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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十二章 武士道、騎士道
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第597話


 魔術師協会、居間。


 マサヒデ、マツ、カオルを前に、ラディが座る。


「こちらです」


 ささ、と出された包み。

 開けると、4本の鉄扇の親骨。


「なぜこんなに早く?」


「鉄にはせず、うちの炉でそのまま溶かし、鉄に混ぜてみました」


「ああ、なるほど」


「これは成功では、と言えるものが1本」


「ほう!」


 ラディが1本の親骨を指差す。

 小さく刻みが入っている。


「これが成功の物で・・・

 同じ量を混ぜてみたのですが、他はどうにも」


「へえ・・・」


「失敗作の方は危険はありませんので、まずお試し下さい」


「はい」


 端の1本を取って、握ってみる。

 マサヒデが首を傾げて、


「どうやったら力が出るんですか?」


「握って、少し集中してみて下さい。

 意識する程度で構いません。力が出ます」


 軽く握ると、ふにゃっと曲がってしまった。


「ええ!?」


 先が垂れ下がり、くんにゃりと曲がる。

 マツもカオルも驚いてマサヒデの手の鉄の棒を見る。

 指先で摘んで、曲がった棒の先を持ち上げてみる。


「何だこれ・・・」


 持っている手にはしっかり鉄の感触と重みがあるのに、何故か曲がる。

 不思議な感覚。

 軽く手を振ると、ばちん、ばちん、と手に当たる。

 だが、当たった所に鉄の重い感触が全く無く、痛くない。


「不思議だなあ・・・」


「当たっても痛くありませんよね。

 カオルさん、手を出して下さい。

 マサヒデさん、軽くカオルさんの手に当ててみて下さい」


「はい」


 ひょいと振って、カオルの手の平に。


「あいた!」


 驚いてカオルが手を引く。


「ええ!?」


「ご主人様! ずしんときますよ!? 太い鉄線のような!」


「いや、まさか!」


 ぶんぶん手を振る。

 ばちばちと手に当たるが、全く痛くない。


「おかしいなあ・・・私は全然痛くないんですけど」


「置いてみて下さい」


 言われるままに置くと、ぴしっと真っ直ぐに戻る。


「おお!?」


 マツがにっこり笑って、


「うふふ。これは面白いですね! 宴会芸とかに使えるかも!」


「う、ううむ・・・」


「次はこちらを」


 ラディが隣の棒を差し出す。

 ほいと取って、するり。ごとん。


「あ、しまった」


 握る。落ちる。持てない。


「ええ? 何だこれ?」


 指先で摘んでみる。しっかり鉄の感触。

 そのまま手に乗せて握る。滑る感覚はしないのに、落ちる。


「・・・持てないじゃないですか」


「はい」


 カオルが膝を進めて、


「あの、よろしいでしょうか?」


「ええ、どうぞ。変な感触ですよ、これ」


 カオルが手を出して、指先で摘む。

 このままなら持ち上げられる。


「ふむ? この時点ではまだ落ちないですね」


 手の平に乗せる。まだ落ちない。

 握る。する、ごとん。


「えっ?」


「ね? ね? これ変でしょう!? しっかり握っているのに、滑る感触はしないのに、何故か落ちていくんですよ!」


「はい・・・」


「ほら、マツさんもこれ持ってみて下さいよ!」


 マサヒデが指で摘んでマツの手の上に乗せる。

 くいっと握る。こてん。


「あら! うふふ。これも面白いですね!」


 マツがにこにこしながら、摘んで握って落とし、摘んで握って落とし。


「次はこちらを」


「はい・・・これは何です?」


「伸びます」


「え!? それ使えるじゃないですか!?」


「試してみて下さい」


 おお、と握ってみる。


「ん?」


 にじにじにじ・・・

 ものすごくゆっくりと伸びる。

