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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十三章 イザベル登場

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第609話


 魔術師協会。


 イザベルががっくりと肩を落とし、俯いている。

 マツとクレールが心配そうな顔でイザベルを見ている。

 マツがそっとカオルの側に寄って来て、


「カオルさん」


「なんでしょう」


「どうしたんですか? すごく落ち込んでいますけど」


「ご本人にお尋ねされては」


 マツが、ちら、とイザベルを見る。


「とても聞けそうな雰囲気では・・・」


「私には分かりません。何かがイザベル様の心に重く響いたのだろうとしか」


「見習い冒険者のお仕事の内容でしょうか」


「さあ。私には何とも」


 部屋の空気がずっしりと重い。

 クレールが少し困ったような顔でイザベルににじり寄って、


「イザベルさん」


「クレール様」


「面白い本があるんですよ。気分直しに、一緒に読みませんか」


 クレールが隣に座って、本を置く。


「・・・ウー=スン兵法」


「イザベルさんはご存知でしたか?」


「はい。父に叩き込まれました」


「あ、武門のファッテンベルクですものね!

 ではでは、少しお待ち下さい! いえ、一緒にこちらへ!」


 クレールが立ち上がって、


「ほら、来て下さい!」


「はい」


 イザベルがとぼとぼとクレールの後を付いていく。

 台所に入り、クレールが書庫の入口を開けて、


「この下にいっぱい本があるんです。歴史書もたくさん!

 人の国は、戦の歴史って言ってもいいくらい、戦があるんです!」


「戦の歴史ですか」


「今でも、西方の国では戦をしてますものね。悲しい事ですけど。

 でも、武門のイザベルさんには、戦の歴史は興味があるのでは?」


 階段を下りて行く。

 中はぼんやりと明るい。

 小さな瓶が、光を発している。


「この瓶は? 光っておりますが・・・」


「魔力異常の洞窟、ありますよね。光っている」


「ああ・・・あの砂を」


「そうなんです。これでランプも蝋燭もいらないんです」


 ぺたぺたとクレールが歩いて行く。

 下は綺麗に磨かれた石のようだ。


「この床は・・・大理石ですか?」


「いえ。マツ様が土の魔術で、ぎゅっと固くして石にしたんです。

 凄いですよね。流石は元王宮魔術師」


「王宮魔術師? マツ様は、王宮魔術師だったのですか?」


 え? とクレールが振り向いて、


「知らなかったんですか?」


「は・・・その、恥ずかしながら」


「人の国の中では、3本の指に入る魔術師ですよ」


「え!?」


「本当に知らなかったんですか?

 名前くらい、聞いた事はありませんか?

 山ひとつ、軽く吹き飛ばせるくらいの魔術師ですよ?

 この町くらいなら、一瞬です」


「・・・」


「本当に知らなかったんですね・・・

 あの、マサヒデ様が魔術師協会に住んでいると知ってましたよね?

 少しくらい調べておいても良かったと思いますけど」


 また、イザベルががくっと肩を落とす。

 クレールが慌てて、


「あ、あ! ああー! ごめんなさい! もう過ぎた事ですし! ね、ね?

 ほら、本を見ましょう! ええと、ええと、どれにしましょうか!

 あ、こんなのとか! モートシー家の歴史とかどうでしょう!

 これ! 稀代の謀将、ガンシュウ=モートシーと戦!」


「モートシー? 銀のモートシー家ですか?」


「そうですよ。モートシーは、元々は一国の王だったんです。

 それも、ただの地方豪族から王になったんです! すごいですよね!」


「地方豪族から、王にまで?」


「ええ。孤独な、でも温かい王なんです」


「孤独な・・・」


 何かがイザベルの心に触れたのか。

 クレールの手の本にそっと手を伸ばす。

 タイトルは『稀代の謀将、ガンシュウ=モートシーと戦』。


「孤独な王・・・温かい王・・・」


「そうなんですよ。冷たく見えて、とても家族想いの優しい王なんです」


「家族・・・家族想い・・・」


 ぼろぼろとイザベルの目から涙が。


(しまったあー!)


