にして。子まで居て。カオルさんも家臣で。何を今更。

 驚く事なんてひとつもないではありませんか。

 今後、クレールさんにも子が出来るんですよ」


「・・・」


「マサヒデ様が道場を継ぐか。独立して道場を開くか。

 そうしたら、お弟子さんの責任も負うんですよ。

 1人くらい、なんてことありません」


「ううむ」


「冒険者さん達もそうですよ。マサヒデ様の教えを受けてらっしゃいます。

 ならば、マサヒデ様の教え方ひとつで、皆様が変わるのです。

 既に、マサヒデ様は多くの方の人生に深く関わっておられます」


「そうですかね」


「そうです。イザベルさんがぐいぐい来るから、驚いているだけです」


「ぐいぐい来てますねえ」


「ねえねえ、マツさん。これ魔王様に知らせた方が良くない?」


「ですね! 国王陛下にも!」


「ええ? そんな大袈裟な」


「そのくらい大変な事なんです! すぐ手紙を書きましょう!

 特急早馬でお送りしましょう!」


「はあ、もう全てお任せしますよ」


「任されました!」


 ばたばたとマツが執務室に入って行く。

 これは困った。

 また変な呼び名がつかないだろうか。

 狼族の名門貴族令嬢を落とした男とか・・・


「マサヒデ様」


 寝転がったマサヒデに被さるように、クレールが顔を覗き込む。


「はい」


「ふふ。イザベルさんの主になってくれて、ありがとうございます」


「ええ?」


「お友達ですもの!」


「ああ。そうでしたね」


 悪い事ばかりではなかったか。

 良い事もあるのか・・・


「うふふーん。イザベルさんなら、婦人にしても良いですよ!」


 にっこりとクレールが笑う。


「やめて下さいよ」


「ところで、馬術、イザベルさんに教えてもらっては?」


「イザベルさんに? 馬術、得意なんですか?」


「一通りの武芸は出来るはずですよ」


「ほう」


 よ、とマサヒデが起き上がる。


「一通りの・・・ふむ」


「ファッテンベルクは武の名門! ですよ」


「なるほど・・・少し、見てみますかね」


「家臣の力をきちんと把握しておくのも、主の務め! ですよ!」


「確かに」


 一通りの武芸。

 確かに、心構えは良くないとはいえ、単純な強さで言えばそれなりだ。

 他もそれなりに出来るなら・・・

 急にイザベルの腕に興味が湧いてきた。


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