 気を付けて見ていないと、全然分からない。

 まだ半寸も伸びていない。


「ご主人様?」


「よく見て下さい」


 マツとカオルの方に手を出して、2人が顔を近付ける。


「ん?」「伸びては・・・おりますね・・・」


「ジャッキ代わりになるかと思いましたが、この細さでは」


「ううむ・・・」


 手を開くと、さっと元の長さに戻る。

 くす、とマツが笑って、


「やはり金の魔力は、面白い物が出来ますね」


「そして、こちらが使える物です」


 す、とラディが指で最後の1本を出す。


「どんな物ですか?」


 にや、とラディが笑う。


「大成功です。まずはご覧に」


 慎重に手を伸ばし、握ってみる。少し気にする程度で・・・

 ぱりぱりぱり!


「うわ!?」


 棒の表面に電が出て、驚いて落としてしまった。


「マサヒデ様!」「ご主人様!?」


 マサヒデは目を丸くして、


「あ、いや、何ともないです。驚いただけです。

 おかしいな? はっきりと雷が見えたのに」


「もう一度、どうぞ」


「はい」


 握る。

 ぱりぱりぱり! という小さな音と、びかびか光る雷。

 恐る恐る、左手に当ててみる。


「ううむ、何ともないですね。

 やはり、持ち主には影響がないのか。

 いやしかし、さっきのは私も滑ったし・・・」


 ラディがにやっと笑って、カオルを見る。


「それ・・・やはり持っていない人は痺れるのでは?」


「はい」


「嫌です!」


「実際の強さが分かりませんと・・・

 本当に使えるかどうかは、やはりご確認が必要では」


 マサヒデとマツがカオルを見る。

 カオルが目を逸して、


「・・・分かりました」


 カオルがいやいや左手を上げる。


「では、行きますよ」


「は」


 とん。びりっ!


「ああっ!」


 驚いて、カオルがびくっと手を引く。

 少しして、手を握ったり開いたり。

 あれ? と首を傾げて、


「いや・・・驚きましたが、それほどではありません。

 少し痺れはありますが、特に支障をきたす程でも。

 この程度なら刀も握れますし、足に入っても普通に走れると思います。

 余程に長い時間、押し付けられなければ平気では?」


「あの」


 マツが小さく手を挙げる。


「ん、何でしょう」


「魔神剣のように、雷が飛んだりはしないんですか?」


「おお、そうですね。それなら、十分に使えそうですが」


 ぶんぶん振ったり突いたりしてみるが、何も無い。

 魔剣を握った時のように、ぐっと集中してみるが、何も無い。

 ただ、手の中でぱりぱりと小さな音と強い光を出すだけだ。

 ラディの方を向いて、


「飛ばないですね?」


「はい」


「・・・」


 カオルが腕を組んで、


「これが成功ですか?」


「はい。これでどんなに暗い所も安心です」


 あ! とマツとカオルが顔を見合わせる。


「おお! 確かに! 松明なんていらないですね!

 こんなに小さくて、すごい光ですからね!」


「雷で火を着ける事も出来ますが、松明のように簡単に燃えたりもしません。

 とても安全な松明です」


「あ、そうか! これ凄いじゃないですか!」


 ラディが頷いて、


「この金属で雷が出ると、どういう具合かというのを見る事が出来ました。

 失敗した3本も、どのような力が出るのかを見る事が出来ました。

 金の魔力、まだ色々あると思いますが、溶かして、また作り直してみます」


「ぐんと勢い良く伸びたり、大きく雷を出せれば、強力な武器になりますね」


「はい。しかし、刀にして打つのは、やはり賭けが過ぎます。

 先ほどご覧の通り、わけの分からない力が出ますし・・・

 混ぜれば、質の悪い刀になってしまいます。

 かといって、良い鋼にするには大量の貴重な鉱石が必要です。

 このような小さな鉄の棒、刀の鍔や、目貫で作ってみようかと」


「分かりました。宜しくお願いします」


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