 クレールがぎょっとしてイザベルを見つめる。

 イザベルは家族と別れて、ここで働くのだ!


「あ、あ、あ! ええと、ええと、他の本にしましょうか!

 戦の本は他にも・・・」


 イザベルが袖で目を拭い、


「クレール様。私、こちらを読みたく思います」


「そそそーうですかあ! ええ、すごいんですよおー!

 ガンシュウ=モートシーの神算鬼謀には舌を巻くばかりで!」


「はい」


「で、ではでは、上がりましょう・・・か」


「はい」


 ぺたぺた・・・


(やってしまいましたあ・・・)


 いー、と気不味い顔で、クレールが階段に向かう。



----------



「たった3000の兵で、3万を・・・」


 ぱらり。


「城内には8000・・・5000は民間人・・・

 民間人を大量に抱えての籠城で・・・厳しかろう」


 ぱらり。


「出るのか!? 野戦!? ・・・これで勝つのか・・・

 援軍が来ると知っていて何故だ・・・抵抗はしたと見せるためか・・・

 む? 曰く勝つる事間違いなし? どこを見て? 発破ではあるまいな」


 ぱらり。


「伏兵が500、200? 2手だけ? 本隊が1000?

 いかに奇襲とはいえ・・・野戦で、この数の差で・・・

 合戦図、合戦図は・・・」


 ぱらぱらぱら・・・


「ええと、初期配置は・・・こうで・・・

 巧みではあるが、いかに伏兵といえど・・・

 この数の差で勝ってしまうのか? 本隊が真正面? 囮にしても」


 ぱらぱらぱら・・・


「こう動いて・・・こう動いて・・・」


 ぱらり。


「夕刻はここ・・・いや待て。夕刻? 夕刻まで戦っていたのか?

 伏兵が700という事は・・・10倍以上を相手に?

 何故そこまで持たせられたのだ?」


 ぱらり。ぱらり。


「こう動いた・・・こう動いて・・・ううむ」


 ぱらり。


「・・・本陣に討ち入る? 惜しむらく大将の首を討てず?

 なんと・・・これがモートシーの戦か・・・」


 ぶつぶつと呟きながら、イザベルがページをめくる。

 くす、とクレールが笑って、


「どうですか?」


「は! あ、申し訳ありません。つい」


「凄いでしょう? 戦など知らない私が見ても凄いと思いますし」


「いや、見事という言葉では表せるものではありません。

 用兵の妙がここに・・・これは秘宝とすべき・・・」


「他にも、名将と呼ばれた方はたくさんいるんです」


「他にもいるのですか!?」


「うふふ。それ、同じ人族同士の戦なんですよ。

 人族と魔族のように、身体が違うのではないんです」


「はっ・・・そうだ! 身体の優劣は同じだ!

 それでこの差を覆すのか! 勝つのか!

 なんという、なんという! おお・・・素晴らしい・・・」


「ね? モートシー王って凄いでしょう?」


「はい。恐れ入りました」


「こういう歴史書は戦の記録でもあります。

 イザベルさんには、すごく勉強になるでしょう」


「はい!」


「機会があったら、他のも」


 す、とカオルが立ち上がって出ていく。

 少しして、からからから・・・と玄関の音。


「只今戻りました」


「あっ! マサヒデ様ー!」


 マサヒデだ。

 だが、イザベルはカオルに驚いた。


(あの女!)


 マサヒデが来る前に、立ち上がって出て行った。

 これは尋常ではない。

 獣人族並か、以上の勘の良さ。


「どうも」


「おかえりなさいませ」「おかえりなさいませ!」


 マツとクレールが頭を下げる。


「お邪魔致しております。朝の無礼を、お許し下さいませ」


 イザベルが頭を下げる。


「何か無礼がありましたかね。私は良く覚えていませんが」


 マサヒデが刀架に大小を掛ける。

 座ると、カオルが茶を差し出す。


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