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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十二章 武士道、騎士道
595/762

第595話


 一方その頃、職人街。


 ホルニ工房に、3人。

 ラディ、ホルニ、イマイ。

 イマイが珍しく刀を差し、手に赤錆びた色の鉱石を持っている。


「おお・・・こっ、こっ、これか・・・」


「はい」


 ごく、とイマイの喉が鳴る。


「どのくらい、鉄が出来るかな」


「一般的な鉄であれば、多くて半分。少なくても2割」


「多くて半分、少なくても2割・・・

 これで、どれだけ出来るかな・・・

 あと、どのくらい掘れるかな・・・」


「どれだけ出来ても、まず試してみないことには・・・」


「だね・・・でも、僕は成功すると思うな」


「どうしてそう思います」


「魔力がこもった鉱石って、みんなぴったり同じ量の魔力があるんじゃない。

 鉱脈によって違うはずだよ。じゃあ、理屈では混ぜても平気」


「なるほど」


「理屈では、の話だけどね。魔力って良く分からない所あるし。

 で、この理屈が通るとして。

 当然、強い弱いは出ると思うけど、それもどんな力かで気にならないね」


「と言いますと?」


「これは金の魔力だからさ。例えば雷の魔術。

 強いにこしたことはないけど、弱くたって、びりっとくる。

 相手を少し痺れさせちゃえば良いんだ。

 気を失うほど強くなくたって、それで勝ちだもの」


「・・・」


「連続して放つ事も出来なくて良い。

 1発、ばしん。相手は痺れる、動きが止まるね。

 次に放つまで間が空いたって平気だ。相手は止まる、痺れる。

 動けても、雷で痺れた後なんて、まともに動けやしない。

 恐ろしい得物の誕生だね。1対1ならもう負け無しだ」


「ううむ・・・」


「それにしても、混ぜれば良いって、良く思い付いたね。

 精錬途中に出たクズも全部使おう。

 実験なんだから、ノロ(製鉄途中に出る不純物)も混ぜちゃおう。

 良い鋼に綺麗に混ぜれば、ある程度は使えるんじゃない?

