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勇者祭  作者: 牧野三河
第四十二章 武士道、騎士道
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第593話


 翌朝。


 朝餉を食べながら、話が弾む。

 一晩経ってみたら、クレールもカオルも落ち着いてしまった。


「どんな鉄扇になりますかねえー。楽しみです!」


「何か模様など出ると面白いですね。あれは無地ですし」


「おお! それは面白いですね!」


「骨に雷の模様など出たりするのもまた・・・」


「良いですねえ!」


 うむうむ、とクレールが頷く。

 2人の様子を見て、マサヒデが小さく笑う。

 昨日はあれほど驚いていたのに。


 ぼりぼりと最後のきゅうりの浅漬を食べて、手を合わせる。


「ごちそうさまでした」


 ごくっと茶を飲むと、カオルが茶を注ぐ。

 あ、とクレールが膳から顔を上げて、


「マサヒデ様。お聞きしたいことが」


「何です? あの鉄の使い道ですか?」


「いえ、違います。武士道ってどういうものですか?」


「は?」


 唐突な質問に、マサヒデはぽかんと口を開けてしまった。


「武士道?」


「はい」


「なぜそんな事が知りたいのです」


「先日、武術家と武芸者、武道家の違いを聞きましたけど、それで気になりました。武士道って何でしょうか?」


「もしかして、昨日道場に行ったのは、父上に聞きに行ったんですか?」


「はい」


「父上は何と?」


「知らないと」


「ふふ、まあそうでしょうね」


「騎士道なんてのもあるじゃないですか。何が違うんでしょう?」


「大して変わりはしません。クレールさんは歴史が好きでしょう」


「はい」


「昔の戦争の話とか読めば、武士や騎士がどんな者だったか大体分かります。

 武士道って、騎士道ってこれか? ってなると思います。

 私の場合、一言で言うと、自己満足と・・・ううん、利益? です」


「自己満足と利益?」


「自分が守りたいものの為になら剣を抜く。それだけです。

 家族。友人。仲の良い方。自分の命。それが私の自己満足と利益。

 人によっては、さらに名誉や地位、財産とかですか」


「それだけですか?」


「はい。少なくとも、私の武士道はそれだけです。

 いや、そもそも私は武士ではなく浪人なので、浪人道ですかね。

 騎士道も同じようなものだと思います」


「はあ・・・」


「カオルさんはどうです?」


 ん? とカオルが少し首を傾げ、


「私の武士道ですか? 私はそもそも忍ですが・・・

 まあ、似たようなものですね。

 違うのは、私は、主の命とあれば必要なくとも誰のでも・・・」


 と、首の横に手を当て、


「という所だけです」


「おお。カオルさんの方が理想的な武士道してますね」


「ううん、良く分からないです」


「門番さんや衛兵さん、奉行所の方々に尋ねてみては如何です。

 ああ! こういうのはアルマダさんの得意分野ですよ。

 ついでに、また歴史の勉強でもしてきては?」


「はい!」


「ふふ、武士道というのが分かれば、刀は武士の魂って言葉も分かりますよ」


「ああっ! それよく聞きますね!」


 マサヒデは刀架を指差して、


「ははは! 私には4つも魂がありますよ!

 父上なんか蔵にもいっぱい! いやあ、大変な事です」


 クレールは感心して、深く頷き、


「ううん、蔵いっぱい・・・大変ですね・・・流石はお父様です」


「ははは!」



----------



 1刻後、郊外のあばら家前。


「なんで私なのお?」


 シズクが不満そうな顔でクレールに尋ねる。


「シズクさんも勉強しましょうよ! マサヒデ様に負けてしまいますよ!」


「別に勉強で負けてもいいよ」


「では、騎士様達の稽古のお相手を頼みます」


「そうする」


 かさかさと草を分けて入って行くと、アルマダが騎士達と打ち合っている。


「おはようございます!」「おはよーうございまーす!」


 お? とアルマダが手を止め、ひょいと騎士の打ち込みを躱して、上から剣を押さえる。


「はい、一旦休憩です」


 ふうー、と騎士達が息を吐いて、座り込む。

 すたすたとアルマダが歩いて来て、


「クレール様、おはようございます。朝からどうされました」


「お聞きしたいことがあるのですが」


「私に分かる事であれば」


「武士道ってどういうものですか?」


「は?」


 アルマダがぽかんと口を開ける。


「騎士道って、なんでしょう?」


「はあ・・・武士道、騎士道ですか・・・」


 ああ、とアルマダが頷いて、


「そうか。魔の国はずっと魔王様の絶対王制だから・・・

 魔王様の国で、武士道、騎士道なんてものは、必要なかったのか・・・

 ううむ・・・なるほど、面白い」


 アルマダが腕を組み、興味深そうに考え込む。


「何か、絵物語やお伽話でも読んだのですか?」


「それもありますけど、先日の武術家、武芸者、武道家ってお話で。

 では武士道ってなんだろうって。

 お父様も知らないって言うんです」


「マサヒデさんは何て言ってました」


「自己満足と利益だって」


「ははは! マサヒデさんらしい! さあ、お入り下さい」


「はい!」


 アルマダに続いて、クレールとシズクが入り、3人が縁側に座る。

 庭で4人の騎士が座って休んでいる。


「彼らは騎士ですね」


「はい」


「彼らは、どうして私の騎士になったか知ってますか?」


「いえ、聞いてません」


「彼らは冒険者仕事をしながら、何年かに一度、私達貴族に勇者祭に雇ってくれと申し出てくる方です。良く言えばベテラン。悪く言えば、未だに勇者になる夢を捨てられない子供」


