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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十二章 武士道、騎士道
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第600話


 魔術師協会、居間。


 魔王が恐ろしすぎて、魔の国では兵法というものがほぼないという。


 鉄砲も届かないほど空高く飛んで行き、城ごと王を吹き飛ばせる。

 1人で戦争を終わらせられるのだから、そもそも戦の為の軍など不要・・・


 冷静に考えてみれば、マツでも山ひとつ更地に出来る。

 魔王はそれ以上。


 だが、それ故に兵法は魔の国では人の国に比べ、稚拙。

 兵法書の類もほとんどないと言う。

 マツはクレールが買ってきた兵法書を見て、興味津々だ。


「クレールさん、この兵法書、軽く教えて頂けますか?」


「ハワード様から色々聞きましたけど、まず、百戦百勝は駄目と言う所」


「ええ!? 兵法書なのに!?」


 ぷ、とクレールが吹き出し、


「私と全く同じ! 私もこれを聞いて驚いたんです!」


「そう言えば、以前お聞きしたミカサ王の書き置き。

 あれにも同じような・・・勝つのは程々にと」


「そうです! でも、同じようで違うんですよ!」


「と言いますと」


「そもそも戦にするな、という、戒めのような教えなんです」


「戦にするな・・・ですか?」


「戦となりますと、やはり国の存亡をかけたもの。

 人も減ります。兵も減ります。物資も多く使います。

 国力の低下は大なり小なり必ずあります。

 古の戦を見ますと、小国が大国に勝った例も多いです」


「なるほど」


「では、兵を出すより、外交、謀略で勝つべきでは」


「ううん、その通りですね・・・」


「でー、これをするにはですよ。

 相手を知るだけでなく、自分の事も良く知ること。

 両方の長所短所をよく知っておけば、外交でも落とす事が出来ます。

 仮に戦となっても、攻めるも守るも簡単」


「なるほど!」


「面白いですよね!」


「はい!」


 目を輝かせる2人の横にカオルが座り、


「奥方様、クレール様」


「あ! カオルさんも!?」


「いえ。私は全部暗記しております。

 よろしければ難解な所は解説致しましょう」


「え!」「ええ!?」


 カオルは丸暗記しているのか!?


「養成所でもこの兵法書は使っております。

 謀略、虚実、間諜の使い方も詳しく解説されておりますので」


「な、なるほど・・・」


 謀略、虚実、間諜。

 忍の教科書にもなっているのか。


「私、これでも教員の候補。それなりの学はあるつもりです

 六ツ之袋、三ツノ略も暗記しております」


 マサヒデが呆れた顔で、


「よくそんなに読みますね・・・」


「ご主人様、教員になるには当然です。

 師がよく理解しておらねば、教えることもままなりません」


「そうですか」


「そうです。では奥方様、クレール様、読んで参りましょう」


「ちょっと待って下さい!」


「何か」


「六ツ之袋、三ツ之略って何ですか? それも兵法書?」


「そうです。戦乱初期は、このふたつの書の方が重視されておりました」


「へえー! それも読んでみたいですね!」


 クレールが顔を輝かせている。

 また兵法書が増えるのか・・・

 マサヒデとシズクはうんざりした顔を見合わせる。


「シズクさん、私達は馬屋に行きましょう」


「え? 馬屋?」


「ほら、馬車に鉄の部分が結構ありますよね。

 あれを魔術で軽くしようって考えてまして」


「お、おお! マサちゃん頭いいな!」


「運ぶの手伝ってもらえますか?」


 ちら。

 もう授業が始まっている。

 巻き込まれたら面倒だ。


「おお、行く行く! 早く行こうよ!」


 2人はさっと立ち上がり、マサヒデも大小を差して、


「では」「行ってきまーす」


 と、そそくさと出て行った。



----------



 魔術師協会を出て、マサヒデが顔をしかめて振り返る。


「面倒になりましたね」


「だよね!」


 うは、とシズクも溜め息をつく。


「全く、アルマダさんも変な書を教えてしまって・・・」


「ねー! 私らもカオルの授業うけるのかな」


「剣術だけでもいっぱいいっぱい、明日から馬術もなのに、兵学だなんて。

 身体が持ちませんよ。時間がいくらあっても足りやしない」


「マツ様とクレール様で読んでてもらえばいいけどね。

 私は勘弁だな! 今は面白い本がいっぱいあるし」


 ふう、と2人が溜め息をつく。


「マサちゃん、あれは絶対に授業に巻き込もうとしてくるぜー。

 皆で連携して戦う時はどうのこうのとか言ってさ!」


「うわ、ありそうですね・・・」


「あるある! クレール様は良いけどさ、カオルが絶対に言うね!

 んで、クレール様もそうだそうだって乗ってくるんだ!

 マツ様も乗ってきたら、もう私達の負けだよ!」


「はあー・・・」


「ほっとくとラディまで呼び出しそう!

 ラディだって、鍛冶仕事に死霊術に銃の稽古に、いっぱいいっぱい!」


「それだけは避けないといけませんね」


「そうだよ! その上に兵学だ、なんて、あいつ疲れすぎで倒れちゃうよ」


「私達も何とかして逃げましょう。

 あ、そうそう! ラディさんと言えば!

 あの魔術の金属で、面白い物が出来たんですよ」


 よ、とマサヒデが懐から小さな棒を出す。

 鉄扇の親骨。


「ほうほう?」


「これは凄いですよ。あ、ええと・・・」


 さすがに通りで使うのは目立つか。


「ここで見せるのは、人目があるからやめます。

 これ、目立つんですよね」


「え! 何々!?」


「大成功。雷の魔術が出ましたよ」


「うっそ! すごいじゃん!」


「失敗作の物も面白かったですよ。

 鉄の棒なのに、握ると、こんにゃくみたいにふにゃって曲がるんです」


「なにそれ?」


「で、こうやってぶんぶん振りますよね。手に当たるじゃないですか」


「だね」


「持っている私は全く痛くも何ともないんですけど、カオルさんに当ててみたら、がつん!」


「おお!」


「長かったら、あれは凄い武器になりますね。

 自分に当たっても何ともないですから、適当に振り回せば凄い鉄の鞭」


「そうか! すごいね、魔力の金属って・・・他にもあったの?」


 ふ、とマサヒデが苦笑して、


「どうしようもないのがありましたよ」


「どんなの?」


「握ると滑り落ちるんですよ。持てないんです」


「ええ!? それじゃ使えないじゃん!」


「そうなんですよ。どう考えても使い道が思い浮かばない」


「でも、武器としては使えなくても、面白いね」


「ええ。金の魔力は変な動きが多いって言いますし、きっと他にも色々出てきますよ。楽しみです」


「どんなのがあるかな?」


「想像もつきませんけど、ほら、あの洞窟の奥の穴」


「あ! あの変な穴か! 松明がぐいっと横に飛んでったって」


「あのような力も出るかもしれませんね」


「おお・・・実際に見てないから良く分かんないけど、面白くなりそう!」


 うきうきしながら、マサヒデとシズクが通りを歩く。


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