 あまり刃物には使えないけど、鉄扇の骨とかなら十分だ」


 こと、と慎重に鉱石を置く。


「ホルニさん。高いとは知ってるけど、実際の相場はどのくらい?」


 ホルニが親指、人差し指で小さな円を作り、


「この程度の大きさ、使えないようなクズ鉄でも、金貨2、30枚」


「この大きさなら、何百枚、か・・・」


「はい」


 慎重に箱に納め、しっかり紐を縛り、腰から鎖を伸ばして縛り付ける。


「行きましょう。護衛を頼みます」


「・・・」


 イマイは小さく首を傾げ、顎に手を当ててじっと箱を見る。


「どうされました」


「いや・・・あのさ、今回は実験。試し打ちだよね。

 クズも全部使うなら、別に綺麗に鉄にしなくても良いかなって思って」


「どういう事でしょう」


 イマイが火事場の炉を指差す。

 ホルニとラディの目が炉を向く。

 失敗した物や、クズ鉄などを溶かす小さな炉。


「あ」


「あれで溶かしてやれば良いんじゃないかな?」



----------



 冒険者ギルド、訓練場。


 冒険者達が立ち会う所を、マサヒデが歩いて回る。

 足を止めて、


「それではいけない。攻防一体を心掛けて、柔らかく」


 がつん、と剣を弾かれた冒険者を止め、場所を変わる。


「打った。弾かれた。ここで踏ん張ってはいけない。

 そのまま弾かれてしまいなさい。

 柔らかく、円の動きを心掛けて」


 前に立った冒険者に、


「そのまま守っていて下さいね」


 マサヒデが同じ軌道でゆっくり木刀を袈裟に振り下ろしていく。


「ここで弾かれても、弾かれた勢いでそのまま回して・・・」


 弾かれた木刀がぐるんとマサヒデの頭の上を回り、反対側から相手のこめかみで止まる。


「こう。こめかみの骨は薄い。兜を被っていてもがつんとくる。

 当たれば簡単に頭を揺らせます。

 大剣や鈍器でなくても、普通の剣なら十分いけます」


「はい!」


 木刀をこめかみから離して上げ、


「ここで剣を回すだけでなく、背中も使う。

 振り下ろす時に、肩甲骨をすとんと落とすように。

 落とす力も加わって、より速く、より重い一撃になります」


「はい!」


 受けの冒険者の方を向き、


「受ける側も全く同じ。受けた勢いで剣を回せば、全く同じ動きになる。

 ならば上手く回せた方の勝ちですが、ここで勘違いしないように。

 上手いとは、速さではありません。鎧相手は重い一撃が大事。

 これは所謂、介者剣術。取るか、取られるかです。

 兜を被っていなくても、軽い一撃では大して斬れず揺らすだけで終わる。

 数瞬遅れても、重く入れば取れる」


「はい!」


 場所を変わって、立ち会う冒険者達の間を歩いて行く。


「違う! 回すのではなく巻く! 巻けば何処からでも突きが入る!」


「上体だけで避けない! まず足運びからです!」


「槍はしごく! 相手を追って行くのです!」


「3寸です! たった3寸の動きで確実に避けられます!」


「流してから斬るのではない! 流しながら斬る! 一体の動きです!」


「押さえるだけでは駄目! 押さえた後! 返されないように!」


「不足です! 決まった後も剣先は相手に向けたまま!

 確実に動けないと分かるまで、剣は向けたままです!」


「先手が有利ではない! 後出しで取れれば確実に勝てる!

 後手こそ有利! 遅れて有利です!」


「力の方向を変えるだけ! 円の動きを心掛けて!」


 びしびしと声を掛けながら、歩いて行く。

 もう昼近い。皆もバテてきた。

 足を止めて、


「ここまでにしましょう!」


「「「はい!」」」


 ふう、と息をついて、冒険者達が座り込む。

 少し待って、マサヒデが声を掛ける。


「私の注意を聞いていて気付いた方も多いと思いますが・・・

 円の動きが大事です。例えば、弾かれた勢いで回して反対側から。

 剣も足運びも円で動く。これで表裏一体の攻防になって、確実に勝てる」


「「「はい!」」」


「ただし! これは剣対剣までの話。

 さらに、実戦はこんなおとなしい道場稽古とは違います。

 相手は何をしてくるか分からない」


 これがおとなしい・・・

 実戦経験のない者は肩を落とし、ある者は頷く。


「何か飛ばしてくる。目を奪う。魔術を使ってくる。

 弓、鉄砲で、気付かぬ遠くから。隠れて闇討ち。待ち伏せ。

 直接戦わずとも、毒を盛られる、何か盗まれる。実戦は違うのです」


 マサヒデが頷いている者達の顔を見る。

 皆、実戦を経験してきた者達。

 やはり目が違う。


「そして、貴方がた冒険者という仕事は、基本的に何人か組になって動く。

 ならば相手もそう。1対1なんてそうはない。

 それで勝つ為には・・・」


 ぶん! とマサヒデが木刀を振る。


「まず実戦に即した柔軟な思考!

 次に、それに合せて動く事が出来る連携力!

 最後に、連携力を上げる為の、一人ひとりの技術力!

 分かりますか。各人の技術力は一番下です」


 マサヒデが少し俯き、


「私の稽古は、皆さんの剣の質、一番下の技術力を磨く事しか出来ません。

 残念ながら、実戦経験の少ない私には、それしか教えられないのです。

 しかし、剣の立ち回りは、連携の仕方に少しは繋がると思います」


 すたすたと歩いて行って、冒険者の槍を拾う。


「例えば剣と槍。どちらも一長一短。

 飛び込まれれば、剣が有利。

 飛び込まれなければ、槍が有利。

 まあ、当然の事ですが・・・」


 槍を冒険者に戻し、


「自分の有利不利を心得た上での動き。これが剣術の動き。

 では、それを心得た上での動きならば、何かしら連携にも使えるはず。

 こじつけに聞こえると思いますが、実戦経験のある方は分かると思います」


 ううん? と首を傾げる者もいれば、深く頷く者もいる。


「こういう時に自分の身体はこう動いた。

 人の身体は、頭、胴、手、足・・・もっと細かく、目、指、爪、髪・・・

 まず、自分の組で自分はどれにあたるか。これを自覚しましょう」


 木刀を指差し、腕を指差し、足を指差し・・・


「さらに、上手く連携の取れる方々は、各々の役割が自在に変わる。

 こうなってくると、もう手が付けられない。

 例え一人ひとりの腕が私に遥かに劣ろうとも、私では絶対に勝てない」


 横を向いて、ひゅん! と一振り。


「先ほど言った通り、私は剣術しか教えられませんが・・・」


 冒険者達の方を向き、


「色々な動きを、皆さんの組の動きに当てはめて考えてみて下さい。

 私程度では考えもつかない動きが、皆さんなら必ず思い付くはず。

 逆もまた然り。連携から、剣の動きが思い付く事もあるでしょう。

 私の稽古から、剣術のみならず、何か使える物が見つかれば幸いです」


 木刀を納めて、頭を下げる。


「本日の稽古はこれまでとします」


「「「ありがとうございました!」」」


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