「なるほど」


「武士道も騎士道も、歴史によって大きく変わってきますので、これが正解というのはありませんが・・・クレール様、騎士と言うと、どんな方ですか?」


「身分の高い者の護衛です」


「ほう。クレール様の見解だと、騎士はそういう者ですか」


「主君の側で護衛をし、報酬として階級と給与を与えます。

 貴族と違って、領地を持たない代わりに、給与が出ます。

 貴族と騎士の両方の階級を持つ方もおられますけど」


「ふうむ、その辺りは人の国の騎士とほぼ同じですね。

 ところで、クレール様にはお付きの忍の方々がおられますね」


「はい」


「彼らには世間に知られる階級はないですが、給与は出ていますよね」


「はい」


「護衛ですよね」


「はい」


「階級を除くと、騎士とどう違うのでしょう」


「表に出ない所でしょうか」


「まあ、正解・・・でしょうか・・・

 ふふ、私から尋ねて、正解がよく分からないというのもなんですが」


「よく分からない?」


 アルマダが苦笑して、


「そうですね。例えば、騎士道に則った騎士って、どんな騎士ですか?」


「ええと・・・優しくて、名誉を重んじる・・・主に忠義深くて・・・」


「ふふふ。絵に描いたような理想の騎士像です。

 ですけど、騎士の実像は違います」


「どう違うのでしょう」


「初期の騎士とはどういった者だったか。

 戦時には他国の村々を焼き払い、略奪、虐殺、レイプ、窃盗は当たり前。

 金属が必要なら寺社教会を襲い、鐘や仏像まで持って行く」


「ええっ!?」


「当然、戦時ですから、それで主から褒められる。褒美まで出るんですよ」


「ええー! そんな、そんな事をして!?」


「そうですとも! ひとつの町、村を潰せば、国力を減らせる、軍事力も減る。

 兵と戦わず、危険も少なく、相手の国を取りやすくなる。実に効率的です。

 さらに、裏切りなんてしょっちゅうです。

 現在自分が仕えている所よりも待遇が良く、将来性があると見れば、簡単に鞍替えします。武士も全く同じでした」


「それが、それが武士!? 騎士!?」


「そうです。魔の国は、ずっと昔から戦という戦がありませんからね。

 クレール様から見たら、こんな野蛮な文化、想像もつかないでしょう?

 大体、人の国はバラバラで、今も戦をしている所があるんですから・・・」


「・・・」


「で、裏切られたら困る。何とか忠義が欲しい。

 国力の低下は困るから、戦に関係ない一般人を殺されたくない。

 そうして生まれたのが、武士道と騎士道の精神と言う名の『教育』です。

 極端に言えば、洗脳と言っても良い」


「えーっ!?」


「広く一般に広がったから、もはや当然の文化と言うべきものになりました。

 このルールに則らなければ、堂々と糾弾出来る。裏切りも出づらい。

 いやあ、昔の方は賢いものですね」


「それが・・・武士道? 騎士道?」


「ふふふ。人の国の文化って面白いでしょう。

 魔の国の方々は、野盗や盗賊でなければ、そんな事しませんからね。

 元々、武士道や騎士道なんてもの、必要なかったんでしょう」


「はあー・・・」


「さて、もう一度彼らを見てみましょう」


 アルマダが休憩中の騎士に目をやる。


「彼らは勇者祭が始まって、私の騎士になりましたが・・・

 何故、知りもしない私の騎士になったと思います?」


「ええと・・・ハワード家の名声でしょうか・・・」


「それもありますが、そんなのは小さな理由です。

 私を選んだ理由は、大きくふたつ」


「なんでしょうか」


 ふっとアルマダが笑って、


「サクマさん! こちらへ!」


「はい!」


 サクマが立ち上がって、アルマダの前に歩いて来る。

 アルマダが嫌らしく笑って、


「サクマさんが、勇者祭で私の騎士になった理由を確認します。

 ひとつ。良い装備がもらえ、賃金が高い。要するに金。

 ふたつ。私が剣の腕が立つという噂を聞いて。

 これは武術への興味などではなく、より自分が安全だから。

 くっついて適当に手を貸しているだけで、勇者になれるかも・・・

 どうです? 合ってますかね?」


「う! いや、まあ・・・ぶっちゃけてしまえばそうですが・・・」


「え!? ええー!?」


「アルマダ様、クレール様の前で、そんな話はご勘弁下さい」


 サクマが気不味い顔で目を逸し、アルマダが笑う。


「ははは! クレール様、どうです! これが騎士ですよ!

 雇われだからなんて関係ありません!

 絵物語の騎士よりも、全然騎士らしい!」


「・・・」


 ばつの悪い顔で、サクマが下を向く。

 これが騎士・・・

 本物の騎士・・・


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